現職地方女性議員の「選挙と妊娠」 #1
こんにちは!
台東区議会議員の本目(ほんめ)さよです。「届きづらい女性の声を政治につなぎ、一つずつ実現していく」ことをミッションとした団体・WOMAN SHIFTの代表も務めております。
私たちの活動のキーワードでもある「女性」。女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントですが、それは女性議員にとっても同じ。そして議員にとっての妊娠・出産は、選挙と切り離せないものでもあります。
とはいえ、まだまだ現職議員が妊娠出産をするケースは少ないもの。でも、前例が少ないからといって、選挙や任期を理由に議員に妊娠・出産を諦めてほしくない―そうした思いを抱く中で一つのロールモデルになれればと、選挙3ヶ月前に第二子を出産した私・本目の「選挙と妊娠」について記録をとりました。
聞き手は事務所のインターンが務めています。初回となる今回は妊娠6ヶ月の頃(2022年9月)の記録です。
コロナ禍で議員活動をしながらの妊活について、議員の産休育休、妊娠期間中の過ごし方、また台東区の産後ケアの制度など、盛りだくさんの内容になりました。
■2022年9月の記録(本目 妊娠6ヶ月)
(インターン)はじめに、なぜこの記録を残そうと思われたのですか?
(本目)この記録については、どうしようかとても悩んだのですが...
2023年4月に選挙を控える中で、1月に第二子を出産予定なんですが、女性議員はどうしても選挙を念頭に置きながら妊活をすることになります。
私と同じ年くらいの方(40代)で、選挙前に卵子を凍結しておき一旦治療をストップして、選挙が終わってから凍結卵子を戻す人もいると聞いています。
ただ選択肢はいろいろあっていいと思うので、治療をストップするのではなく私のように選挙前に産むというのも一つの選択肢だと思います。
選挙前に出産をした私が選挙をどのように戦ったのかという記録が、次の世代や後進のお役に立てたらと思い、記録を取ることしました。
-会社員ですと産休や育休のスケジュール相談もあるため、通常職場へ相談や報告をすると思いますが、本目さんはどちらかへ妊娠の報告はされたのでしょうか?
(本目)妊娠がわかった時点で、議会事務局の局長と次長には「流産のリスクもありますが」という前置きのもと、公表の時期や今後について相談しました。
公表の時期については自分で決めていいということだったので、皆様への報告は安定期に入ってからということに決めました。
-ということは、今はまだご自身のHP等では表立って公表はしていない?
(本目)この記録をとっているのは、2022年9月16日で現在妊娠6か月ですが、HP等での公表はしていません。
というのも、ネット上での不特定多数の方へ向けての公表については、別の自治体で同じように公表した議員が、厳しいお声をいただいたケースもあって躊躇しています。
「任期中に妊娠するなんて」というお声や、産後2か月は休む予定なので24時間365日議員として働けないということもあり「議員辞めてからにすればいいのに」という声ですね...
直接顔を合わせるリアルな知り合いの方は、妊娠出産の報告をすると「おめでとう」と言ってくださるのですが、ネットでしか知らない人からは辛辣な言葉が飛んできます。
そうしたことから現時点では不特定多数に向けての発表となるネット上での公表はせず、11月の議会のレポートをお送りするときに、妊娠していることや出産に時期について別途書かせていただこうと思っています。
先ほども申し上げたように、産後2か月くらいお休みをいただく予定ですが、何かあればご連絡をいただければと思います。また私で対応が難しい場合は、仲間の議員に対応を引継がせていただくことをご案内しようと思っています。
-妊娠初期には体調不良の時期があったと伺っています。一般企業で働いている方も妊娠を公表する前は体調不良を理由に休みづらいという声が聞かれますが、乗り越えるためにどういった工夫をしていましたか?
(本目)現在コロナ禍ということもあり、リアルでの会合が減っていることが私にとってはプラスでした。
つわりがひどかったので起き上がることも難しかったのですが、オンラインの会合だとなんとか参加できることもありました。またもともと私の議員活動として、連絡手段にSlackを使用していることもあり、直接会わなくても活動ができました。
今も外に出すぎるとしんどくなるので、予定を詰めすぎないよう心がけています。勉強会や議員連盟の活動など比較的自分でコントロールできる予定については、取捨選択をして無理をしないようにしています。
―第一子を育てながらの妊娠は議員かどうかにかかわらず大変だと思いますが、予定を調整をしながら活動されているということでしょうか?
