キャッツ

 本日は、劇団四季でもおなじみのミュージカル舞台劇を映画化した「キャッツ」を観てきました。最初はあまり観ようと思っていなかったのですが、何だかアメリカで酷評の嵐というのを聞いて、怖いもの見たさということではなく、変な映画だったら楽しめるだろうと思って観に行くことにしました。変な映画が好きなんですよ。

 最初に言っておきますと、私は舞台版を観ていませんし、ミュージカルも特別好きということはありません(特別嫌いということもないですけど)。予告を見る限りでは確かに舞台版の着ぐるみのイメージをそのまま使って、CGでもってさらにグレードアップ(なのか?)させたビジュアルになっていて、私はまず「これはおかしいだろ」と感じて、酷評の原因もその辺りなんだろうなーくらいに思っていました。

 結論から言うと、酷評するほどひどい代物ではありませんでした。あのビジュアルのインパクトから、アメリカの批評家の皆さんはいかに面白おかしくこき下ろすかというゲームをしていただけだったように思います。だからダメな映画のダメさを楽しみに観に行くという目的だとがっかりすると思います。ビジュアルの変さは最初からあるわけで、いわば出オチと言いますか、そこだけが目当てだと終盤に行くに従って飽きると思います。これは真面目に作られているからです。途中、ゴキブリとか出てきて、それもCGを使って人間が演じているのですが、それが群舞したり、その最中に猫がそいつらを食ったりとかしている辺りがビジュアルインパクトのピークで、私もこの辺りで満足し、あとは普通に歌とダンスを楽しむ方にシフトした感じでした。

 ただ困ったことに話がよくわからないというのは感じました。いっぱい猫が出てきて歌を歌っているんですけど、話がない、というか進みません。一応主人公らしいのがヴィクトリアという猫で、人間に捨てられたところに、野良猫たちが寄ってきて自己紹介のつもりなのか歌うんですよ。しばらく観ていて、この映画はそれを楽しむのだということがわかってきました。聞くところによるとヴィクトリアというのはもともと主人公じゃなくてこの映画独自のアレンジで主人公っぽく扱われているだけのようです。可愛いからいいんですけど。ただやっぱり捨てられた猫がみんなに受け入れられて成長する、みたいなストーリーを予想してしまうじゃないですか、映画として観ていると。でもそんなのは全くないまま終わるので、導入部分をスムーズには出来たかもしれませんが、このアレンジが成功だったのかどうか、ちょっと疑問です。

 良いところはもちろんあって、歌とダンスは確かに素晴らしいです。最初の方はカット割りが早くて、踊りがしっかり見えないなーと思っていたのですが、中盤辺りのヴィクトリアのバレエ風のダンスや二人組のブレイクダンス風の踊りはワンカットでしっかり見せてくれて、見事だなと思いました。でもやっぱりカメラがやたら手持ちで動いていたり、空中で回転して着地だけ別カットだったりと、どうも落ち着いて見れない感じの編集が多い印象を受けました。そんな感じでいろんなことを考えながら観ているので退屈だけはしませんでした。終わった時は、え? もう終わり? と思ったほどです。歌と踊りで優れた一匹が天上猫として選ばれるみたいなお話で、メモリー歌った猫がそうなって終わりです。ここで映画として盛り上がる展開を入れろとか注文をつけても、別物になってしまうでしょうから難しいところです。というかそういう展開を入れた結果「これ」になったということでしょう。

 まとめますと、デザイン等のビジュアル面、舞台鑑賞済を前提としたような作り、ドラマとしての盛り上がらなさなど、欠点もあるのですが、私は楽しめましたということでしょうか。ただどれも欠点と言っても、こうするしかなかったのだろうなという感じはします。デザインの何が問題かと言いますと、あの姿は「猫の擬人化」であるはずです。なのに、CGで尻尾とか耳とか動かしたり人間と猫の肌の境目をスムーズにしたり、そもそも体毛も全部CGで描いているんでしょうけど、そういうディテールを作り込んでいます。そこを作り込めば作り込むほどリアルになっていくわけで、そういう造形の生物が実在しているように見えてきて、不気味に見えるわけです。だからSFとかで異星生物を描くのと同じ方法でやってはいけなかったんじゃないかなーと思いました。じゃあ、着ぐるみでやったとしても、舞台版といっしょじゃんとか、CGもあるのになんでと言われたりするでしょうし、一番いいのはフルCGでアニメにすることだと思うんですが、それだと生の人間のダンスがない、あれが一番の醍醐味なのに、みたいなことを言われてしまいます。だからどうやっても何かケチがついてしまうのです。そういう意味では無難にアニメにするのでなく実写に挑戦したことを評価するべきなのかもしれません。

 などと講釈を垂れてしまいましたが、私自身、いろいろなことに気が散ってあまり集中して観られなかったという面があるかと思います。字幕で観たのですが、次に観る機会があれば、吹替え版で観てみようかなと思いました。良かったにしても悪かったにしても、いろいろなことを考えてしまい、それまでの自分の映画観、ミュージカル観、人生観などを揺さぶる作品であることは間違いないと思いますので、興味がある方は観て損はないと思います。失敗作であるかもしれませんが、駄作ではないと思います。たぶん。


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