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チームビルディングー七人の侍ー

黒澤明監督の「七人の侍」は、タイトルこそとてつもなく有名だが、実際にそれを観たことのある人は、若い人にはそう多くないかもしれない。
なにせ3時間半に及ぶ長編時代劇だし、戦後わずか9年の1954年に製作された古いモノクロの邦画だし、そうそう皆が観る機会に恵まれる作品ではない。
けれど、私は思うのだが、この作品ほどほとんど全ての人にとって面白いと思えるであろう、素晴らしくよくできた傑作は他になく、そうだからできれば、多くの人がその価値に出逢えることを願ってやまない。

時代劇ではあってもテーマは普遍的かつ情に溢れたドラマであり、練りに練られたストーリー、個性的なキャラクター、迫力あるアクション、胸に響く音楽、テンポの小気味よさ、無駄のない脚本、そしてまた、これこそ珠玉とシビれる演出。
ありふれた時代劇の説教臭さや浮世離れ感などなく、お決まりの展開もなければ、安っぽいお涙頂戴もない。

ああ面白い!という明快な娯楽性と、その上で差し迫る感情の渦に、それこそが稀有なる「感動」だと知ることができる。
全てがユニークで、全てがスペシャルなのだ。

「七人の侍」を褒めるのはこのくらいにして、ある日曜の夕方のことについて書こう。

半年以上会っていない友人から連絡があった。
「今晩ご飯でもどう?」ということで、ちょうど映画を観にいこうかと思って外出の準備を始めていたので、「いいよ」と応えて相当久しぶりに会うことにした。
少なくとも二人で会うのは、1年ぶり近くになる。
この1年の間に、彼が激動の日々を送っていることは方々の噂に聞いていたし、また最後に二人で会ったタイミングでも、その偉大なスケールの忙しさが既に始まっていると彼から直接聞かされていた。

久々に会って、最初の会話は「前会ったの、いつだっけ?」。
前に会ったときはランチだったが、そのとき彼は昼間っからビールをあおった。
肩の荷の重さや複雑さに、ピリピリした感じが伝わってきた。

1年ぶりの日曜の夜、彼の用件の中身は、ちょっとしたプランの提案だった。
そっけなく言えば仕事、熱く言えば未来の夢の。
どうやら起業を考えていて、そのビジネスプランについての意見を聴きたいというのと、それから、仲間探し。
一緒にビジネスを立ち上げていくパートナーを探している。

iモードサービスの立ち上げをした松永真理は著書「iモード事件」の中で、ビジネスの仲間を集めるプロセスは七人の侍に似ていると表現していたが、言い得て妙だと思う。

「七人の侍」は戦乱の時代、野武士たちに度々襲撃されて疲れ果てた百姓たちが、侍を雇って自らの村を守ろうと思いつくところから始まる。
村人たちはまず、一人の老練の侍・勘兵衛に出逢って協力を求め、彼を起点に他の6人が集まっていく。

リーダーの見込んだ信頼できるNo.2。
リーダーが惚れこんだストイックで腕の立つ男。
No.2が連れてきた、腕はいまいちのムードメーカー。
リーダーと幾つもの激しい戦をともにしてきた古女房役。
理想に燃える青臭いほど実直な若武者。
素性は悪いが不思議な魅力で人心をつかむ破天荒な男。

6人の侍を探し出し、口説き落とし(あるときは熱烈に押しかけてくる輩もいる)、チームを作る。
優秀なばかりのオールスターチームではないが、それぞれの個性が共存し共鳴するチームが生まれる。

「7人の侍」の面白いところは、この7人が個人として活躍するだけでなく、各々の適性を活かして立ち回り、百姓たちとコミュニケーションをとり、貧しい農村を堅牢な砦に、武器を握ったことのない人々を立派な兵士に育て上げていくことだ。
チームはさらに大きくなって、野武士に立ち向かう軍隊になる。

非力だった百姓が、頼もしいリーダーたちを得て、今や力強い鴇の声を上げる。

戦でもスポーツでもビジネスでも、チームビルディングは、エキサイティングでパワフルでダイナミックな所作だ。

「ただ一つ、これがなくては会社は成り立たないという要素を上げるとすれば、それはなにか?」
今の会社に転職する際の面接の最後に、アメリカ人のCFOから投げかけられた質問に対して、唐突すぎて一瞬戸惑ってしまったが、それでも「人だと思います」と答えた。
こんなに当り前の質問をされると、当り前の回答をすることに戸惑う。

それでも、CFOが言うには、彼は必ず面接で同じ質問をするが、案外とそう答える人は10人に1人もいないのだそうだ。
そう言った後、彼は握手を求めた。

企業というチームには、個人では持ち得ないほどの、世界をより良いものにしていく力がある。
その力を信じればこそ、人は企業に集まって金銭以外のことのためにも働けるのだ。

まずは仲間探しを始めた友人と、新しいビジネスの可能性を語る。
彼のプランは面白い原石で、それを磨けばもっと輝きそうにも思う。
原石を見つける人、磨く人、それで指輪を作る人。
彼は自分に何があり、何が足りないかをよく知っていて、だから仲間を必要としている。

企業は乾いたものじゃない。
潤う命があるものだ。

たぶんそういうことを、最後まで忘れてはならないのだと思う。


七人の侍(1954年・日)
監督:黒澤明
出演:志村喬、稲葉義男、三船敏郎 他

■2006/7/12投稿の記事
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