(本目)はい、体調を見ながら調整して活動しています。
病院から母権連絡カード(診断書)は書いてもらっていましたが、議員は提出する場所がないので、結局自分で持ったままでした。議会を休まなければいけない場合は提出しますが、欠席の理由も妊娠であっても病気扱いということになると思います。
本会議など長時間座っていなければいけない会議もありましたが、どうしても辛かったときは局長と次長に相談して、途中横になれるところで休憩を取りながら出席していました。
-先輩女性議員の中には、不特定多数の方から妊娠公表に関して色々と厳しいご意見を受けた方もいらっしゃったという話が冒頭にもありましたが、議員ご自身が在職中に妊娠出産を迎えるのは、現状レアなケースなのでしょうか?
(本目)そうですね、まだまだ少ないと思います。
WOMAN SHIFTでは20〜30代の女性議員は1%以下、有権者の中で同じく20〜30代の女性は約13%というデータがあります。この数字からも、在職中に議員自身が妊娠出産をするケースは、確率的にもかなり低いということがわかると思います。
そうした中でも在職中に出産した先輩議員が立ち上げられた「出産議員ネットワーク」というものがあり、情報を集める際などに利用しています。
-子育てをある程度終えてから議員になる方もおられますが、実感として在職中の妊娠出産はハードルが高いと感じますか?
(本目)いくつかハードルがあると思います。
一つは、まずパートナーが見つからないんじゃないかという雰囲気があること。私は最初に立候補をしたときは29歳で独身だったので、そんなことを言われました。
その他にも議員活動との兼ね合い、不妊治療との兼ね合い、また他の議員の選挙の応援などもあるので、難しいことも多いと思います。
今はまだ妊娠中の議員活動・政治活動がどうあるべきかが確立されていない部分があるので、在職中の妊娠出産のハードルは高いのではないかと感じます。
-産前産後休暇については法律で決められたものがありますが、そちらに従って産後2か月は休む予定なのでしょうか?
(本目)法律で定められた産前産後休暇の対象者は労働者だけなので、実は議員や自営業者は産休や育休制度の対象外なんです。
先ほども申し上げた「出産議員ネットワーク」が、議会を休める理由の一つに出産を入れてほしいと国とか市区町村議長会へ要望を出して、現在は「出産」が理由に盛り込まれました。それまでは事故か病気でしか休めなかったのですが、ようやく「出産」という理由で議会を休めるようになったんです。
-そうした実情があったのですね。では、第一子のご出産時はどういった形で休暇を取られたのでしょうか?
(本目)第一子の時は出産を理由に議会を休みましたが、台東区議会は男性も女性も仲が良いので、私の出産時の議会欠席について文句を言われることはなかったです。第一回の本会議と一般質問はお休みさせていただき、子育て委員会から復帰する形でした。最終的には、産後のトラブルもあって8週間あまり休ませてもらいました。
その時は休める期間に定めがなかったのですが、期間に定めがないと休みづらいという声もあり、現在は法律で決まっている期間に準じて、労働者と同じ期間を産前産後休暇とすることになりました。いわゆる産前6週間産後8週間ですね。公務員はこれより少し期間が長いんですが、そちらに合わせている議会もあります。
ちなみに今回私は産前は自分の委員会だけでもなるべく出たい、議員活動をできるだけしたいと考えているんですが、現在台東区議会にはオンライン出席の仕組みがないので、入院することになった場合は議会を欠席することになると思います。産後は高齢出産ということもあるので、しっかり休んで身体を回復したいと思っています。
-産後2か月後の復帰だと、お子さんは保育園かベビーシッターを使って復帰される予定でしょうか?
(本目)そのつもりです。生後57日から保育園には預けられるはずなので、出産の時期によっては待機児童のベビーシッターをお願いして、来年3月から復帰したいと考えています。出産時期にもよりますが、2月の委員会には出席できない可能性があるので残念です。
-続いて、妊娠出産のタイミングについて質問をさせてください。今回、選挙を控える中での妊娠出産ということで、どういったスケジュールを描いていらっしゃったのでしょうか?
