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スタイルに学ぶ、族車への痛烈なダメ出し。

なぜ変わらないスタイルというものが存在するんだろうか。
先日、サンフランシスコの友人と族車について話していたところ、
チカーノ(USに住むメキシコ系移民)カルチャーに似ているね、という話になった。
確かに、チカーノは、経済的に新車を買いにくい事情から、ボロボロの旧型車をピッカピカに作り直してイキる、という文化を創出し、現代では既にそれが一つのスタイルになっている。
サイプレスヒル のド直球な「Lowrider」は、PVでそんなスタイルの哀愁たっぷりの情景描写を味わえる。

昨年12月のロッドショー(クルマ・オートバイカスタムの国際的なお祭り、シャコタンデロリアンはその時の)に遊びに行った帰り、パシフィコ横浜の周辺では久々にオーセンティックなローライダー に何台かお目に掛かった。美意識を支配しているのは脈々と続くスタイルだ。

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よく眺めてるインスタで、イランの首都テヘランの車系のアカウントでは、アメリカの旧車もコテコテな仕上がりで登場する。
「スタイル」は経済制裁でもコントロールできないことがシニカルだ。

日本の暴走族、旧車會も、ほぼ決まった範囲の絶版車から車種を選び、スタイルを踏襲している。
それがチカーノのカスタムカルチャーとの類似を思わせるのは分からなくない。しかし、スタイルを理解するというのは難しい。

僕が工芸と族車のコラボレーションを着想し、選んだ車種はCBXだ。
湘爆並みに影響受けた族漫画、BAD BOYSでは、金持ちの息子の主人公がにわかに乗っているのがCBX(今見ると2型フルノーマルが走る身の代金)であり、作中のチーム、極楽蝶の総長が代々受け継ぐのもロケットカウルのCBXである。
どぎつい広島弁で繰り出されるリンチ、放火、レイプ、シンナーと、2020現在では制作すら出来なそうな鬼畜度の高さに隔世の感が否めないが、一時代の様相が嗅ぎとれる。


スタイルを理解するには、族車だけでなくCBXの歴史的な位置付けを知らなくてはいけない。
CBXは、最も高額なオートバイの一つで、盗まれすぎて盗難保険に入れない唯一の車種だ。
以前Goo-bikeで眺めていたら800万円、新車でテスラのサイバートラック買えそうな値段に目を疑った。

旧車會のみならず、オートバイファンからの羨望を集めまくるCBX、HONDAが世界で初めて4気筒を量産化し、その技術革新が80年代に一つの完成形に達した、金字塔的モデルである。
僕はこの車種を元に想像を膨らませ、完成図をシミュレーションした。
それがこれ。

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重厚感や時間の経過を感じる銅の緑青仕上げを合わせ、格式を表現し、
タンクは津軽塗のような何層にもわたる漆を削り、日本の工芸的な表情を押し出したい、等。
そして、このラフイメージは、旧車會から数々のダメ出しを受けた。

ダメ出し1: ワビサビ的渋さは、CBXに合わない。

緑青のような渋さは、CBXに合わない。
CBXは、70年代のSUZUKI GS400、バブと呼ばれるHONDA HAWK2に比べると、CBRとともに80年代の新しい部類。ちなみに、KAWASAKIのゼファーは、絶版車にも関わらず、新しすぎて「現行車」と呼ばれるのがこの世界、CBXだけでなく、周辺の車種と比較した見え方も重要になる。
まずこの文脈を理解できていなかった。ジーンズでいうダメージ加工のようなアプローチは、バブやGT380ならしっくりくる。しかし、CBXと相性がいいのは、もっと分かりやすく高級なテイストなのである。
わざと経年劣化したようなテイストは「ヤラレ」と呼ばれるスタイルが既に存在する。

ダメ出し2: 統一感がない。

素直に耳が痛い。良いと思うものをあれこれ掻き集めただけではオートバイとしての統一感が損なわれる。緑青なり、漆なり、それら自体がダメというわけでもない。どんなカスタムでも、一台のオートバイとしての統一感が最重要項目であり、大前提である。自分でカスタムしていたミニ四駆が、スピードと好きなパーツを求め過ぎた結果、全体的な格好良さが損なわれた苦い経験を思い出す。

ダメ出し3: CBXらしさを残せていない

慣れないと分からない感覚だが、CBXという車種そのものにロイヤリティがあるような場合は、ノーマルの塗装ラインや、ロゴを敢えて残すことでドヤるのも一つの流儀になってくる。スニーカーのコラボや限定モデルで、オリジナルからどれだけかけ離れたデザインになったとしても、アディダスの三本線やナイキのスウッシュが守られるのに近い。CBXのノーマルカラーやロゴを大きく変えずにアレンジしている族車が多いのもそのためだ。もちろん無視しても良いことだが、その場合は、何故無視したのかが解釈が必要になってくる。

ダメ出しはどれも言われてみると納得できる。
議論の末、銅を硫黄で化合させる色上げ技法で、深くて暗い色合いの高級感を目指した。また、それに合わせて、CBX1型純正の紅いフレームカラーをエンジン全部バラして漆黒に塗り変えることになった。
文化史の特異点を作る、という目標に立ち返る度、このようなスタイル(様式)の議論の大切さをいつも感じている。族車に限らず、あらゆるクリエイションに関して、重要なことを思い出させられる。

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