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Re: LOOK


「WONDERって、いい名前つけたよな」

1年くらい前、僕がこれからの作品作りの方針で悩んでいるみたいな話をした飲みの帰り道、親友に言われた一言だ。

WONDERという名称は、愛してやまないインストバンド、toconomaさんのwander wanderという曲から読みの音を引っ張っている。
ちなみに、wanderという単語は「さまよう、うろつく」という意味があって、それをそのまま引用しても良かったのだが、それよりはwonderという単語の持つ「疑問に思う」ということの方が自分の本質に近い気がして、「WONDER」という名称とした。
そのような安直とも取れる考え方でつけた名前であるがわたしはその名前を我が子の名前のように気に入っているし、作品の根底にもやはりその時々に自分が感じる多くの「疑問に思う」ことが練り込まれている。
作り始めた当初は「既存のファッションに対する疑問」というところがテーマだったが、作りながら、そして日々学びながら活動していく内に、(分かってみれば当然ではあるのだが)ファッションはファッションだけでは完結しておらず、多分に社会的情勢を含んだ、大きな軸で言うと時代の流れと密接に結びついている。なので、現在はファッションに限らず自分が生きていて感じた疑問をごちゃ混ぜにしながら、WONDERという立体物(服)にしている。

疑問に思うということは物事を再考するための良いきっかけであるが、それに囚われてしまうと堂々巡りになり、行動が出来なくなる(あるいは極端な行動をする)ことになる。
映画「インセプション」で、主人公の妻であるモルは、自分が夢の世界にいるのではないかと常に疑い続けた結果自殺をすることになるが、前提を疑うことの危うさがあのシーンには現れている。

ファッションについて学んで知っていくほど、考えていくほど、マクロに考えてもミクロに考えても自分が服を作ることは良いことなのかどうなのか、どんどんわからなくなっていくことがある。常に前提を疑うこと、だからこそ自分の作品や自分の制作の姿勢についても、時々僕が行っていることが正しいのか疑ってしまうことがある。自分の作品の、つまりWONDERの矛先が剥き出しの刃となって自分に向いてしまっている状態だ。
そんなとき、僕は自分の信頼できる自分の身の回りの人に頼る。と言っても2人しかいないが。
パートナーである妻と、冒頭の言葉を僕にかけてくれた土田凌である。

土田 凌

このnoteを隅々まで読んでいる聖人だともしかするとわかるかもしれないが、土田はこのnoteのヘッダーイメージを毎回提供してくれているフォトグラファーである。
彼と知り合ったのは大学の時で、よく話すようになってから10年ほど経つ。ちなみに個展とかにもよく遊びに来ていたり、365日のうちの330日くらいはWONDERのパンツを履いている(ちなみに、大袈裟ではなくリアルに履いている)。彼の履いているパンツが僕の作品の中で一番劣化していて、かつ一番味がある。そして謎に指パッチンが得意である…
などと、土田あるいは彼個人のことについて書こうとすると(箸にも棒にもかからないようなことを含めて)1万字くらいあっても書けてしまいそうな気がするので、今回はなるだけ今回の撮影に関する部分だけ書くようにする。

彼は普段、服の写真は撮っていない。では何故今回彼に頼んだかと言うと、(彼の写真が好みなのはもちろんなのだが)僕のものづくりのバックボーンをかなり理解してくれているからである。ちなみにこの、僕の制作のバックボーンをかなりの粒度で理解している人というのは彼のみかもしれない。

今回の撮影は、彼と久々に飲んだ帰り道で、行うことを決めた。今年の1月頃のことだったと思う。
僕は彼に、飲みながら「これからの作品作りに悩んでいる、というか、少し作ることから離れたほうがいいんだろうか…」などと話していた。
彼はいろんな角度から僕の話を引っ張り出してくれて、そうして話しているうちに、まだ制作をし続けてもいいんだということと、大局的に自分が向かっていく先がおぼろげながら見えた気がした。
帰り道、話に付き合ってくれたことの謝辞などを伝えたり、他愛もない話をしたりしながら歩いているとき、彼がふとこぼした。

「WONDERって、いい名前つけたよな」

その言葉に、今も支えられている。僕のいろんな迷い・行く先・考え方などは結果的にWONDERに反映されていて、だからこそ制作者である僕がWONDERという制作物に自分が悩まされてしまうという点とかをひっくるめて理解して、上記の言葉が出てきたのだと思うと、心がじんわりする。
そしてその言葉を聞いたとき、次回の撮影は彼にお願いしようと思って、去り際に「次の撮影頼むね!」と伝えた。
彼は「あーね」と言いながら去って行った。(ちなみにあーねは彼の口癖である)

