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時代の波間に消える影〜「イエスの方舟」に見る、メディアが報じる宗教事件と社会の関心の波〜

 安倍晋三銃撃事件から2年が過ぎた。犯行の原因となった旧統一教会への恨みや憎しみに繋がる、教団の実態や違法性が明らかとなり、教団の支援を受けていた自民党を巻き込んだ大きな社会問題に発展している。ところで、こうした宗教団体を巡る事件は、その特異性とともにメディアに大きく取り上げられるものの、隔世の感があるのか、世間の関心が低下するのもあっという間である。40年以上前に、世間を賑わせた宗教団体「イエスの方舟」も、その1つである。

「イエスの方舟」とは

「イエスの方舟」は、1960年代に主催者である千石剛賢がはじめた聖書研究会が前身となる宗教団体であり、家庭に居場所がないと感じていた信者とともに共同生活を送ることを信仰の軸としていた。しかし、信者の多くが家出同然ということもあり、信者の家族ら捜索願を提出。拉致、誘拐、監禁騒動に発展していく。マスコミもこの騒動に注目をし、千石を「邪教の主宰者」、「女性を次々と入信させてハーレムを形成」などセンセーショナルな見出しで糾弾、報道を過熱させていった。「イエスの方舟」はカルト教団として全国的に知られることになる。
 しかし結局、千石に対して容疑事実は無いとして不起訴処分の決定が下されると、マスコミ報道は沈静化。団体の実態が次第に明らかになるにつれ、急激に世間の関心の熱は冷め、団体は表舞台から姿を消していった。

ドキュメンタリー映画「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」

 事件から約半世紀。世間からはほぼ忘れ去られてしまっている「イエスの方舟」を題材に、TBSによるドキュメンタリー映画が発表された。2001年に千石は亡くなっているが、実は、千石の妻がその役割を引き継いで「イエスの方舟」は、今尚、存続している。しかも驚くべきことに、当時のメンバーもほぼそのままに、共同生活を続けていることが明らかになっている。
 映画では、その現在の穏やかな信仰の様相が、苛烈な当時の報道の映像と対比されながら映し出される。それは、TBSという巨大メディアが、宗教に対しての報道姿勢や対応方法を改めて検証し直しているようにも感じられる。
 映画は、現在公開をしているポレポレ東中野をはじめ、順次、全国で公開予定となっている。この機会に是非、ご覧をいただきたい。

方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~ https://hakobune-movie.jp

(text しづかまさのり)

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