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ユーモレスク 7

 2章 オグリの基地

                            tatikawa kitou

ア「真っ暗じゃ。なんも見えん」
オ「手ぇを突っ込んでみィ。手前んとこに懐中電灯があるけぇ」

 アルツは右手を伸ばし地面に這わせた。

 筒状の物が手に触れそれを取り、スイッチを親指で手前に引いた。

 光が発射すると目前に外壁の黄土色と、その中心の先に闇の芯があった。アルツから先に中へ入った。頭から腹這いで入った。とにかくそれほど入口が狭く後からオグリが続いた。

ア「狭いっちゃ。窮屈じゃ」
オ「初めだけじゃ。途中から広うなる。我慢し。我慢じゃ」

 言う通りよく見れば、照らした灯の数メートル先がぼやけていた。ここより広い空間になっている証拠だとアルツは感じた。

オ「そうじゃ。あそこまでがんばれ。四、五メートルじゃ」

 後ろからオグリが檄を飛ばした。アルツが匍匐前進に進む。オグリも匍匐前進で続く。そうして、ようやくその広い空間に出た。立つことが出来る。万歳すれば手の平が天井に着いた。息を吸い込んだ。頬に風の粒子が当たっていた。目も慣れてきた。

ア「風はどこから来よう?」

 声が反響した。

オ「出口からじゃ」

 オグリの声も反響した。

 アルツが周りを懐中電灯で照らした。瞬きした。丸太の椅子が二つある。差し向いにその椅子へ座った。

ア「ひとやすみじゃ。ここはすごい基地じゃ。オグリ。よう見つけたのぅ。じゃが。ここを掘って作ったのは誰じゃろう? いったいどんな奴らじゃろ?」

オ「たった二人の子供じゃ。おれたちとおんなじ歳くらいの奴らじゃ。でも、片っぽは女の子じゃ」
ア「なして分かる?」
オ「最初ここに入った時、おれ手紙を見つけたんじゃ。アルツが今座っちょる椅子に手紙が置かれちょった。読んだけど、よぅ読めんかった。字が上手過ぎるんじゃ。昔の人は子供でも字がすごい上手いんじゃ。けど、おれ、女の子と男の子が一緒にその手紙を書いて、歳がおれらと変わらんことは分かった。名前の下に(十才)と書いちょった」
ア「ほかにはなんか書いてあったんか?」
オ「ああ。じゃが、今のおれじゃ分からん。いつかのおれじゃったら分かる時が来ると思う。今、アルツが手紙を見たら分かるかもしれんが、じゃが、手紙の最初に書いちょった。『初めにここを見つけた人にこの手紙をたくす』って。じゃけぇ、悪いがアルツにもその手紙は見せられん――」
ア「そりゃそうじゃ」

 少し深刻なオグリに、アルツはあっけらかんと放った。

ア「オグリ。いったいここはどこに通じちょん?」
オ「よしっ。こっからは広い。立って歩いて行ける。今度はおれが先頭じゃ。ついて来ィ、アルツ」

 勇むオグリが懐中電灯で前を照らし速足でムシムシ歩いた。路はわずか勾配ある上り坂だったが距離があった。アルツも負けじとついて行った。

オ「もうちょいじゃ、アルツ」

 だんだんとだんだんと闇が薄くなっていることにアルツも気付いていた。ふいにオグリが止まると懐中電灯が消された。もう視野はくっきり明るい。

オ「アルツ。上を見てん」

 天井を井形にホゾで組まれた丸太が被せられていた。その井形の隙間から光と風が洩れていた。

オ「着いたっちゃ。ここまでじゃ。あとは上がるだけじゃ。ええかアルツ。階段が三段あるけぇ気ィつけて上がるっちゃ」

 アルツから上がった。三段目で頭が天井の丸太にくっついた。オグリも天井に手を伸ばした。アルツの頭とオグリの手の平が天井を押した。丸太が外れた。アルツは顔をしかめた。眩しかったのだ。

「ケェーッ」

 キジの鳴き声を二人とも知っていた。

 正方形の出口の縁に手を掛け懸垂でよじ登った。アルツはバタバタと飛び立つ羽音だけを聞き、その姿は見なかった。オグリも懸垂で上がった。涼しい。風がそよいでいた。外へ出たのだ。アルツがグルリとあたりを見回すと、そこはクヌギ樹が取り囲む正円のオアシスのような空間であった。

 歩いた。やはり、一面の腐葉土を最近の落葉が覆っている。円の中心に老樹が三本立つ。その三本ともが幹の途中が黒く焼け焦げ、砕かれている。折れた三本の朽木は腐葉土の地面に横たわり、周辺にはその切片が散っていた。

 …それにしても、この空間を取り囲むクヌギ達はそのどれもが異様に太く、そして背が高かった。アルツが初めて見る巨木達。

「オグリ? ここはほんとうはどこなんじゃ?」

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