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最近よく聞く「尾ひれ『はひれ』」の「はひれ」ってなんだ

最近特にyoutubeなどを視聴しているとよく聞く「尾ひれ ”はひれ” 」という謎の言葉が気になる。

TVでもたまに使っている人がいて、直近ではテレビ東京のバラエティ番組「あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜」に出演されていたキングコングの西野亮廣さんが使っていたのを見た。

言いたいことはわかる。

正確には「尾鰭が付く」(尾鰭を付ける)という言葉である。

「(事実よりも)大袈裟になる」、いわゆる「話を盛る」と同じ意味。

それを「更に誇張された」とか「めちゃくちゃ話を盛られた」という意味で、「話に尾ひれ背びれがついて~」とか「尾ひれだけじゃない、背びれがついて胸びれがついて」という言葉が出来るのも理解できる。

でも「はひれ」ってどこだよ?

「尾鰭が付く」でグーグル検索すると、一番上に(プロモーション的な?)「尾ひれはひれ」が出てきてしまう。

だから「はひれ」ってどこよ?

検索するとyahoo知恵袋かなんか(曖昧)で「方言じゃなくて標準語、『羽ひれ』と書く」と堂々と嘘をついているページまであった。

だから「羽ひれ」ってどこなんだよテメーいい加減にしろ。

因みに、魚に「はひれ」という部位は存在しない。

はひれだか羽ひれだか羽鰭だかなんだかしらんが、方言にも(多分)ない。

魚にあるのは胸鰭(きょうき・むなびれ)、腹鰭(ふっき・はらびれ)、背鰭(はいき・せびれ)、脂鰭(しき・あぶらびれ)、臀鰭(でんき・しりびれ)、尾鰭(びき・おびれ)、頭鰭(とうき・あたまびれ)、尾柄隆起縁(びへいりゅうきえん)、小離鰭(しょうりき)である。

トビウオが滑空する時に使っているのは「胸びれ」であり、「羽びれ」ではない。

そして「羽ひれじゃなくて端ひれだと思う!」と主張するお嬢さんからのクレームも頂いた。
だから、どこなんだよそれは!笑
曰く、「なんかよくわかんないけど端っこにあるヒレが『端ヒレ』」だそうだ。なんかよくわかんないのはお互い様だけど、端っこにあるヒレには名前ついてんじゃねえかな、端っこがどこを指すのか知らねえけど。

まあこれだけでもなんなので、「はひれ(はびれ)」ってどこから来たんだ? という謎に着目する。

これについては「ねほりはほり(根掘り葉掘り)」から来ているのでは? という仮説を立てている。

(1)
「尾ひれ(が付く)」も「ねほりはほり」も「話」に関連する言葉であり、印象が似ていること。

(2)
ふたつとも「二語の結合」であり、くっついた部分の「ひれ」「ほり」が「は行+ら行」の言葉であること。
根掘り葉掘り→「ね・ほり」+「は・ほり」
尾ひれはひれ→「お・ひれ」+「は・ひれ」

(3)
「羽がついている(ように見える)魚」でなんだかインパクトのあるトビウオのイメージ。

この3つの印象の融合で出来た造語では、という仮説。
どうです。いい線いってると思いません? この仮説。

曖昧な言葉を、響きが似ている言葉でなんとなく喋ってしまう、という場面にはよく遭うし、誰でも身に覚えがあるだろう。

大学生のときに友人が「滅茶苦茶」とか「破れかぶれ」という意味で「満身創痍で」と言っていたり、30もとうに超えた友人が未だに「あらがう(抗う)」を「あがらう」と言っていたり、「なにはなくとも」を「浪速なく友」と書いたりしているので、「根掘り葉掘り」の連想(印象)から「尾ひれはひれ」と進化させても不思議はない。気がする。多分。


さて、「尾ひれはひれ」に限らずこういう誤用というのは最近耳につくようになっただけで昔からあるのだと思う。

「尾ひれはひれ」に関しては、少なくとも2000年代には「『尾ひれはひれ』という言葉を使う人がいるんだが……」と困惑している人(ページ)の存在が確認できる。

恐らく日常ベースで見ればもっと昔から存在はしているんじゃないだろうか。

書籍などでは当然校正者が弾くだろうし、そもそも90年代までで書籍づくりに携わる人間が使うような誤用ではない。一般人の間でどれだけ使われていてもそれが大衆の目に触れる事態にはなっていなかっただけで、局地的に使われていた可能性は十分考えられる。(マンデラ効果?)
実際、ブログのほうでは「私の母が使っていた(ので、昔からあるから正確な日本語である、というニュアンス)」という書き込みをいただいたりもした。いやだから昔から間違って使ってるんだってそれ。

ここまで読んでくださった方の中には、読みながら「でもさ、日本語って変わりゆくものだし……」「結構色んな人が使っているし、もう浸透してる言葉じゃないの」と思っていた人もいるだろう。

個人的な話で申し訳ないが、私は「誤用も日本語」論が大嫌いだ。

正確には「誤用を誤用とも認識していなかったくせに、誤用だと指摘されたらまだ現段階で誤用扱いされている日本語だというのに『誤用から正式に認められた日本語だってある、日本語はどんどん変わりゆくものだ』と居直る」やつが大嫌いだ。

尾ひれはひれにはその匂いがする。強気な開き直りの匂いがするのだ。

「はひれ」とかいう謎の部位、まだ市民権は得てねえからなと言いたい。


とはいうものの「尾ひれはひれ」もいずれ広辞苑にのる日が来るのかも知れない。最新版買ってないけど、もう載ってたら嫌だな。

私はこの「日本語にない」だけでなく「魚にすらない謎の部位」が「正確な日本語」になるのかと思うとげんなりしてしまう。

だが「話に、実際はなかったはずのことが脚色される」という言葉の意味から考えると、「魚には存在しない謎の『はひれ』という部位がつけられる」というのは案外よくできているのではないか、という気がしてきたりもするのだ。

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