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夕焼け

保育園の帰りに、胸が苦しくなるほど綺麗な秋の夕焼けを見た。

だんだんと夕闇が東から迫り、夕日の朱色が濃くなって、山の黒さが際立つ頃。雲と空と夕焼けのグラデーションがとても美しかった。
あまりにも綺麗すぎて、胸がいっぱいになり切なくなってしまった。

分かりはしないだろうと思ったが、誰かに伝えたくなって、4歳の子どもに話しかけた。

「ねぇ夕焼け綺麗だねぇ。なんだか胸がきゅうっとするね」

すると子どもは

「うん、そうだねぇ」

と答える。
よくわからない、と答えるだろうと思い込んでいたので驚き、さらに

「どんな気持ち?」

と問うてみると、

「なんだかねぇ、なみだがでそうだねぇ」

と言う。

朝焼けと違って、夕焼けは寂しさというエッセンスを含んでいるように思う。一日の終わり、夜の闇を従えて「もうこれで終わりだよ」と言われているような感覚。その日を終えることの一つの安堵感の端っこに、先の見えぬ暗闇が待ち受けていることの不安。二度と戻ってこない「おしまい」の合図。

いったいいつから人はこんな感情と共に生きるようになるのだろうか。少なくとも、この4歳の少年にはその気持ちが芽生えていた。自分の気持ちを言葉で表現できるようになったことと、赤ちゃんの頃から持っている、生きる欲求に付随する感情とは別の、人間らしさの感情を持ち始めたことを知り、驚いている。

子どもの成長を知ることもまた、喜びの後ろ側になんともいえない切なさを抱いていると思う。日々の中ではあまり目にしないことも、ふとした出来事が知るきっかけになることがある。

思いがけず知ってしまった子どもの成長に、夕焼けの美しさが後押しして思わず目が潤んでしまった。忘れてしまいがちな子どもの成長の節目を、またいつの日か目にする夕焼けの美しさが思い出させてくれるだろう。

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