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女性議員ハンドブック 第一章 会派を決める


初めて議員に当選したら、どんなことが待ち受けているのか?若手女性議員のネットワークWOMANSHIFTでは実際にあった複数の体験談をベースに初子という女性が区議会議員に当選した様子を描きました。「議会」という馴染みのない場所で初子はどのように奮闘していくのでしょうか?


第一章 会派を決める  自分のポジションの分かれ道

選挙戦が終わり、少しゆっくりしたいかもしれませんが、数日で決めなければならない最重要事項「会派」を考えてから一息つきましょう。
なぜ最重要事項かと言うと、会派とは議会で行動を共にし、統一した議決を出していくチームであり、このチームの動きが議会を作っていくからです。自分がどの会派=チームに入るかで議会の中でのポジションが決まります。また、自分のやりたいことや政策を進めていく上ではまず会派が理解・承諾してくれることが前提になります。与えられた時間はあまり長くはありませんが、吟味しましょう。
大きく分けて①大会派②少数会派③無会派の3つがあります。それぞれメリットデメリットがあり、またそれぞれの会派に性格や特徴があります。議会で共に戦う仲間を誰にするか、考えていきましょう。

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開票日翌日…**

シフト区議会議員選挙で初当選し、当選証書を受け取った初子。当選証書を大事にカバンにしまい、当選した喜びを味わいながらも疲れた足取りで家に帰ろうとしていた。
「本当に当選してよかった!!!今までの努力が報われた!さて、これから家に着いたらお世話になった方に電話して、徹夜でできた目のクマを治すために今夜は早く寝ようっと。」

〜〜♪(スマホの着信メロディー)

登録のない電話番号からの着信は慣れたものなので、出てみると
「初子さんの携帯電話でよろしいですか?私、同じシフト区議会議員の芽衣子です。突然で恐縮ですが、もう「会派」は決めていらっしゃいますか?」

初子「え?会派って?
あの、勉強不足で申し訳ないのですが、全く考えていませんでした」

芽衣子「大丈夫ですよ。無所属で初当選された方はそういうものです。でも、とても大事なことなのでしっかり考えていただきたいんです。」

初子「はい…。」

芽衣子「そうしましたら、早速で申し訳ないけど、今から少しお話ししませんか?今まだ役所にいますか?」

初子「役所は少し前に出てしまったのですが、すぐ戻ります。」

芽衣子「そしたら、第二庁舎の6階、「明日のシフト区をつくる会」の控室までいらしてください。」

初子「はい、すぐ伺います。」

初子は通話を終えると小走りで今来た道を戻り、さっきまでいた区役所に向かった。

議会によって異なりますが、おおよそ当選から3日から7日ほどで会派の申請が締め切られます。
初当選したときには、様々な会派からお誘いが来ることがあります。それは当選前から来ることもあります。お誘いがない場合、自分から会派に入る、またはつくるよう働きかけることもありです。

1)政治は数。常に計算せよ。

区役所第二庁舎にはまだ訪れたことがなかった初子。小走りで戻ってきて少し息が乱れているがそれが走ってきたからなのか、緊張しているからなのか分からなくなっていた。『何を言われるのかな…。』と思いながらも、言われた控え室を見つけた嬉しさから、すぐに控え室のドアをノックした。
「どうぞ、お入りください」と中から声がした。

初子 「はじめまして、初子です。よろしくお願いします。」

芽衣子「はじめまして、芽衣子です。突然お呼びしてごめんなさいね。そして初当選おめでとうございます。これから、一緒に議会で頑張っていきましょうね。」

初子「はい!」

芽衣子「どうぞそちらにお座り下さい。」

初子が芽衣子の向かいの椅子に腰掛けると

芽衣子「早速、会派についてざっと説明していくわね。まず、うちの議会の議員定数はわかっているわよね?」

初子「50人です」

芽衣子「そうね。そしたら、第一会派はどこ?」

初子「1番多い会派は自民党さんですよね」

芽衣子「正式には自由民主党シフト区議団ね。政党の後任や推薦を受けて当選した人は、ほぼ100%この区議団に入るわ。そして今回の改選で人数は16になったわ。次に第二会派どこかしら?」

初子「人数は分かりませんが、公明党さんですよね」

芽衣子「そうそう。公明党シフト区議団、10名ね。第1回ほど第二会派、この2つで議席数26名ね。50人中26人で、過半数を超えている。このことを念頭に入れて話を聞いてね」

【調べてみよう】
・あなたが所属している議会の人数は何ですか?
・改選前からある会派と所属している議員を書き出してみましょう。
・改選で落選した人の名前を削除し、初当選で国政政党の公認がある人を既存の会派に追加しましょう。
・所属議員の人数が多い順に並べましょう。


