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踊り子   【完全読み切り版】

                            立川生桃
                                                    親愛なる K姉妹 へ ……


プロローグ


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昼下がりのプロバンスに『思い出』の烙印を押し……私は半生を賭け、この『思い出』を飼いならしてみたいと思った。

あの日。首輪から逃れたのは私のほうだった。

夜の美術館がこしらえた闇の迷路は三半規管を狂わせた。逆に闇に研ぎ澄まされた視覚は、目という器官を通してショートした。外へ出たのだ。印象派の燦とした青空と雲と、凛とした地中海の凪に散る光に私は壊れた。

                †【1】
名は伏せる。以下、載る名はすべて仮名である。コロナ禍の春。持つべきものは友で、私は希少な情報を得た。親友で論敵でもある仕事仲間のヴォラールは鼻も利くが、気も利く奴だ。

「君のお気に入りのあの絵の情報を嗅ぎつけた。有名なモノでないから皆後回しの情報だが、君には宝石みたいな情報だろ? もちろん、ぼくにとってもそうだが、あいにくぼくはジャーナリストから手を引いた。引退したんだ。『MIWA』。『踊り子』の真作が見つかったんだ。チケットも内密で手に入れてやった。来ないかい?」

なるほど。欧州某国の某私立ミュージアムが所蔵する『踊り子』の絵画が贋作であることを、館長は世界発信の前に先がけて、土地の名士にのみ伝えるという。が、その実、真作発表パーティーという名目で吹っ掛けた50名のパトロンへ披露宴を執り行い、高利を得ようというのが真意らしい。来月一日に発表するという。

私は渡航した。機中、美術ジャーナリストという職業柄、私は推測し検索した。およそ百年前当時の某美術館館長と入手先の画商等。

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