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(多分)ファラオも愛した真鍮の音色

楽器の歴史は人類史とほぼ同じなのではないだろうか。

鉄器を発明してオリエントを跋扈していたヒッタイトと戦った古代エジプトのファラオ、ツタンカーメンの埋葬されている王家の谷からは、銀や銅と鉛の合金、つまるところ原始的な真鍮のラッパが出土している。

言ってみれば、ただの筒。

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ただの筒の歴史は、ヨーロッパの王宮の衰退まで続く。

唇だけで倍音のメロディを操る超絶技巧の奏者の保護がなくなり、また作曲家がトランペットの可能性を広げるために、音程が作れるバルブが加わって現在のトランペットの形になっている。

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長いか短いかは分からないけど、真鍮の音の歴史は数千年というところらしい。

真鍮は英語でbrass、ブラスバンドのブラスだが、管楽器だけではない。

ドラマーにはおなじみのジルジャン家は、オスマン朝の17世紀にコンスタンティノープルで創業し、真鍮でシンバルを作り始めた。20世紀初頭、後継者がアメリカに渡り、ジャズやポップスの発展と共に今のドラムセットの基盤になった。

ジルジャンのライドシンバルは、今でもへら絞りや金槌の跡がついていて、私たちが扱ってきた鍛金ではこちらの方が馴染み深い。

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鍛金の技法で族車を作っているうちに、次のステージが見えてきたのは、マフラーを検討し始めてからだ。バイク乗りにとってエンジン音が楽器のように感じるは自然だ。

純正の車体を手にしてからまず手をつけるのはマフラーであり、カスタム用のマフラーは、あたかも楽器のように売られている。

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私たちは音楽的要素を拡張したくなったのだ。

マフラー自体を真鍮にする発想は既に暴走族によって試されていて、僕も旧車會イベントでGT380の2ストのメロディコールを真鍮のエキパイでやっている人を見たことがある。

しかし、直管のマフラーをプライドと同じように高く突き上げた「タケヤリ」を真鍮でやっているのは見たことがない、旧車會のみんながそう言うので、真鍮のタケヤリを作ることは数分の会話で即決した。

恒良英男(insta)は、鉄の棒で真鍮タケヤリ専用の金床を作るところから始めた。

ただの筒をわざわざ叩いて仕上げる。

古代エジプトの「ただの筒」と違うのは、バルブがあることである。

トランペットのようなバルブではない。

アクセルワイヤーによって開閉するエンジンのバルブは空気と一緒に化石燃料を送り込む。

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車検が通っているのにエンジンを掛けずにいた工藝族車は、あつし君という気鋭の奏者によってすぐにご機嫌な音出した。僕は音楽であることを強く意識したくて、セッションの相手を探していた。快く引き受けてくれたのはKIRIHITOのドラマー、早川俊介さんだ。

KIRIHITOのライブを初めて見たのは、2000年代の新大久保のEARTHDOMだっただろうか。確か同じイベントに当時ハードコアパンクでは別格の存在感を放っていたStruggle For Prideが居たので、時代が伺い知れる。

圏さんの異形のギターと足で踏みつけて奏でるキーボード、それにまとわりつくコブさん(早川さんの愛称)のスタンディングドラム、というKIRIHITOのパフォーマンスに釘付けになり、その後も何回かライブを見た。

個人的には思い入れが強いユニットから、早川さんが会話の相手になってくれることになり、どんな化学反応が起こるかと思ったら、実際すごいことになった。

旧車會のコールはロマの口頭伝承のように、複雑なリズムを口で覚えている。インドのタブラを叩くためのような口唱歌が、初めて接するドラマーとの共通言語だった。

最初は自己紹介のように、ただ存在を確認するように各々のフレーズをぶつけ合う。徐々にお互いを理解しようと歩みより、展開を少しだけ予想できるようになると、共有しているリズムを意識しながらも自分のフレーズが重ねられていく。昔、デレク・ベイリーというギターインプロヴァイザーがあらゆる領域の即興演奏者に行ったインタビューを読んだが、彼がまだ生きていたのなら、このセッションを章立てに加えて欲しかった。

人生で何度目だろうか、本当に背筋がビリビリとする瞬間に警察が来た。こういう時は真摯に対応しなければいけない。

あっという間のセッションは終わってしまったが、強い手応えを感じる時間だった。

アワードの最終選考のために削りに削ってたった今は2分程度。

いずれちゃんとまとめる予定。

セッションのタイトルはCBX400Fが発売された1981年にマイルス・デイビスがリリースしたレコードに因んでいる(後付け)。

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