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12年前の未来予想は実現しているのか検証してみた

こんにちは。UIチーム デザイナーの門田です。

今回は、12年前に予想されたガジェットやテクノロジーにまつわる私たちの生活の未来を見ながら、予想が実現しているのか、現実の世界は一体どうなったかを検証していきたいと思います。

検証していく未来予想は「Microsoft Productivity Future Vision」という動画で、2009年に制作されたものです。動画内で描かれている未来は当時の10年後である2019年の設定です。私はこの動画を実際に2009年に見て感銘を受け、ずっと頭の片隅に置いて生きてきました。そこから10年以上経った今、現実世界は追いついているのか、追い抜いているのか、はたまた全く違う方向に行っているのか、比べてみたいと思います。

動画はこちらです。

 

1. テレプレゼンス、教育のデジタル化

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未来予想では、教室で子どもたちが大きなスクリーンを前にして等倍で表示された他国の学校の生徒とコミュニケーションをとっています。その際、自動翻訳がされたり、描いた絵が動き出したりしています。教師は遠隔地からタブレットを使って学習の記録を確認しています。
実際の世界では、2020年、新型コロナウイルスのパンデミックによって多くの学校でリモート授業が取り入れられました。自宅から「Zoom」などのビデオ通話アプリを使って授業を受ける、というかたちです。自動翻訳ができるアプリもありますし、映像内のようにインタラクションやギミック的なことも、ARフィルター機能や「mmhmm」などで楽しむことができるようになりました。2021年には、よりリアルなビデオ通話を実現する方法として「Google Project Starline」というテレプレゼンス技術が発表されました。3Dディスプレイを使ったバーチャル対面システムで、相手の姿が立体的かつ等身大で表示されます。

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一方で、教師が子どもたちのICTを使った学びを見守るという面は、「Apple Classroom」や「Schoolwork」というサービスによって実現されています。これらのサービスでは、生徒たちの学習用端末の管理や、書類の配布、課題の進捗確認などができるようになっています。

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2. 透明ディスプレイとベゼルレス、ジェスチャー操作

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未来予想では、各所に透明ディスプレイを使ったデバイスが登場しています。窓に直接情報が表示されていたり、パソコンやタブレットのディスプレイが透明だったり。未来感を醸し出すために透明ディスプレイを使っているような印象も受けましたが、未だにロマンは感じてしまいます。
実際の世界では、透明ディスプレイは技術的には存在し、イベントやサイネージなどで活用されているようですが、パソコンやスマホなど身近なデバイスには普及しませんでした。LGやパナソニックは商用の透明OLED(= 有機EL)ディスプレイを販売、2020年にはXiaomiが一般消費者向けとして初となる透明OLEDテレビを発売しています。

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また、未来予想に出てくるディスプレイのすべてにベゼル(枠)がないように見えます。1枚の板そのものが画面になっています。
現実世界でも、2017年の「Essential Phone」や「iPhone X」を皮切りに、一気に(ほぼ)ベゼルレスのデバイスが増えました。今では最後の課題であるインカメラの配置に対して、画面上部を切り欠くノッチやパンチホール、背面カメラを物理的に回転させてインカメラとして使う機構、画面の一部の画素密度を低くし画面下にカメラを埋め込む技術など、各社様々な手法を模索しています。スマホのベゼルレス化に伴って物理ボタンによる操作は減り、ジェスチャー操作を行うことが増えました。
未来予想では、デスクトップPCを空中で手を動かすことで操作するシーンが出てきます。映像が作られる前の2006年時点でWiiなどの例はありましたが、リモコンが必要でした。
現実世界では、空中での操作は一般的ではありません。シンプルに腕が疲れると思いますし、長時間や細かな操作には向かなさそうです。技術的には「Leap Motion」や「Kinect」といったセンサーで未来予想と同じようなことが可能ですし、Googleのスマホ「Pixel 4」には「Soliレーダー」という電波を使って空中ジェスチャーを認識する技術が搭載されています。

