よじれた優しさ
水に少しずつ分解されていく。その様子は恋人たちが繋いだ手を離す際よりもまどろっこしく、勿体ぶったようだった。ほんの微かな切れ端同士が辛うじてつながりを保ち、揺れる水面に弄ばれている。
「ああなったなら、もう祈ることしかできないさ。おれはそんなのごめんだけどさ」
また格好つけて人生論を語った。彼は毎度のことながら、そうやって実行もしたことがない覚悟をわたしに披露する。
好きでも同情からでもないんだけれど、頼まれたんだから仕方ない。それに、彼が口にした言葉を飲み込んで成長していく姿が少し嬉しくもあるのだ。
「ねえ、お腹すいたよ。どこかに食べに行こう」
「一人で行けよ。おれはもう少し、あいつの行く末を見守ってやらなきゃな」
「何言ってんの。さっさと行こうよ。まさか、葉っぱが跡形もなくなるまで見守るつもりなの?」
「時間が許すなら、おれがこいつを見送りたいんだ」
心根の優しさが拗れてしまっているような、そんな訳もわからない彼の主張がなんだかとてもかわいらしかった。
彼が大人になってこの時の話を聞いたら、どんな顔をするのだろうか。
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