ことばの発達 前言語期後期「9ヶ月革命」

 「9ヶ月革命」ということばを聞いたことがありますか?

赤ちゃんは生まれてからどんどん成長していきますが、9ヶ月頃に行動が劇的に変化すると言われています。この大きな変化を、心理学者のマイケル・トマセロは「9ヶ月革命」と呼びました。

この「9ヶ月革命」とは一体どのようなものなのでしょうか。

 これまでお話してきたように、赤ちゃんから発せられる声や動きを、周囲の大人が汲み取り応答することがやりとりの始まりです。

このやりとりを繰り返す中で、赤ちゃんのやりとりを楽しむ心はどんどん育っていきます。この頃のやりとりは、「笑いかけられたら笑い返す」「おもちゃに手を伸ばす」といったもので、「赤ちゃんと周囲の大人」「赤ちゃんと物」のような関係です。

この関係を専門用語で「二項関係」といいます。

 9ヶ月頃になると、大人が見ている方向を見るようになり、これまでのような二項関係とは違う「赤ちゃんー大人ー物」という新しい関係が誕生します。

このような関係を「三項関係」といい、大人と子どもが同じ物へ注意を共有している関係が成立しています。

トマセロはこの三項関係の成立を「9ヶ月革命」と呼んだのです。

 三項関係の成立は、単に「大人と子どもが同じものを見る」ということではありません。「大人が物を見ているのは自分に対してその物に注意を向けるように意図しているのだ」と気づき、大人の視線を追っているのです。

このように、相手の意図を推測するようになるのが三項関係の成立であり、まさに革命といえる変化なのです。

 三項関係の成立はことばの発達にとっても重要な役割を担っています。

大人が子どもに対してことばを発したとき、子どもは「大人は何かを自分に伝えたいのだ」と意図を理解し、大人と同じ対象に注意を向けるようになります。

このような場面で、大人から発せられたことばと物とことばが発せられた状況とが結びつき、ことばの学習が進んでいくと考えられています。

相手の意図を理解する力が弱かったり、注意が散りやすく同じものに注意を向けられる場面が少なかったりすると、ことばを学習する機会が少なくなってしまうのです。

三項関係は二項関係を土台として育ちます。好きな遊びや楽しいと思うことはお子さんによって様々です。

身体を使った遊びや手遊び歌、おもちゃを使った遊びなど、様々な体験を通して、お子さんの「もっと一緒に体験したい」という気持ちを育てていきましょう。

参考文献
石田宏代,大石啓子編集:言語聴覚士のための言語発達障害学.医歯薬出版,2012
マイケル・トマセロ著,辻幸夫ら訳:ことばをつくる,慶應義塾大学出版会,2008

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