#25 目的と目標
経営コンサルタントとして有名な方が、ある学校の入学式で特別講演された時に話したあるケーキ屋さんの話です。
私なりにこの話を考えてみました。このスタッフ、ちょっとやりすぎじゃないかと考える人もいるかと思います。私だったら、「バースデーケーキはありませんが、ショートケーキでどうですか?」などと浅はかに勧めてしまったかもしれません。恥ずかしいです。でも、私のように考えてしまう人は案外多いのではないでしょうか。
ここでこのスタッフの行動の奥にある目的を考えてみましょう。「何のために働くのか」(目的)ですが、普通だったら、「自分の店のケーキをおいしく食べてもらうため」と考えそうですが、それがもし一番根底にある目的だったら、
ライバルのケーキ屋を紹介するはずはありません。
このスタッフのすごいところは、目的と目標を混同していないところにあると思います。目的とは最終的なものであり、目標はすぐ手の届く近くにある成果と考えられるかと思います。「店を繁盛させたい。」とか「売り上げをもっと伸ばしたい。」という店の人の願いは当然あると思います。商売ですからそれは否定できません。しかし、それを目的にしているか目標にしているかで全く違った態度や行動が表出してくるのではないでしょうか。
このスタッフの方は、お客さんに喜んでもらうことを目的にしてケーキを売っているからこのような行動がとれたのだと思います。もちろん、自分のお店のケーキを喜んで買ってもらえたら、目的と目標が一致するので、それが理想だと思います。けれども、この時はバースデーケーキがなかったわけですから。
そしたら、「今、目の前にいるお客様のために、私にできることは何だろう?」「このお客様が喜ぶことは何だろう?」…と、考えたのだと思います。他のケーキ屋さんを紹介することは、普通ではそこまでできないと思います。ここでさらに先を考えてみると、このお父さんが今度、ケーキを買う時に、どの店に行くでしょうか?バースデーケーキを買った店でしょうか?おそらく、私は最初に行ったこの店にまた行くと思います。きっと、このお父さんは、娘さんの誕生日のたびに、必ずこのケーキ屋さんに行って、「あの時はありがとうございました。5歳だった娘も、今年は○歳です」などと話すと思います。きっと何年経ってもずっとその店に通い続けると思います。人って、そういうものだと思います。そして、きっと、このことを周りのみんなに話すと思います。
「あそこの○○洋菓子店で、こんなことがあったんだ、こんな風にしてくれたんだよ」と。こういうのが、クチコミになるのだと思います。だから、そんな思いで働いている人のところには、自然とお客が集まってくるのではないでしょうか。
そう考えるとこのスタッフは本当にいい仕事をしたと思います。心から、お客を喜ばせたいという目的が働く目的のプライオリティーのトップにあったからこそ、お客の心が見えたのだと思います。だからお客が本当に望むことが見えたのだと思います。
ただ「商品を買ってもらいたい」「儲けたい」という目先の小さな目標を優先させて、それを目的にしてしまうと、心の目が曇って、本来の目的を見失ってしまい、お客の心は見えなくなってしまうと思います。
子どもの教育の仕事に携わる教師も目的と目標を混同してはいけないという点で、全く同じだと思います。教育の目的は「児童一人一人の自立」だと私は考えています。目先の子どもの活動を成功させること(目標)に目を奪われ、子どもに思考や判断させる時間や場を十分与えていなかったり、やたら口を出し、指示を出して手をかけすぎたりすることで、目先の活動は体裁よく表面上うまくいったとしても、一人一人の子どもの自立という目的に近づくことを阻害してしまっていることはないでしょうか。
あまり日々の忙しさや目先の小さな目標に目を奪われてしまうことで、教育の究極の目的である「一人一人の自立」をうっかり見失わないようにしていかなければいけないと思います。
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