見出し画像

魔王を倒すのは姫ですか?それとも執事ですか?

第一章

「魔王が復活したらしいぞ!」
村の酒場にひとりの男が大声を上げて入ってきた。酒場中がその声で痺れるように凍りついた。
「まさか……。そんなはずあるはずもねえ。お前、俺たちを騙そうとしてるんじゃないだろうな?」
真っ先に声をあげたのは、片腕のない剣士だった。途端、酒場内がざわめく。そうだ、この人物こそ、三年前のあの日、魔王討伐に出向き、魔王を屠った勇者ダイであった。
勇者は持っていた盃をテーブルの上に乱暴に置くと、凶報を持ってきた男に近寄った。
「い、いや、ダイさん……。違うんです、本当に魔王が復活しているんです! 封印された山から続々とこの平和になっていた村に魔物が降りてきていて……! つまりは、魔王がまた魔物を作り出しているようで……!」
そこまで聞いた勇者は顔から血の気が一気に引いた。今までの酩酊が全て解かれるように、酒場の外に出る。
「……その話がもし、本当なら……。俺はもう二度と戦えるような力は残ってないぞ……。あの三年前の戦で傷ついたこの腕には、もう、そんな力は……」
苦虫を噛み潰したような顔をして、魔王のいた山の方角を忌々しく見つめる。
「ダイさん……。どうしましょうか……」
その男が勇者に縋るように言う。勇者は、生唾を飲み込むと、
「……後継者を探すしかない……」
そう言って、酒場を出ていった。


ここは、ダブダブリュ国。その国には、高貴な姫が住んでいた。その姫の名はバニラ。このバニラ姫にはある特殊能力が備わっていた。
今日もそんな能力で暇を持て余す限り。仕立てのよいドレスを翻し、シャボン玉を片手に、ハイヒールを屋敷の階段に打ち鳴らし、屋敷の
二階から一階へ駆け下りながら、歌を歌っていた。

「あ~、世の中は私のもの~。手に入れられないものはないわ~。素晴らしき世界を誇らしく~。甘い歌で満たすの~」
「姫! ダメです! また眷属をいじめたら……!!」
「ふぁっ!?」
階段を昇っていた最中の狐の眷属が、姫の歌声を聴いた瞬間、すとんと寝てしまった。そのまま足を滑らせ、ズドドドドと一階まで落ちてしまった。手と足が変な方向に曲がっているように見えるのに、未だ眠りこけてしまっている眷属。
どうやらその歌声に晒されるたものは眠ってしまうという特殊能力があるらしかった。これも一種の魔法だということである。
「だーかーら言いましたのに……」
姫の執事であるデパが、深いため息をつく。
デパは狐の眷属、チユの身体を優しく抱き上げた。
「だってえ。チユを揶揄うの面白いんだもーん」
悪びれることもなく、楽しそうに言う姫。
「でも、唯一つまんないのは、デパがこれで眠らないってことなのよね」
ふん、と鼻息荒く、少し拗ねると、姫は持っていたシャボン玉を思い切りデパに吹きかけた。
「知りませんよ。私だけ効かないんじゃ、周りの面倒も結局私が見る羽目になるだけなんで、面倒でしかないですけどね」
「いーーーっだ! 今度来客を眠らせて遊ぶからいいもーん」
「またそんなことを! そんなことしたら、王様に顔向け出来ませんよ!」
「しらなーい」
姫はくるりと身体を翻すと、いたずらな笑顔のまま自室へ向かって歩いていった。
執事は眉を八の字にさせ、もう一度ため息をつくと、抱き抱えた眷属を姫の自室まで送って行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?