ブラッド・シンプル

 本日はジョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督デビュー作「ブラッド・シンプル」でございます。後に再編集されて「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」なるタイトルで劇場公開もされたりしましたが、そちらの感想をまた改めて書くのも面倒なので、いっしょくたにして書いていきましょう。

 実はこの映画の存在を知ったのは、「XYZマーダーズ」というサム・ライミ監督の映画のパンフレットからでした。そうです同時上映の「クリープショー」と二つで一つになっていたあのパンフレットのことです。そこに「XYZマーダーズ」の脚本に参加していたコーエン兄弟のことを紹介していた文章が載っていて、サム・ライミそっちのけで「ブラッド・シンプル」という映画のことをいろいろ書いていたと思います。それでどんな映画だか興味を持ったのですが、観られたのはかなり後になってビデオが出てからでした。

 サスペンスの傑作らしいということでいろいろ紹介されてビデオになったのですが、そのタイトルを聞いて、「あ、そういえば」と思い出し、真っ先にレンタルして観ました。なかなか面白い映画でした。特に映像が面白く、サスペンスを強調する構図や、カメラの動きが独特で、私はこの映画のファンになってしまいました。……しかし! 私は初見では、この映画のストーリーをちゃんと分かっていなかったのです。

 この映画は旦那が浮気をしている女房を探偵に頼んで殺させようとしたところ、逆に殺され、その後の女房と恋人と探偵による誤解の連鎖からサスペンスフルなストーリーが展開されるという筋書きなのですが、後半の筋書きを全く理解できていなかったのです(それでも面白いと思ったのだから、我ながらそのいい加減さに呆れます)。

 恥を忍んで書きますが、まず殺人の後、探偵が何を探しているのか分かりませんでした。いやライターを捜しているのは分かってましたが、その……言い訳するわけではないんですが、当時のビデオソフトの画質が悪く、釣ってきた魚の下にライターがあることに気付かず、見当外れのところを探して事をややこしくしているという皮肉な展開がまず分かっていませんでした。何度も映されてるんですけどね……。ただあれは構図がちょっとライターだと分かりにくいと言うか……、いや言い訳はやめておきます。

 あと探偵がライターを求めて女房の命を狙いだすのですが、その姿は女房に一度も見られていないわけです。だから彼女は旦那がまだ生きていて自分を狙ってきているのだと思っているのです(だからあの悪夢を見たのです)。でも私はそういう誤解をしているのだということも分かっていませんでした。これは何回目かの鑑賞の時に気付きました。本当に私は映画を読み取る能力が欠けていると思います。

 だから最後の女房のセリフも、それを聞いて探偵が笑った意味も分かりませんでした。こんなことをもしコーエン兄弟が聞いたらガックリと肩を落とすことでしょう。あれだけ苦労して探偵の姿を見せずに女房を追い込むよう構成を練りに練ったというのに、それに気付かない人間がいたのです。ここに。あのドアの向こう側から銃を撃ってくるところも「綺麗だなー」くらいにしか思ってませんでした。本当にごめんなさい。

 そういうわけで、この映画は面白いと思いますし、好きなんですが、そういった自分の黒歴史でもあるので、なかなか人に好きだと言いにくいのです。この件に関してはあまりに恥ずかしすぎて友達と話したこともありません。この記事で初めて告白しました。少し肩の荷が降りました。ストーリーをろくに説明せず、観ていない人には何のことだか分からない話でしょうが、まあそんな感じです。

 その後、「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」が公開されまして、劇場に観に行ったのですが、冒頭の解説以外どこが変わったのか分からなくて、また少しへこんだりもしました。映画ってなかなか難しいものですね。

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