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パーティーの夜明けについて

COT presents SUMMER 2020 OPEN AIR RAVE
https://iflyer.tv/event/329141

今週末はageHaで3月以来のDJをやります。このパーティーはageHaの野外エリアの3フロアを使ったオープンエアー・パーティー、ビーチではないけれど海沿いの素晴らしいロケーション。今年は世界中でパーティーがない夏となってしまった、今週末はじゅうぶんに感染症対策をしたうえでの貴重なパーティーとなるだろう。今回僕はパーク・ステージの夜明けでプレイさせてもらうので、パーティーに向けて僕自身の思い出を書いてみようと思う。

95年にパーティーに出会ってからもう25年、DJとして、またオーガナイザーとして企画した野外パーティーはプライベートなものまで含めると相当な数になる。もちろんオーディエンスとして踊りに行ったものも数えきれない。野外パーティーの大きな魅力は様々あるけれど、一番は夜明けに向けて刻々と移り変わる空の色や空気の変化ではないだろうか。夜明け前、水平線あたりからゆっくりと深い濃紺から紺へ、そして周囲がうす青くなり、やがて雲に曙光がゆっくりと反射して空が徐々に赤からオレンジに変わる。このダイナミックな景色をバックにぴったりの曲がかかった瞬間ほど心が大きく動かされる、そんな体験をした人も多いのではないだろうか。

僕がパーティーの夜明けで決定的な体験をしたのは1997年、僕が今回のパーティーに出演するTSUYOSHIさんとMATSURI TOKYOを立ち上げた頃のこと。この年の夏に僕はMATSURI TOKYOでちょっとばかり変わったパーティーを企画した。海沿いの国道134号からほんのひとブロック入ったところに普段はヒップホップのパーティーをやっている小さなクラブがあった。そこは海まで歩いて1分というロケーションだったので夜はクラブを中心にして、深夜2時ぐらいから朝にかけてはビーチに組んだサウンドシステムでも音を出す2フロアというパーティーになった。

ところがパーティー当日はとんでもない豪雨、一応は野外用のシステムも用意したけれどオープン時間になっても雨はやまず、もうビーチは無理とあきらめていた。パーティーがスタートすると雨にもかかわらず都内から数十人のパーティー・フリークがきてくれた、SNSもない時代にフライヤーと口コミだけでパーティーを見つけてくる人たち、本当に熱い時代でした。

パーティーも進み、午前2時ぐらいにふと外に出てみると雨はすっかり止んでいて、空を見上げると雲間には星が光っていた、僕はそのままビーチに出た。深夜の海は暗く波音が響いていたけれど、速い速度で動く切れ切れの雲もすくなく合間には星が見えた、これならやれると思った僕はスタッフと一緒にビーチにサウンドシステムを運ぶことを決めた。この時のスステムは当時スタッフだった吉川くんが持っていたモノリスというスピーカーで、以降様々なパーティーで活躍したはずだ。ビーチのシステムを組み終わったのが4時ぐらい、うっすらと夜は消えかかっていたけれど夜明けにはまだ時間があった。4時半ぐらいに最初のDJだったテクシゲがようやく音を出し始めた。

この時、もう日の出は間近だった。夜明け前のいちばん暗い時間がおわり、乳白色のもやがかかった海にはてんてんと小さな雲が点在し、その後ろは真っ青な夏の空が深い青からスカイブルーのグラデーションを作っている。僕は奇跡のように美しい雨上がりの夜明けに圧倒された。刻々と色をかえる空をこれから登ってくる朝日を反射してピンクに光る雲が流れていく。そのときDJがプレイしたのが、Chicaneの「Off Shore」だった、この神秘的な瞬間にこれ以上の曲はない。

思えばこの瞬間こそがその後のMorning TracksシリーズやNight&Dawnというパーティーへ続く大事な瞬間だった。僕がOff Shoreを聴きながら思ったことは今でもよく覚えている、それはいま僕が目にしているこの景色はもう二度と繰り返されることはない、ということだった。僕はこの瞬間にパーティーや音楽についての感性を決定付けられた、そしてある意味自分を取り巻く世界に対する認識や音楽の意味の深さを知ろうとする知性が起動したと言ってもいい。

その後、バレアリック・サンライズをはじめ数々の素晴らしい夜明けを体験することになるのだけれど、この日の辻堂海岸ほど美しい瞬間はなかった。パーティーで踊ることはただ音楽を聴くこととは決定的に違う。自分の体をコントロールしてリズムにあわせ踊る、音楽にダイブするように心を解放する、それはまた知性をドライブしイマジネーションを駆使して世界を見つめる行為なのだ。もちろんこれは僕自身の意見だから楽しみかたは人それぞれでいいと思う、ただし誰にとっても同じ瞬間は二度と訪れない。この週末は久しぶりに野外の夜明け、移り変わる空の色を見ながらDJしようと思う。

与田太郎

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