芽衣子「第一会派も第二会派も、毎年の予算決算の議決に賛成していて、議会の本来の機能であるチェックが緩んでいるというのが私の現状の見方。区長も自民党公明党の推薦を受けているから仲間といえば仲間かもしれないけれど、本来の役割からすればそれはそれ、でしっかりチェックしないとね。そして、私はそれを少しでも変えたいと思っているの。あなたはどう思う?」

初子「私は、議会がどうなっているか、という視点はあまり持っていませんでした。ただ単純に、区議会議員になれば区政に関われるし、頑張れば区政をよくできるのではないかと思って今回出馬しました。区政を動かすためには議会構成も大切なんですね!」

芽衣子「その通り!もう少し、議会構成が区政をどう左右するのかを話すわね。議会で、予算、決算、条例の制定や改廃について区役所側から提案を受け、それに対して賛否を表明する。この議案の議決こそが、区民の代表として最終決定をする議員の最も重要な役割。そのほとんどの議案は議会の過半数の賛成を持って可決となる。だから過半数の議席を持っている会派に対しては区役所側もいろいろすり合わせをするという事は当然よね」

** ※ポイント
区議会だよりや議会のホームページで各会派の賛否を見てみましょう。どの会派が区に苦言を呈しているのか、そうでないのか、またどの会派が連携しているのかなど大勢が見えてきます。
また、賛成している会派も実は事前に説明を受けていて、議案として提出される前に修正などがされている場合もありますがそれは区民にはわかりません。**

初子「だからさっき、第一会派と第二会派について私に確認されたんですね」

芽衣子「そうよ。そして、あなたは無所属で当選したから第一、第二会派に絶対入れないということもないし、会派に所属しなくとも折に触れて山道を求められることもあるわよ」

初子「会派に属さないという選択肢もあるんですね」

芽衣子「1人でやっている人もいるわよ」

2)会派の大小による違い

会派の所属議員数によって割り当てが慣例で決まっているものがあります。
①委員会の委員長、副委員長の割り当て委員長
②質問時間の配分
また、交渉会派であるかどうかも重要なポイントです。多くの議会は、議会の運営について協議調整する場として議会運営委員会(通称議運ギウン)と言う話し合いの場を設けており、この議運への参加は交渉会派の幹事長であることを条件にしているところが多いです。また交渉会派では代表質問と言う質問時間も与えられます。交渉会派に満たなくても、非交渉会派を認めている機会もあります。1人で非交渉会派となるのは、会派名を名乗れるだけで、条件面では「無会派」と同じです。

【調べてみよう】
・交渉会派として認められるのは、何人からか?
・非交渉会派は何人からか?

※わからない場合は議会事務局に電話をして聞いてみるのも1つの手です。

3)「会派」って入るべき?一人会派のメリットは?

芽衣子がお茶を入れ始めたので、メモを取り忘れていたことに気づいた初子は急いでカバンから手帳取り出し、今までの内容を走り書きしていった。

初子「今までの話を聞いていると、絶対に会派に入った方が良いように思ったのですが。1人会派の方はどうして1人でやっていらっしゃるのでしょうか?」

芽衣子「1人の方が煩わしい事は少ないでしょうね。自分の政治信条なり、活動方針によっては1人の身軽さが良い人もいると思うわ。それは人それぞれ。会派の一員になると、話し合いの時間をさかれるし、議案の議決で決裂したときは妥協しなければならない局面も出てくるでしょうね。自分のやりたいことがチームとして認められなかったら進められないと言うデメリットもあるわ。チームで動くから、何かしら役割も当てられるかもしれない。あと、自分の所属していない委員会の情報が手に入ったり、発言を代わりにしてもらったりすることが出来るのもメリットね。でも会派にもそれなりのデメリットがあるわよ。自分の意見を議会で明言することが活動の全てだと思っている議員もいるから、その人にとっては自分の意見を曲げたり、そもそも発言ができないなんて事はあってはならないことでしょうね」

初子「いわゆるパフォーマンスと言うものですね。なるほど、会派として動くと言う事は、会派としての意見を自分の意見よりも優先しなければいけないこともあると言う事ですね」

芽衣子「簡単に言うとそういうことかな。だから政策が一致していないと会派が決裂するなんてこともあるからね。もちろん会派の性格、特徴もいろいろよ。だけど、私が結構重要だと思っているのは、気が合うかどうかかな。意外かもしれないけれど、政策は一致していても性格が合わないとやっていられない部分もあるのよ。やっぱり議会で一緒に戦うって大変なこともあるから、一緒にやっていけるかどうかって重要なポイントだと思うわ。会派が一緒だからといって全ての議員が仲良くしてくれるわけじゃないし。例えば、選挙で同じエリアで戦って自分をよく思っていない人だっていたりするし。逆に、会派を超えても同じような考えを持っていたら情報交換しあえるから、議会って面白いわよ」

