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ハトシェプスト女王葬祭殿3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦

新王国時代の幕開けとなる第18王朝は、トトメス3世やツタンカーメンなど有名なファラオが生きた時代であり、屈指の繁栄を誇りました。そして、この時代の基礎を築いたのが女性ファラオであるハトシェプスト女王であり、彼女の葬祭殿には功績の数々が記されています。

今回は、私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、エジプト・ルクソール西岸のデル・エル=バハリに造営されたハトシェプスト女王葬祭殿についてご紹介します。

偉大な女性ファラオ、ハトシェプスト

ハトシェプスト女王は、夫であるトトメス2世が早世した後、幼い継子トトメス3世の摂政として共同統治を行うようになりました。やがて彼女は父である前代のファラオ、トトメス1世の正当な王位の継承者であることを強調し、自らをファラオと宣言することで政治の政権を握ったのです。

Seated Statue of Hatshepsut, The Metropolitan Museum of Art
https://www.metmuseum.org/en/art/collection/search/544450

約20年間ファラオとして君臨したハトシェプスト女王は、身分の低い者からも人材を登用し要職に就かせたり、カルナック神殿のオベリスクを代表とする大規模な記念建造物の建築など、革新的な取り組みで人々を牽引しました。また、軍事遠征や戦争などを好まなかった彼女は、平和外交によって交易を行い、エジプトを平和で繁華に満ちた国へと導きました。

ハトシェプスト女王葬祭殿

ハトシェプスト女王のための葬祭殿は、側近であるセネンムトが指揮を取り、「王家の谷」の東側の崖下に造営されました。スロープで繋がった3層のテラスや、中庭や礼拝堂などで構成されており、その各所には女王が実際に行ったことやファラオとなる経緯など、さまざまな場面が壁画やレリーフとして残されました。

3階建てのハトシェプスト女王葬祭殿
アヌビス神の礼拝堂
The shrine to Anubis
Photo by Olaf Tausch via Wikimedia Commons (CC BY 3.0)

なかでも第2テラスにある柱廊の南側には、ハトシェプスト女王が行った交易の様子が描かれており、古代エジプト人は他国の人々をどのような姿として捉えていたのかという貴重な資料となっています。

交易の主な相手となったプント国の詳細な位置は未だ不明ですが、描かれている高床式の住居やヤシの木や、魚の種類から、現在のソマリアやエチオピア周辺に存在したと考えられています。大量の貢物と共に紅海を船で渡り、返礼として香料や金、象牙などを持ち帰るという旅路は長く危険なものでしたが、ハトシェプスト女王はその偉業を成し遂げ、エジプトに繁栄をもたらしたのです。

高床式の住居やヤシの木などプント国の景色が記されている
大量の貢物を載せて船で紅海を渡る様子

女王の誕生

柱廊の北側はハトシェプスト女王の誕生殿とも呼ばれており、なぜ女性であるにもかかわらず、「男性が王位継承権を持つ」とされた当時にファラオとなれたのかを自身の誕生にまで遡り、王位の正当性を説明しています。

物語調で刻まれたレリーフは、アメン・ラー神により母親のお腹に命が宿ったシーンから始まり、「ハトシェプスト女王はアメン・ラー神の娘である」と主張しています。

アメン・ラー神が母親に生命を与え、ハトシェプスト女王が誕生する
https://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/naville1896bd2/0046/image,info

そして、アメン・ラー神の命により、クヌム神とヘケト女神がハトシェプスト女王とその生命力「カァ」を創造するのですが、「カァ」には男性器が描かれました。これにより、女性の肉体と男性の魂を持つハトシェプスト女王は、男性の権利と女性の権利を持つためファラオになることが出来ると示唆しているのです。

クヌム神とヘケト女神がハトシェプスト女王の魂を創り出している
https://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/naville1896bd2/0047/image,info

アメン神の礼拝堂

最上階である第3テラス前の列柱廊には、ミイラとなりオシリス神となったハトシェプスト女王の巨大な像が立ち並び、神殿の最深部であるアメン神の至聖所を守っています。至聖所は最も神聖な場所であり、藍色の天体図が描かれたアーチ状の天井と豪華な壁画で飾られ、最奥にはアメン神の神像を納める部屋が造られました。冬至には太陽の光が至聖所に差し込み、美しく荘厳な雰囲気を醸し出します。

オシリス神の姿をしたハトシェプスト女王の彫像
Luxor (Egypt): temple of Hatshepsut
Photo by Marc Ryckaert via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
アメン神の至聖所
Barque hall of the shrine to Amun
Photo by Olaf Tausch via Wikimedia Commons (CC BY 3.0)

世界を、未来を、好奇心を、身近に

葬祭殿が物語る功績から見られるように、ハトシェプスト女王は野心的な統治と、女性でありながらファラオの地位を確立したことで、古代エジプト史上最も印象的な人物の一人として記憶されています。

トトメス3世の隣にはハトシェプスト女王が描かれていた
Djeser-Djeseru – Hatshepsut's temple
Photo by Hamerani via Wikimedia Commons (CC BY 3.0)

私たちワールドスキャンプロジェクトがこの葬祭殿の3Dスキャン調査を行ったのは、ハトシェプスト女王の偉大な業績と古代エジプトの建築美を将来にわたって保護し、世界中の人々がこの古代遺跡の美しさを体験できるようにするためです。

この取り組みを通して古代の遺産が語る物語を未来に伝え、それを通じて人々が過去とつながり、学び、感動することを願っています。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

ハトシェプスト女王葬祭殿についてはこちらの動画もご覧ください。


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