そんな会話をしてから、気づけば半年以上が経過。
僕は何の脈絡もなく彼にラインをした。
「9月の下旬、撮影して欲しいです!」

テーマ

WONDERは、SSAWのような基準を設けていない。着たいものを着たい時に着れば良くて、制作物に対してSSとかAWとかの観念を作品に入れ込みたくないからである。一応、春夏はカットソー・ショートパンツなどに、秋冬はフーディやロングパンツなどに、比重を置いてはいるものの、どれも着方で大体のシーズンいけるので、やはりそういう点で季節感はあまりないと個人的には思っている。
シーズンでの提案がない(≒時期によって撮影を行うことが決まっていない)ので、撮影に関しては、制作のタイミングや予算の都合など、僕個人の裏側の事情で決まることが多い。
今回は、僕自身のクリエイションの軸みたいなものが、WONDERを制作する中でだんだんと変わってきていて、最近その変化が大きな分岐点を迎えた気がしていたので、WONDERのこれまでとこれからを表現したくて撮影をすることにした。
分岐点。そう、Junctionである。

Junction

僕は首都高が大好きだ。いつからそうなのかはわからないが、幼少期も父親の実家に遊びに行く時に首都高を通っていて、その時は毎回すごくドキドキしていたのを覚えている。上京し、社会人になり、自分で住む場所を選ぶときも、首都高の近くとか、なんなら「首都高が見下ろせるマンション」などというワードで物件を探したりしていた。ちなみにそんな検索ワードで引っかかる物件はなかった。それもそのはずで、基本的にはネガティブな要素として捉えられる部分だからだろう。結局首都高の横に住むようなことはなかったが、住んだ場所が意外と首都高のJCTに近いということはちょこちょこあった。両国・西新宿・箱崎…などなど。僕は水辺も好きだったので、隅田川のリバーサイドから見る両国JCTは、中でも感動的だった。

両国JCT

ものすごく話が逸れているので無理やり戻そう。
僕は、自分のクリエイションを「ゆるやかに流れているもの」ものだと思っている。ゆるやかに、色んなものを吸収したりあるいは削ぎ落としたり、でもそうしてだんだんと自分のコアとなっているイメージには近づいていくような、川が海へ向かうような、そんな感覚。何かこう決意をして全く新しい道を走り始めるというよりか、今までの自分とこれまでの自分がシームレスに繋がる感覚。でもその時々の選択で行く先、たどり着く先は全然異なる感じ。変化がある時の変化の仕方、分岐の仕方が、まさに首都高のジャンクションのような、なだからな移ろい方との親和性を感じて、今回の撮影テーマにそれら(分岐/Junction)を設定した。

Re-thinking Relative Value

「分岐といってもよくわからん」という人が多いと思うので、自分なりの解釈を記載しておく。
基本的に、僕がWONDERを通してやりたいことは「相対的価値の再考」である。作品作りのコンセプトとして
「NEUTRAL ARTWORKS FOR RE-THINKING RELATIVE VALUE」
としているのも、そういう意図がある。

Profile

「相対的価値」とは僕が勝手に編み出した造語である。社会的価値と言い換えても良い。つまり個々人が思う「良い」という価値というよりも、社会との関係性における「良い」という価値のことだ。例えばわかりやすいロゴや柄のブランドものや、○○年製のヴィンテージデニム、有名人の○○さんが着用したアイテム…などなど。それらを持っている(着用している)こと、それ自体が価値となるもののことを「相対的な価値の高いモノ」と認定している。その相対的な価値は非常に流動的で、ファッションに於いてはそれらはしばしば「流行」と呼ばれたりもしている。流行は、終わりのない消費ゲームのようなもので、次々に産み出されていく記号を取っ替え引っ替えしているだけにすぎない。個々人にとっての真実の価値(僕は絶対的価値と呼んでいる)にフォーカスされていない、流動的な価値感覚だからだ。

さて、そうした相対的価値の再考に少しでも寄与できる作品としてWONDERを制作しているわけだが、では今回の分岐は何がどう分岐なのかというのを簡単に説明させていただく。
今までのWONDERは、アイコニックなジャージ(社会的な価値)を解体再構築することで、新しい価値として昇華させる試みだった。
これからのWONDERは、そういったアイコニックな価値以外にも、リサイクルショップの売れ残りや残布、様々な理由で着られなくなった衣服など、もう少し包括的な意味合いでの価値の低いものを扱い、質感や色味の組み合わせなどに注力した作品を制作していきたいと思っている。

