見出し画像

木箱記者の韓国事件簿 第34回 ドトールの思い出

 韓国に進出する日本の外食チェーンは多いが、その一方で人知れず撤退し姿を消すところも多い。ドトールコーヒーが韓国で店舗展開していたことを知る人もいまでは少ないだろう。ドトールの韓国進出は1989年。日系の外食チェーンとしてはかなり早期に進出している。ソウルだけでなく釜山や大田などの地方都市にも展開していた。スターバックスなどシアトル系コーヒーが進出するまで韓国のコーヒーは市販のコーヒーミックスそのままのいわゆる「タバンコーヒー」が主流で、90年代に入ると甘ったるい香りで味の薄いフレーバーコーヒーも多く登場したが、本格的なコーヒーはほとんど見られなかった。そんな中でドトールは日本で慣れ親しんだ味を楽しめる貴重な存在だった。ソウル市内では鍾路、鍾路区庁前、清進洞、宗廟前、明洞、中央郵便局裏手、明洞聖堂前などに店舗があり、釜山では南浦洞、大田は駅前にあった。済州にもあったらしい。撤退(ライセンス終了)は2006年1月末だったが、その後もしばらくはドトールの看板を掲げたまま営業していた。

 いくつか思い出の店を挙げよう。ソウル観光ホテル(このホテルも姿を消して数年が経つが…)前の清進洞店は特殊な作りで、店内のドアが隣の居酒屋につながっていた。居酒屋の営業時間になるまでは居酒屋の席もドトールの客向けに開放していた。ライセンスの関係なのか、一時看板の文字を1文字だけ変えて「ドトーリ」にしていたが後にまたドトールに戻し、そしてまた別の名前に変わりそのまま閉店した。

 明洞には4店舗が集中していたが、そのうち2店舗を愛用していた。明洞の中心部にあった店舗は1階と地下に客席があり、男性店員とは顔なじみだった。ドトール撤退のリリースが出た直後に店を訪れた際にこの男性店員に事情を尋ねた際には、別の会社とライセンスを結んで存続するかもしれないとの話を聞いたが、結局それは叶わずこの店もなくなってしまった。もうひとつ愛用していたのは中央郵便局裏手、現在は参鶏湯の栄養センター本店になっている場所にあった店舗。ここは1階と2階に客席があり、2階はいつも空いていたので週末の午後に読書をするのによく使っていた。ドトールから運営者が変わった後もコーヒーショップとして存続し、毎週通っていたので店員とも顔なじみだった。夏でも冬でも必ずアイスコーヒーを頼んでいたおかげで店員も私が店に入った瞬間にアイスコーヒーを準備するようになった。時に並んでいる人を差し置いてまで準備してくれるVIP待遇だった。運営者が変わった後も通い続けたのは、コーヒーの在庫があったからなのか、ドトールのコーヒーをそのまま提供していたからだ。しかし残念ながら2009年ごろにこの店も閉店してしまった。

 ドトール撤退後も多くの店舗が看板を変えるだけでコーヒーショップとして存続していた。店内はほとんど改装されず居抜きで使っていたのが特長だ。そのためしばらくはドトールの面影を追い求めあちこち通ったものだが、その面影も徐々に失われていった。ドトール撤退の理由は、韓国側パートナーの事情で、ドトール側としても満足のできる店舗展開ができていないことに不満があったもようだ。担当者に問い合わせメールをした際には「日本のドトールでは本国ならではのクオリティの高い新メニューでお待ちしてます」というようなことが書かれており、暗に韓国のクオリティに難があったかのようなニュアンスを漂わせていた。撤退当時のプレスリリースでは、「韓国のコーヒーショップ市場は将来的に有望であり、新たなパートナーが見つかり次第再進出する計画」とされており、実際にソウル牛乳と組んでコンビニ向け商品を販売していた。これが好調なら店舗展開もあるとされていたが、実績は振るわずライセンスが終了し店舗展開の夢も断たれた。昨年にはGSリテールと共同でやはりコンビニ向け商品の販売を開始している。うまくいけば店舗展開もありえるのか。在韓ドトーリストとしては動向が気になるところである。

初出:The Daily Korea News 2017年3月20日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?