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ルクソール神殿3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦

エジプト・ルクソールのナイル川東岸に位置するルクソール神殿は、紀元前1400年頃に建造された大規模な古代エジプトの神殿複合体です。古代エジプト語で「南の聖域」と表現されるこの神殿は、信仰と政治の中心地であったことから、非常に重要な考古学的遺産と考えられています。

今回は私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、世界遺産にも登録されているルクソール神殿についてご紹介します。

王家の「カァ」に捧げられたルクソール神殿

ルクソールは昔テーベと呼ばれ中王国時代から新王国時代にかけてエジプトの首都として栄えた都市でした。現存する古代エジプト最大の神殿であるカルナック神殿とその付属神殿であるルクソール神殿を代表とする多くの遺跡が存在しています。

ナイル川河畔のルクソール神殿

ルクソール神殿は通常の神殿とは異なり、神や死後のファラオを神格化するためではなく、主に「王権の再生」に関わる神殿として建造され、 王家の「カァ」に捧げられました。「カァ」は「生命力」と訳される人間の霊的な部分の一つで、 歴代の王は創造神の 「王家のカァ」を体に受け継ぎ、死後また「王家のカァ」は創造神へ戻っていくと考えられていました。

オペト祭

またルクソール神殿は、「王家のカァ」の再生を願って年に一度行われる「オペト祭」の拠点でもあります。「オペト祭」は、カルナック神殿に設置されたアメン神とその配偶者ムト女神、息子コンス神の神像を神輿に乗せてルクソール神殿まで運ぶという盛大な祭事であり、ルクソール神殿に安置された神像の前で王が儀式を行うことで、王と神の結びつきを強めようとしたのです。

オペト祭のために捧げられた牛のレリーフ

「オペト祭」において、神像を乗せた神輿はナイル川やスフィンクス参道を通ったとされていますが、今もなおルクソール神殿からカルナック地区まで続く約2,700mのスフィンクス参道が現存しており、まるでアメン神の来訪を待ちわびているかのように佇んでいます。

カルナック地区まで続くスフィンクス参道

ラメセス2世の塔門と中庭

重要な祭礼の場となったルクソール神殿ですが、一人の王によって建てられたわけではなく、ハトシェプスト女王の治世に建造された神殿をもとに、アメンへテプ3世やラメセス2世、ツタンカーメン、ホルエムヘブなど歴代の王が増築や改修を行い現在の規模にまでなりました。

なかでも大きな増築を行ったラメセス2世は、第1塔門にヒッタイトを相手として行われた「カデシュの戦い」のレリーフを施し、神の力を借りて逆境を乗り越え、次々と敵を倒していく自らの様子を記しました。塔門前には約25mの高さのオベリスクを二つ設置しましたが、現在そのうちの一つはフランスに寄贈されパリのコンコルド広場にあります。

ラメセス2世が建造した第1塔門

塔門を抜けると周囲に柱が並ぶ中庭へとたどり着きます。建造当時は一般の人々も専用の門から中庭に入って祭礼を見ていたことが分かっており、アメン神・ムト女神・息子コンス神の聖舟祠堂の手前には、神像を乗せた神輿を設置する花崗岩製の台が残っています。

テーベ三柱神の聖舟祠堂と神輿を設置する台
中庭の壁に刻まれたラメセス2世の息子たち

「王家のカァ」の彫像

第2塔門前には「王家のカァ」の彫像がそびえ立っており、側面にはナイルの神であるハピ神と学問の神であるトト神が美しく刻まれました。トト神はラメセス2世の治世の長さを目盛りで測っているような姿になっており、永遠を意味するヒエログリフがあることから、ラメセス2世の治世が永遠に続くように願いを込めて描かれたことが分かります。

「王家のカァ」の彫像
トト神の隣には目盛りが描かれている

アメンへテプ3世の大列柱廊

アメンヘテプ3世は主にルクソール神殿の内側を築き、カルナック神殿の原型になったとも言われる大列柱廊には約20mの開花式パピルス柱と王の彫像が設置され、古代エジプト人の建築技術の精緻さと高い芸術的センスを示す見事な景観を呈しています。また壁面には、神像を乗せた神輿を担ぐ神官たちや軍の行進などオペト祭の様子がレリーフとして残されました。

2列に並んだ開花式パピルス柱
ツタンカーメン王と王妃アンケセナーメンを模した像だと考えられている

太陽の広場

アメンヘテプ3世の時代では、神殿の中心に彼が建造した中庭があり、光が中庭全体を美しく照らす様子から「太陽の広場」と呼ばれています。「太陽の広場」の地中からは大量の彫像が発見され、ルクソール神殿がいかに豪華であったかを物語っていますが、これはローマ皇帝のディオクレティアヌス帝がアメン崇拝を皇帝崇拝へと移行させる際に、ルクソール神殿に元々設置されていたファラオや神々の彫像を埋めた痕跡だと考えられています。

太陽の広場
4世紀に描かれたローマ人のフレスコ画

アレクサンドロス大王の聖舟安置所

エジプトを征服したアレクサンドロス大王は、ルクソール神殿の最奥部に位置するアメンへテプ3世の至聖所の中に、神々の御神体を乗せる舟を納める安置所を築きました。壁にはエジプトの王として描かれたアレクサンドロス大王の姿や、アメン神に貢物を献上している様子が記されています。

アメン神(左)とエジプトの王の姿をしたアレクサンドロス大王(右)

世界を、未来を、好奇心を、身近に

ルクソール神殿は、歴代のエジプトの王からアレクサンドロス大王までの数百年の痕跡が残る非常に重要な遺産ですが、破損してしまった部分も多く、修復作業が続いています。そのため、ワールドスキャンプロジェクトはルクソール神殿のような重要な遺跡を最新の3Dスキャン技術を用いてデジタル化し、元の状態を記録することで、正確な修復作業に役立てようと取り組んでいます。

文化遺産の保存に貢献し、古代の知識や文化を未来に継承していくことが私たちの夢であり、使命です。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

ルクソール神殿についてはこちらの動画もご覧ください。

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