(本目)今私は40歳で、選挙を終えたら41歳です。第一子も不妊治療で授かっていて、その時既に36歳。その後第二子をと思って凍結している受精卵を1つ戻したんですけど、それでもダメで一度は諦めたんですが、やっぱり諦めきれなくて。
さらに不妊治療の保険適用も始まるということもあり、「40歳になるまではチャレンジしてもいいかもしれない」と思いもう一度挑戦しました。ただ結局時期的に保険適用にはならなかったのですが。
もちろん「今妊娠すると出産は選挙直前だよね、どうしよう...」と悩んだんですけれども。待っていたらどんどん妊娠できなくなるかもしれない。私はただでさえAMHが低いと言われていたので。妊娠や出産で十分な選挙活動ができず、もし落選したとしてもそこは区民の方の選択なので仕方がない、と割り切りました。もちろん落選したくはないですが。
でも議員だからというわけではなく、きっと民間にお勤めの方も管理職になるかどうか等、年齢が上がるほど葛藤が大きくなることもありますよね。女性にとって出産はライフイベントで、どんな仕事でも両立が難しい壁にぶち当たると思いますが、それで自分の人生を諦めるのは違うなと思ったんです。
あとは区民の代表である議員がリアルタイムで妊娠・出産を経験していることが、より説得力のある政策に繋がる面もあるかもしれないとも考えていました。
-私も不妊治療を経験しているので、よく理解できます。不妊治療中は薬の副作用や通院スケジュールで私自身も仕事との両立に悩みましたが、そのあたりはいかがでしたか?
(本目)私の場合はコロナ禍がうまく作用しました。夫の夜間の外出が減ったので、第一子の送迎などお世話をお願いできたことは大きかったです。
また不妊治療で通っていた病院は夕方からの診察が多く、比較的自分の予定を調整して通いやすかったのも良かったです。
-ご家族の協力があってこそ、第二子の不妊治療ができたということでしょうか?
(本目)そうですね。保育園がない日曜日に採卵や移植があるときは、どうしても子どもは連れていけないので、家族の協力は不可欠ですね。
-息子さんは新しい命が宿っていることはご存知ですか?お子さんも楽しみにされている?
(本目)お腹の赤ちゃんに名前を付けて読んでくれていますが、まだ実感はないかもしれないです。「ママが具合悪そうなの」という感じで、保育園では話しているみたいです。
-産後はアウトソーシングできるところに頼む予定でしょうか?
(本目)台東区では「あったかハンド」という産前産後支援サービスがあるので、産後はフル活用したいと思っています。
-私が出産した時もあったかハンドという制度がありましたが、今はどういったサービスが利用できるんでしょうか?申請の方法などを教えていただけますか?
(本目)母子手帳を受け取るときと、「ゆりかご台東」という保健師さんとの面談の時にあったかハンドについての案内があります。
産後のケアが必要な期間に、家事などを行う戦力が足りない場合に利用できます。
申し込みはいくつかある事業所を通じて登録して、妊娠8か月くらいから申し込みできたと記憶しています。
-第一子のときと現在で区の産後ケア制度を比較して、優れている点やもうちょっとこうなったらいいなという点はありますか?
(本目)あったかハンドでいうと、来てもらっている間ずっと隣にいないといけなかったのが、別室で寝られるようになったことが改善された点ですね。一方で沐浴は手伝いはしてくれますが、あくまでお手伝いなので全てお任せはできません。全部やってくれてもいいと思うんですが(笑)
昔に比べると制度を使える時間数も増えているし、双子の場合はプラスされていたりします。来てくれる期間も長くなっていたはずなので、少しずつ使い勝手がよくなっているとは思います。
-最後に選挙について質問です。来年4月に選挙を控えられていますが、どのような準備を進めていますか?
(本目)できるだけ、早め早めに動いています。
ポスターの写真撮影は済ませてありますし、デザインも今お願いしているところです。
最後に配る4年間の活動レポートも、ポスターデザインが出来上がったら11月までには完成させたい思っています。
-選挙は今回が初めてではないので、あらかじめ準備できることは全部しているのでしょうか?
(本目)今回の選挙に関してはなるべく省エネで準備しておきたいと思っています。あとは動画を撮影したので、今編集してもらっています。
■次回予告
以上が選挙7ヶ月前(2022年9月)・妊娠6ヶ月の頃の記録となりました。
次回からはもうお一方同じように選挙前に出産を予定している女性議員をお呼びし、一緒に記録を取っていきます。私たちの記録が後進のみなさまの参考になれれば幸いです。
聞き手:小林美保(本目さよ事務所インターン)
編集:平理沙子(WOMAN SHIFTプロボノメンバー)
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