タオルが古くて
新しいタオルを買うことが苦手だった。綺麗でふわふわしているものを使っていると、自分がまるで少しいい人間に思えたからだった。あんまりいいものを使ってしまったら、きっとぼくは足元がおぼつかなくなるかもしれない。馬鹿みたいだけど、本当に怖くてだめなんだ。
「あんた、いい加減替え時よ。もう黒ずんちゃって。一緒に洗いたくないもの」
差し出されたタオルを前に、ぼくは思考を巡らせているけれど、答えはただの沈黙。つまるところ、不戦敗ってことになる。だからといって、こねくり回した屁理屈を披露する気にはなれないんだな。
「自分で洗うよ」
「頑固ね。おじいちゃんみたいに頑固よ」
「なんとでも言っていいよ。でも、捨てないで欲しい」
「まあいいわ。どうしてうちの家系って、こんなのばっかなんだか」
なんとか繋ぎ止めたけど、言われてみると愛着があまりないような気がしてくる。そんなつもりはなかったけれど、どうしてこう、ぼくは情けなく生きたがるのだろうか。
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