初子「そうなんですね!確かにスポーツと同じで、仲の悪いチームで戦えるかと言うと難しい気がします。信頼関係も重要ですよね。情報交換と言う点についても考えていませんでした。会社にいたときには、新人には先輩がついて色々と教えてくれましたが、ここは議会ですもんね。自分で情報集めていかないといけないですね」

芽衣子「情報収集と言う点で言うと、委員会の情報も会派の方が取りやすいわ」

初子「議会ではなくて委員会ですか?」

芽衣子「本会議という全員が集まる会議で全てを議論するには時間的にかなり難しいので分野ごとに委員会で行うの。シフト区は5つの委員会があって、議案の内容によってどこの委員会にかけるのかを議論で決めるのよ」

初子「そしたら、自分が関心のある委員会に所属するにはどうしたらいいのでしょうか?」

芽衣子「自分のゆずれない点については、会派を組むときにその人たちに相談というか交渉というか、事前に明示しておいた方がいいかもね。後で『そんなこと知らなかった。まぁ新人だからとりあえず勉強だと思っていろいろ経験しなよ』って理不尽な目にあう場合もあるから」

初子「そうですね。ありがとうございます。何も知らないままだと、自分のやりたいことが遠くなりそうでした」

芽衣子「自分のやりたいことといえば、やっぱり条例制定ができるかどうかよ!!議員の1番の仕事と言えば条例制定だと私は思うわ。そのためにも自分の立ち位置をどこに置くかを考えないとね」

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4)自分のポジションをどこに置くか

意外と知られていないことですが、議会における会派の重要性をご理解いただけましたか?最後に自分のポジションをどこに置くかについて①条例制定の大前提となる議案提出と②庁舎移転に必要な議席数を例としてお伝えをします。
①議案提出
予算を除いて「普通地方公共団体の議員は、議会の議決すべき事件につき、議案を提出することができる」(地方自治法第112条)提案するには、定数の12分の1以上の議員の賛成が必要です。また議案を提出しても可決されなければ執行されないので、やはり最終的には過半数の賛成が必要となります。
・第一会派にいる場合:議案は提出できるし、第二会派とちゃんと調整すれば可決もするでしょう。しかしそもそも会派の中で議案提出の承諾が出るかどうかは未知数です。
・少数会派
(過半数を握っていない交渉会派)の場合
政策の一致している会派であれば、会派一丸となって提出する動きが出る可能性はあるでしょう。しかし可決のための過半数を得るためには十分な根回し、交渉が必要でしょう。
・無会派の場合
1から賛同してくれる会派、無会派議員を集めて提出することになります。また議決で多数決を得るためにも奔走することになるでしょう。しかし提出することについては12分の1以上の議員が集まればできます。
②庁舎移転
「地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない」(地方自治法第4条)この条例を改廃するときは、議員の3分の2以上のものの同意がなければならない。
・第一会派にいる場合
賛成、反対どちらについても発言権は最も大きいですが、日ごろから議案に対して賛成、反対どちらかの態度表明しているかでおおよそ賛否は決まっています。個人の主張はおそらく通らないでしょう。
・少数会派
(過半数を握っていない交渉会派)の場合
第一会派と第二会派で3分の2を超えない場合、重要なキーマン(キー会派)となります。
・無会派の場合
一票が賛否の分かれ道になる可能性もあるので、重要なキーマンとなる可能性もあります。
大会派であっても全てを可決できるわけではない。また少数会派、無会派であっても自分の1議席が重要な役割を担う機会があることをご理解いただきたいと思います。そしてその重要な局面で自分の位置をどう使うかによって自分がやりたいことを進める一助になります。

芽衣子「急いで話してしまったけれど、大丈夫かしら。そして、ここからが私にとっては本題なんだけど、うちの会派に入らない?話の流れから予想していたことだろうけれど、うちは第一会派でも第二会派でもない。でもあなたがうちに入ることで第3会派になれるかもしれないの。どう?」

初子「お誘いいただいて恐縮です。今すぐに回答できないのですが、聞いたお話をもとに自分のポジションをどこに置くかを考えさせてください」

芽衣子「もちろんよーく考えて。でも、回答は3日以内にお願いね。考えてもらっている間に他の会派に関する情報が来たらそれも検討材料になるだろうからお伝えするわ」

初子「よろしくお願いします」

【考えてみよう】
あなたのポジションをどこにおく?


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