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セティ1世王墓3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦

第19王朝の第2代ファラオとしてエジプトを統治したセティ1世。その王墓は王家の谷の中でも最長の規模を誇り、内部には壮大なレリーフや壁画が広がっています。

今回は、私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、セティ1世の王墓についてご紹介します。

エジプトを再興したセティ1世

セティ1世は、第18王朝末期に行われた宗教改革による社会的混乱を回復し、積極的な遠征を行ったことで有名なファラオです。多くの軍事的勝利を収め領土を広げたセティ1世は、安定した治世で第19王朝の繁栄の礎を築き、その功績を称えるレリーフや壁画が各地に残されました。

そして、王家の谷に建造された王墓も深さ100m、長さ120m超と巨大な規模を誇るうえ、装飾の美しさにおいても群を抜いており、セティ1世の偉大さを雄弁に物語っているのです。

冥界への旅立ち

王墓に描かれた壁画はストーリー調になっており、入り口では、セティ1世が太陽神ラー・ホルアクティに冥界へ旅立つ挨拶をしているシーンが描かれています。古代エジプトにおいて太陽は「ラー」と呼ばれ、夕べに西に沈み、朝に東から昇る姿から、一日のうちに死と再生を繰り返す不死の存在として崇拝されました。そして、夜明けと共に復活する太陽と同じく、ファラオも復活すると信じられていたのです。

ラー・ホルアクティに挨拶をするセティ1世

セティ1世が冥界へと旅立ったのを見届けると、「アム・ドゥアトの書」が描かれた第2通路に辿り着きます。「アム・ドゥアト」は古代エジプト語で「冥界」という意味で、西に沈んだ太陽神が冥界を旅しながらさまざまな神々、敵、障害物を乗り越え、再び東から昇るという道程を12時間に分けて記した葬祭文書です。ここでは、死を人生の終わりではなく、永遠の生命への移行と捉えた古代エジプト人の死生観に触れることができるでしょう。

冥界にいる神々が描かれている

第2通路には、弱った太陽神が再生の力であるオシリス神と合一し、東へ向かうシーンが描かれていますが、未だ解明されていない世界観やモチーフも多く残っています。

弱った太陽神はオシリス神と合一し、再度東へ向かう

「門の書」が描かれた列柱室

さらに奥には4本の柱が立つ列柱室が作られ、部屋全体に描かれた「門の書」によって豪華に装飾されています。

「門の書」とは呪文や祈りが記された葬祭文書であり、古代エジプトでは、死者は現世から来世へ向かう旅路で、冥界を守る12の門を通る必要があると考えられていました。そして、それぞれの門で待ち構えている恐ろしい魔物や試練を無事に乗り越えるため、「門の書」として12の門を通過するための呪文や祈りが記されたのです。

年老いた太陽神が船に乗って冥界を移動している姿
太陽神を飲み込んでしまう「アポピス」と呼ばれる巨大な蛇

困難を乗り越え、死後復活する。壁画が語る冥界のストーリーや永遠の生命への強い願いは、訪れる者の心を惹きつけてやみません。

セティ1世の玄室

玄室の壁画には、太陽神が冥界へ旅立ち、新しい姿で再生するまでが色彩豊かに描かれました。荘厳な景色が広がるなか、一際目を引くのがアーチ型の天井に描かれた天体図です。

当時の色彩が美しく残った玄室
フンコロガシの姿で再生する太陽神
星座や神々が描かれた天体図

この天体図は、永遠の象徴として地平線に沈むことなく輝き続ける北極星を中心に配置されており、神々や主要な星座、天空の星々などが鮮やかに描かれています。その緻密さからは、古代エジプト人の高い観測技術と、宇宙に対しての深い理解や信仰を感じ取れることでしょう。

世界を、未来を、好奇心を、身近に

セティ1世の王墓の発見はただの歴史的発見にはとどまりません。古代エジプト人の宇宙観、死生観、そして彼らの芸術と建築の粋を集めたものであり、これらの貴重な情報を未来に伝えるため、私たちワールドスキャンプロジェクトは3Dスキャンを行っています。

高精度でデジタル化することによって、装飾の細部に至るまでリアルに再現することが可能となり、世界中の研究者や一般の人々がまるで現地にいるかのように内部を観察出来るのです。

そしてデジタル技術を通じて、古代から現代、未来へと続く歴史のバトンを渡していくことが私たちの夢であり、使命だと考えています。活動にご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

セティ1世王墓についてはこちらの動画もご覧ください。


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