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3. タスクによって変形するスマホ

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未来予想では、空港で男性が電話をするシーンで、分離・合体するスマホが描かれています。分離した片方を耳に当て受話器とし、もう片方はビデオ通話を見るために使っています。その際、字幕による自動翻訳もされているようです。通話が終了し、受話器として使用していた方を本体にくっつけると、1つの大きな画面として動作し、重ねるように折りたたむこともできています。
実際の世界では、近い考え方のデバイスがいくつかあります。2019年に発表された「LG G8X ThinQ」は、画面付きケースを装着することで2画面になるスマホです。「Microsoft Surface Duo」は分離こそできませんが画面を360度畳むことができます。未来予想を超えているのが、「Galaxy Fold」や「HUAWEI Mate X」といった折りたたみ(フォルダブル)スマホです。画面そのものを折ることができるのは、最初に見たとき感動しました。さらに面白いのが「OPPO X 2021」というローラブルスマホのコンセプト機です。一見普通のスマホですが、画面が本体内に巻物のように格納されており、画面を引き伸ばすことができます。

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4. デバイス間のシームレスな連携

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未来予想では、ミーティング中にスクリーンに写す情報をタブレットで操作していますが、1回のスワイプ操作だけで情報を転送しているように見えます。
デバイス間でワイヤレスで情報を転送するという意味では、iPhoneやiPadでお馴染み「AirDrop」やAndroidの「Nearby Share」が近いと思います。今でこそ当たり前のように使われているAirDropですが、2009年時点ではまだ存在していませんでした。最近だと、Apple製の異なるOSのデバイス間でカーソルを行ったり来たりできる「Universal Control」という機能も生まれています。

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5. 飲み物の温度が表示されるスマートマグカップ

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未来予想では、コーヒーが入っているマグカップの表面に温度が表示されて、飲み頃であることがわかるようになっています。
実際の世界では、入れたものの温度を保ちカフェイン量の計測なども可能な「Ember 10 oz.Temperature Control Mug 2」があります。スマホと無線接続してコントロールすることができます。製品単体でなくスマホを連携して使うガジェットは、スマホが普及しきった時代だからこそ成り立っていると言えると思います。

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6. スマート新聞紙

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形は普通の紙の新聞のようですが、GIFのような短い動画が表示されていたり、スワイプして記事を送る様子が描かれています。
実際の世界では、未来予想に登場するような新聞やデバイスはありませんが、ソフト面ではスマホやタブレットのニュースアプリがこれにあたると思います。「Apple News+」や「スマートニュース」など、新聞社がデジタル版の記事を配信することは一般的になっています。ハード面では、電子ペーパー(E Ink)が近いと思います。電子ペーパーは液晶ディスプレイや有機ELディスプレイにとはまったく異なるディスプレイで、表示している状態では電力を消費せず表示切り替え時にのみ電力を消費するため、バッテリー持ちが非常に良く、現在は主に「Kindle」といった電子書籍リーダーに使われています。その特徴から動画など動きの激しいコンテンツには不向きで、色はモノクロであることがほとんどですが、カラー表示ができるものも開発されています。

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7. かざすと植物の情報がわかるデバイス

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植物に透明なタブレットをかざすと、その植物に関する情報が表示されています。
これはアプリというかたちで完全に実現したと言っていいと思います。「Google Lens」や「ハナノナ」がこれに相当します。特にGoogle Lensでは、AIやコンピュータビジョンの発達により、植物だけでなく動物や建物、本や文字といったあらゆるものが高精度で認識可能で、ウェブ上の情報、画像などを出してくれます。

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12年もあれば結構実現するのだなあと思いました。印象的なのは、未来予想では用途に特化したデバイス(単体で完結するデバイス)がいくつか描かれていましたが、実際にはあらゆる機器がスマホと連携することを前提としていることです。アプリとして実現した、ということも多く、10年代にどれほどスマホが普及し生活の基盤となったのかを思い知らされました。

次の10年ではどんなものが生まれ、どんな変化が起こるのでしょうか。これまでの10年でスマホが生活の基盤になったように、ARスマートグラスが普及したら面白いと思います。画面の制約を超えて、視界のどこにでもなんでも出せる世界。機械との接し方も、デバイスそのものや操作することをあまり意識しないアンビエントコンピューティングに向かうのかなと思ったりします。
一方で、今までの文明のありかたを変えなければならない時期でもあると思います。いかに自然と調和し地球を守り、人々の平穏な日常を守るのか。技術の進歩は人間の幸福のためにあります。高度な技術であればあるほど、使い手の意識やルール作りが重要になります。テクノロジーが、全人類と地球と地球に住む生物のために使われることを願っています。

<Writing : UI Designer / Yutaka Kadota>

出典:
https://www.microsoft.com/
https://blog.google/technology/research/project-starline/
https://www.apple.com/
https://www.mi.com/
https://store.google.com/
https://www.huawei.com/
https://ember.com/
https://www.amazon.co.jp/
https://lens.google/intl/ja/

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