<一言コラム>シャルル・オンブル楽団 (第17回関連)
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<一言コラム>シャルル・オンブル楽団 (第17回関連)

霧の中のメモリーズ

”シャルル・オンブル”という楽団の名前を聞いたことがありますか?

Charles Ombre et son Orchestre、あるいは、シャルル・オンブル楽団。

楽団名だけでピンとくる人は少ないかもしれませんが、1960年代から70年代の日本コロムビアには、シャルル・オンブル楽団なる名前の録音が残されています。

  • ナンシー「いつわりの恋」、三浦礼子「渚に消えた恋」、キャラクターズ「港町シャンソン」など、谷川氏が発足から関わったDENONレーベルの初期シングル もそうですが、

  • 筒美京平が編曲・指揮をてがけた『ヒット!ヒット!ヒット! 知らないで愛されて』 、

  • 10年ほど前に小西康陽により復刻された、コーラスグループ、ジュヌ・エトワール『ニューヤング・コーラス』、 

  • 大西修編曲によるインスト・アルバム「リズム・コレクション ヨーロッパ編」、

  • 「フランシス・レイをあなたに VOL.1」
    などの作品のジャケットに楽団名が刻まれています。註1)

谷川氏によると、この「シャルル・オンブル楽団」の発案・命名者は、谷川氏自身だったそうです。

コロムビアに限らず、当時の歌謡曲の録音はスタジオ・ミュージシャンが引き受けており、洋画のヒット曲を再演するなど、彼らの演奏だけによるインストのムードアルバムも出回っていました。

「アーティストを"陰で支える"オーケストラ」ということで、最初は「シャドウ・オーケストラ」としようと思ったそうですが、外国のレコードでは人の名前が入っているので、同様に「チャールズ・シャドウ・オーケストラ」と名付けようと考えたそうです。註2)

ここで、「シャドウ」と命名してしまうのは、当たり前すぎるので、フランス語が堪能なコロムビア社員の助けを借りて、「Charles」=「チャールズ」=「シャルル」、「Shadow」=「Ombre」とフランス語に翻訳する一工夫を施して、「Charles Ombre Et Son Orchestre」=「シャルル・オンブルと彼の楽団」が誕生しました。

なお、チャールズには「コレット・テンプル」のような大きな意味はなかったようです。註3)

一方、「多羅尾伴内楽團」についてですが、大滝詠一には自分の手掛けるインストものには"楽団"という言葉を使いたいという意識が、元々、あったと思います。

ラジオ放送「ゴー・ゴー・ナイアガラ」では、ブルース・ジョンストン楽団の『サーフィン 世界をまわる』やボビー・ダーリン楽団の「Come September」など、アーティスト自身の名前が入った楽団もののレコードも好んで紹介していますし、「夢で逢えたら」のインストゥルメンタルバージョンを「大滝詠一楽団」として紹介もしています。

これが「多羅尾伴内楽團」という企画にまで発展したのは、アルバムを作るにはテーマが必要だという谷川氏からの意見も少なからず反映されているようです。

「七つの顔」として、新たなテーマを決めながら、次々とアルバムを作ろうというコンセプトを決める過程においては、谷川氏からも”シャルル・オンブル楽団”の紹介があったのかもしれません。

「これは"フランシス・レイ・オーケストラ"だ」、「これは"フランク・スレイ・オーケストラ"だ」、「これは"灰田晴彦と南の楽団"だ」などと、"オーケストラ"や"楽団"という文字の入ったレコードに耳を傾けると、レコードに録音されている演奏と、その演奏者についても、これまで以上に目や耳が向くようになってきます。

ブルース・ジョンストン楽団「Makaha At Midnight」やジ・アイランダーズの「Some Enchanted Evening」などを弘田三枝子がカヴァーしたように、大滝詠一が「夕陽の渚」や「魅惑の宵」を多羅尾伴内楽團のもとで歌うとしたら…と想像していると、駒沢スティール・ギターの向こうから、やわらかな大滝ボーカルが聞こえてくるような気もします。

ブルース・ジョンストン楽団EP「サーフィン・ベスト・フォア」
(『多羅尾伴内楽団Vol.2』ジャケットに影響を与えている可能性大)
ビリー・ヴォーン楽団「テルスター」
(『多羅尾伴内楽團Vol.2』の「テルスター」選曲に影響を与えている可能性小)
大滝詠一が「テルスター」を歌ったら、どんな解釈をしただろうか。


「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」関連項目

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(多羅尾伴内楽團のエピソードが登場します)

<シャルル・オンブル楽団 参考文献>

阿久悠初期の作品「港町シャンソン」(1969)などには、
A&R PRODUCERとして谷川氏の名前が「T.TANIKAWA」と記載されている。


註1)シャルル・オンブル楽団は、たとえば、次のような作品に記載があります(まだまだありますが)

  1. ナンシー「いつわりの恋 / キャンドル・ディア」(1968)DENON CD-1

  2. 三浦礼子「渚に消えた恋 / マーメイド・ラブ」(1968)DENON CD-3

  3. 小栗アキ「雨に別れて / 花のめざめ」(1968)DENON CD-6

  4. J・ガールズ「あなたが来ない日 / 涙で見えない」(1968)DENON CD-20

  5. カコとこういち「男の子と女の子の唄 / 僕の個人的な体験」(1969)DENON CD-47

  6. 「フランシス・レイをあなたに VOL.1」(1971.4)DENON CD-3016

  7. 『ヒット!ヒット!ヒット! 知らないで愛されて / 恋人』(1970)DENON CD-4015

  8. ジュヌ・エトワール『ニューヤング・コーラス』(1968.12)DENON CD-5002

註2)ミュージシャンにしても、一部のミュージシャンの名前をメインにすることもありましたが、多くは個人名のクレジットをつけませんでした。

『尺八ロック』村岡実(尺八)ザ・ライフシアターズ(1970) Columbia – HS-10017-J
"尺八ロック"シリーズ第1弾「村岡実(尺八)とニュー・ヒット・サウンズ」名義が、
第2弾「任侠編」では「村岡実(尺八)ザ・ライフシアターズ」と変更された。
収録曲「人生劇場」にあわせ、その場のノリでつけたようなバンド名である。


註3)日本の覆面楽団としては、
・「太陽はひとりぼっち」で有名なコレット・テンピア楽団が、寺岡真三氏の「岡」(コレット)と「寺」(テンピア)の組みわせだとか、
・沢田研二「危険なふたり」なども担当したケニー・ウッド・オーケストラが、森岡賢一郎氏の「賢一郎」(ケニー)と「森岡」(ウッド)の組みわせだとか
というエピソードがよく知られています。
 ただし、「岡・寺」をイタリア語にすると、collina・tempio(コリーナ・テンピオ)、"Colletto(コレット)"とは、シェイクスピアの自画像にも見られる"襟"のことのようです。馴染みのない外国語の単語の意味について語るときには、巷にあふれているエピソードであっても、知ったかぶりは出来ないものだと、改めて"襟"を正してしまいます。

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「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」(noteマガジン)


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