アップサイクルやリメイクは、ここ最近のSDGsの流れでかなり活性化したし、それこそファッションにおける流行と消費のど真ん中にいると言っても過言ではない。WONDERも、古着の再構成である以上そうした角度から捉えられたりすることもある。一見、消費の逆にありそうなリメイクという行為すら、ファッションの名をまとうと消費的になってしまうというのは、とんでもなく軽薄な側面を持つファッションらしい矛盾点であるような気もする。
僕はWONDERに於いては、そういう構造に「乗るでもなく否定しない」というスタンスでありたい。(WONDERを)表面上アップサイクルであるとかSDGsであるとか大々的に打ち出せば、今の世間的には認知されやすいし受け容れられやすい。でも、僕のものづくりの根底はそこではない(ちなみに、ファッションに限らずSDGs的な観点は自分のプライベートの生活では意識している)。そして「服のブランド」という意識もあまりない。ものづくり(例えば陶芸とかガラス細工みたいな)という言葉が一番しっくりくる。
クリエイションの土台、発信源がSDGs的な観点ではないのに、他者から見える部分だけ取り繕ってみても、それはそうした(ファッションにおける)SDGsを心から大切にしている人への偽りにもなるし、自分への偽りにもなる。

インターネットが主流となった今、パッとみた時のイメージや画像にした時に映えるかなどの面がやはり取り沙汰されやすいが、そういった(五感の中の)視覚のみからのアプローチではなく、人間とそれを覆う衣服である以上、リアルでしかありえない触覚的な感覚も混ぜ込み、個々人の絶対的価値にアプローチ出来るような、そんな作品を作りたい。
とろんとしているのか、パキッとしているのか、薄いのか、厚いのか、固いのか、柔らかいのか、天然繊維なのか、化学繊維なのか…服の質感の表現はものすごくさまざまで、それらの質感はその人の表面を覆っていて、何で覆うかをその人は決めている。それらの質感の選択というのは、皮膚にダイレクトに触れる部分だからこそ、視覚よりも比較的絶対的な感性(自分が快適だと思うかどうかという点など)の割合が高いはずで、だからそこにフォーカスしたものづくりへシフトしていきたいと思うようになってきたのだ。

いままでとこれから

さて、今回のLOOKは、いままで3型・これから3型、で展開している。
ジャージを軸として、アイコニックなものの再構築や、目を引く多彩な色を使った「いままで」の3型。
生地の組み合わせやステッチワーク・パネルのスイッチ・ほつれ・ズレなど、質感の多様性を求めた「これから」の3型。
それらをどのように見せていくかというところがポイントだった。
どちらかと言うと「これから」のイメージに寄せたかったので、「ダイナミックな自然と作品」というところを主題とした。都会的な人間の意識の産物よりも、自然が作り出したそこに在るもの・たまたまそうなってしまったもののようなものへ作品をなじませるようにしたかった。

モデルのJulianneさんは、1年ほど前から拝見させていただいていた方だった。モデルとしての表情とポージングのバリエーションはもちろんながら、自然(Nature)への向かい方と馴染み方がとても理想的だった。WONDERは都市とサブカルチャー的な側面からものづくりをしてきたが、上述の通り今後は(それらも残すけれど)テクスチャーだったり、皮膚感覚だったり、そういうもう少し土着的な、わかりやすくいえばアナログな部分からのアプローチをしたいと思っているので、そういう点から考えても自然への意識は重要だった。

ヘアメイクは、度々お世話になっているYuko Yamaguchiさんに。
正直、メイクに関してはわからないことだらけな僕のために、イメージを共有した上で一緒に色々と考えてくれた。今回特に凝りたかった、ホワイトの特徴的なアイラインを使ったメイクも、(小雨が降っているという悪状況ながら)完璧に仕上げていただいた…本当に感謝です。ありがとうございます。

フォトグラファーは、上述のとおりだ。土田凌。
服を見せる、というよりはそれらの周囲(自然)も含めて、マットな質感でダイナミックな構成をメインにしてほしいと伝えた。

結果、とても満足な撮影となった。
正直、InstagramにUPされた画像を見ただけではその写真に何が込められているかというのはなかなかわかりにくいと思ったので、今回このnoteを記載することとした。とはいえ、このnoteも随分わかりにくいかもしれない。

終わりに

今後は、上記の「これまで・これから」を日々アップデートしながら制作をしていきます。
ストーリーなどでもちょくちょく発信しているように、あまりオンラインには頼りたくないものの、遠方でご覧頂いている方などのために今後も不定期でオンラインは更新します。ただ、オンラインは制作物全体の2割ほどにとどめて、あとは展示会等の実地でご覧いただく場を定期的に作っていきたいと思っています。

現在、神泉にあるセレクトショップ「RforD」に作品をいくつか置かせてもらっています。お近くの方や遠方から東京へ遊びに来た際などは、WONDERをぜひ体感してみてください。

11月の中頃から、書いては修正して書いては修正してと繰り返していたら気づいたら年末になってしまいました。
皆様今年もありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

良いお年を。


Header Image Credit
Photo by Ryo Tsuchida


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