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『終わりで始まり』って曲なんだけどさあ...

『終わりで始まり』って曲なんだけどさあ...

amazarashiではかなり貴重な一曲だろう。ヘッズ諸君よ、そう思わないかい?

まぁゆっくり最後まで聞いていこう。
入りはいつもの帰り道。『僕もまともな人間になれたかな いやそうでもないか 今も変わらずうまく笑えない毎日です』安定した始まりだ。安定したローテンション。秋田氏はおそらくリスナー目線に合わせるようなお方ではないが、我々が感傷的になるには十分なほどに腰が低い。
『部屋の中で死にそうな顔をしていた僕も 今じゃこんな歌も歌えるようになったよ』
紛れもなく秋田氏の過去だ。いや、一貫して秋田氏の歌う曲は秋田氏の経験則から来てるが、今回は直接的に過去に語りかけてる。私も過去の秋田氏と語り合えてるようでなんとも喜ばしくなる。『友達のおかげで立ってるんだ 家族のおかげで歩けるんだ』あまりにもストレートな表現!珍しい。しかし、賢い人が洒落の一つでもかますと場の空気が砕けるのと同じように、普段言い切り表現を使わない秋田氏が直球を投げると、四半世紀は耳に残る。この一節を直球と言うならば、サビは火の玉ストレートだ。『いつか僕らが離れ離れになる その時だって笑っていたい』『それだけでいつかの叶わなかった夢も ただのすぎた景色になるんだ』『これがスタートラインだよ 僕らの終わりで始まり』なんとも清々しい。ここまで聞いて私『あぁ、amazarashiにしては珍しい。秋田氏もすこぶる調子が良さそうだ』と新しいamazarashiの顔を見た気になった。

秋田氏はよく死生観の琴線に触れに行く。アンディウォーホールは人生について「生まれてくるとは誘拐みたいなもんだ。拉致されて監獄に入れられて「お前は何がやりたいんだ」と責め立てられる。」と表現しているが、その監獄という現実に気付きながらも、秋田氏のように必死に自分の処世術を見出し、運命に抗おうとする人間もいる。そんな秋田氏の束の間の休息を切り取ったような歌だ。

2番のポジティブマインドも最高にクールだ。『裏切られたことに胸を張るんだ』『信じようとした証拠なんだ』なんとストレートで前向きな表現だろう。人生の錆や垢が取れていくようだ。晴れやかな空の下で、公園で遊ぶ子供たちを眺めながら聞きたい。『疑った分だけ損したんだ』くうう、ワタクシ、どれだけ損な生き方をしてたんすか、、。『この先何があったって僕らは 振り向かずに走っていきたい』ここまでクリーンだとゴーストライターすら疑わしい(今一回損しました)。とにかく最初から最後まで穢れなき1曲なんだ。『あの時ついに崩れ落ちた膝で 暗闇の中駆け抜けて あの時砂を握った掌で 確かなものをつかみたくて』この一節はこの曲随一のパンチラインだ。多様な言葉遊びが真水をさらに美味しく仕立てる。『日々が過ぎて~なんだか焦ってつまずいて』ちょっと待ってくれ。ここで涙の一つや二つがちょちょぎれる。彼は、急く時間の流れをあえて一時停止し、切り取り、歌詞として生産した。なんで我々は焦って生きてるんだろう。何に追われているんだろう。君はこの現象についてまじめに考えたことがあるだろうか。『もう駄目だ 動けねえよ~やっと僕は僕を肯定して』自分が立ち上がるまでの一部始終。思わず頑張れと声に出したくなる。『立ち上がって走り出して その時見上げたいつもの空 あのころとは違って見えたんだ あの日の未来を生きてるんだ』この「空」は冒頭の「いつもの帰り道に見えた空」とは違うのだろう。あの日の未来っていう表現は尊い。日々は線でつながっていることを改めて考えさせられる。『今の僕を支えているのは あの日挫けてしまった僕なんだ』この表現は実に面白い。一般的に今の自分を支えるのは、過去の成功体験だという話は結構聞く。しかしこの文脈を切り取ると、「挫けてしまった僕」も今の自分を支えるのだという。挫折した僕も今の僕を支えているとしたら…考えるだけで拳に力が入るもんだ。『「ありがとう」とか「愛しています」とかわからないけど歌っていたい 信じてくれたあなたは正しかったと 言い張るために歌っていたい』ようやく自分以外の存在に顔を向けたなあ。自分を肯定したことによる余裕の表れだ。余裕ができて周りを見れるようになったのだ。わからないままでいいので秋田氏には間の感謝だのを歌い続けてほしい。『あの時伸ばし続けたこの腕で 大きくギターかき鳴らして あの時何も言えなかった口で 下手くそな歌を叫んで』弱かった部分が自分を支えてくれている、この歌詞で、生き様で、秋田氏が体現してくれている。人知らぬ努力が結果を出していること。それをリアルタイムで配信してくれている。だからこそついていきたいとファンは思うのだろう。僕らの思い立ったその時が終わりで始まりなんだというメッセージが、年齢や環境は挑戦の言い訳にならないということを教えてくれる。

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