キャリア発達・支援を何に頼るのか?~KrumboltzのPlanned Happenstance Theory(計画的偶発性)の議論から考える~


「計画的偶発性」 というキーワードへの反応

こんなポストをしたのと、このネタに関連していくつかのポストを見たことがきっかけでちょっと考えてみました。

僕のスタンスは上のポストに書いた通りです。もう少し補足しながら書くと、

  • 計画的偶発性の理論は好き。なぜなら実践可能な理論だから。

  • キャリアについては、主体者であるときも、コンサルティングするときも「実践可能」であることを僕は大事にしている

  • 計画的偶発性は結論がキャッチーなので、以下の意図しない効果を生み出す

    • 分かりやすい(厳しく言うと、わかったつもりになりやすい)

    • 自分の今を正当化しやすい

  • このキャッチーさがゆえに、ちょっと危険

計画的偶発性というキーワードへの反応を見ると、上記で「意図しない効果」と書いたことが散見されます。

計画的偶発性理論は、
「いまやってる辛いことは、いつかは役に立つんだ」というドMな頑張りや、
「いずれいいことあるから頑張れよ」という根拠なき根性論
を支持する理論ではありません。
上記のようなことを言うために使っていらっしゃる方もいるので、ちょっと違和感があります。

自分の過去を振り返り、今を見つめ直した結果に箔をつけたいがために「理論」と名のついたものを持って来ているのであれば、いい大人がそんなことはやめましょう、とアドバイスします。(自分が仕事でやっていることに”戦略的”という枕詞をつけるのと同じ行為です)
■■理論なんて持ち出さなくても、あなたの今は尊いです。計画的偶発性を持ち出すことは蛇足です。自信を持ちましょう。

また、人へのアドバイスに厚みをもたせる目的で使われる方もいるようです。これはやめてください。
「今やってることはいずれ役に立つから」「分かるときが来るから」的なアドバイスに計画的偶発性を引用したところで、結局はたんなるオジサン(オバサン)の思い出話に過ぎません。後進のためにならないのでやめてください。

理論は後付け?

理論なんて後付けだ、という主張があります。これは正しいです。
正確には後付けでない理論もありますが、キャリアに関する理論はすべて後付けといってしまっても良いんじゃないでしょうか。

後付けという言葉がなんとなく安っぽい語感が漂うので、受け入れがたい感覚を持つ人もいるかと思います。

後付けは、正しくは帰納法と呼ぶもので理論構築の立派なアプローチです。乱暴に言ってしまえば、理論構築のアプローチは帰納法か演繹法しかありません。そして、人間にまつわる理論は帰納法的アプローチしかないのだと思っています。

計画的偶発性理論は、キャリア的に成功した人たちの分析事実に基づいて構築された理論なので、機能法的アプローチであり後付けな理論です。

原文をつぶさに読んだわけではないですが、帰納法による理論構築に必要な統計学的な確からしさは踏んでいると信じています。

なにを頼るのか?

計画的偶発性の結論は「いずれいいことあるさ」ではなく、「あのときのあれが良かった」と言えるようにするために、どのような思考・行動規範が大事なのか?について説明したことです

キャリコンの方はよくご存知かと思いますが、それが5つのスキル(好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心)に集約されています。これが帰納法によって導き出された一般的な解です。

キャリアを発達させる主体者として頼ること

キャリアを発達させる主体者としては、この5つのスキルを頼りにします。”頼りにする”とは”自分で自分を制御するときのステアリングに使う”ということです。
何か迷ったり悩んだりしたときに、どっちにステアリングを切るのか判断が必要になります。このステアリングの切り方に「自分らしさ」が出てきます。
好奇心を重視して「面白そうな方」に切る。
持続性を重視して「もうちょっとだけ今のことを頑張ってみる」に切る
この判断に計画的偶発性の理論を使います。

もう一歩進めれば、自分の持っている特性は5つのスキルのどれと相性がいいのかを自分で腹落ちさせることが求められます。
5つのスキルは全部を同時に発揮しなければならないものではありません。あくまでも、キャリアで成功した人たちから導き出されたスキルのカテゴリです。

自分の特性を知るのにはいくつかの方法がありますが、私はストレングスファインダー®がいいのではないかと思っています。
ちなみに、私の一番上位資質は「学習欲」です。これは5つのスキルと照らし合わせた時には「好奇心」と相性がいいものだと思っています。
なので、常日頃から「面白そう」という感覚を大事にして、ちょっと手を付けてみることを怠らずにやっています。
こういった行動が”偶発性”を引き起こします。そして、「ちょっと手を付けてみる」が”計画的”にそれをやっていることになります。

キャリアコンサルタントとして頼ること

キャリアコンサルタントとしてこの理論に頼ることは、「行動によってキャリアが創造できる」です。
対照的な理論は「特性因子理論」です。乱暴に言えば、「人は持って生まれたもので成功する」ということです。ホランドのRIASECや、シャインのキャリアンカーがこの理論に根ざしているものです。

もって生まれたもので決まるわけではないし、「キャリア開発シート」に書いた通りのキャリアを進まなければいけないものでもない。
計画的偶発性理論とはそういったことを示唆している理論であること。
そして、この理論で最も大事なのは5つのスキルを発揮することで、キャリアにポジティブに寄与する偶発的な機会を、計画的に引き起こすことができる、ということです。

この理論を使うべきシーンに出くわしたら、クライエントに理論が言っていることと、5つのスキルの何が一番自分にしっくり来るかを問うてみてはどうでしょうか。

理論やアセスメントは正しく使いましょう

キャリアコンサルタントの人は養成講座でならったと思いますが、理論やアセスメントは正しく使いましょう。

「正しく」には2つの意味があります。

  1. 理論が基盤にしていることや、本質的なことを正確に理解する

  2. 理論を使うシーンを適切に選択する

1は、上述した「オジサンの思い出話」に使っちゃダメですよ、ということです。
2は、計画的偶発性の話を学生にしてもあんまりピンときませんよ、ということです。

23年10月19日追記

上に書いた「計画的偶発性の話を学生にしてもあんまりピンときませんよ」について、@saiyoking 採用の王さんからコメントいただきましたので、以下のように答えました。私がこういう考えを持つ理由の説明です。

それに対して、@saiyoking 採用の王さん からも丁寧に背景を教えていただきました。たしかに、悩んで動けなくなっている学生が一歩踏み出すための勇気づけとして使うシーンはものすごく納得できた次第です。


さいごに

いろいろとツラツラ書きました。
頭を動かすきっかけを得られるのも、X (Twitter)の良いところですね。
好奇心を持っていろんな人の意見を聞いて、自分なりの考えを発信する行動が、僕のキャリアにプラスになる偶発的な素敵な出来事を起こしてくれると信じています。


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