AI崩壊

 本日は大沢たかおさん主演のSFパニック映画「AI崩壊」を観てきました。監督は入江悠さんで、「SR サイタマノラッパー」や「22年目の告白 私が殺人犯です」はちょっと観たいなと思いつつも観ていなかったもので、いい機会だから新作のこれを観ようと思ったのです。

 ほとんど内容を知らずに鑑賞したのですが、冒頭で大沢さん扮する桐生の妻の望(松嶋菜々子)が病で亡くなり、AIが治療に使えれば云々というセリフがありまして、「ああこれはハイテク版ペット・セメタリーみたいな話かな」と思ったんですが、そういうのとはちょっと違いました。一応核心部分やラストに関してはネタバレしないつもりですが、何も知りたくないという方はここで読むのを止めて劇場に行って下さいね。途中の展開とかは少し書いてしまいます。

 10年後、桐生の作った治療用AI「のぞみ」が日本のあらゆるシステムに活用されている社会になりました。桐生は娘の心(こころちゃんという名前ですね。演ずるのは田牧そらちゃん)とともにシンガポールで生活していましたが、何かで表彰されるというので二人で日本にやってきます。記者会見をしたりしているうちにAI「のぞみ」がいきなり暴走しだし、心ちゃんはコンピュータールームに閉じ込められ、街はパニックになり、その原因がどこかからのハッキングということで逆探知したら、桐生のカバンにあった端末だということが判明し、桐生は警察から追われ、何重もの危機が発生するわけで、ここの辺りの展開はなかなかいいと思いました。

 あとはまあ追跡と真相解明のサスペンスアクションといった感じで展開します。正直なところ設定とかは、これはちょっとなあ……と思うところもなくはないんですが、そんな細部をあげつらってもしょうがないかなと思うのでやめておきます。簡単に言うと今でも実現できていることが10年後にこの体たらくって無理があるだろ系の突っ込みです。まああることはあるけど気にならない人は気にならないかなとだけ言っておきます。あと全体のデザイン的なことも、最初はちょっとダサいなと思ったところも、しかしハリウッドの例えばアンドリュー・ニコル監督の映画とかのようなデザインにしても10年後の日本がそんなにカッコよくなってるのも嘘っぽいし、このくらい現代と変わらない中にチラホラと未来的ガジェットが混じってるくらいの加減の方がいいのかなと思えてきました。

 ただ私はAIというのは人工知能でプログラムされたことだけでなく自分で学習して進化していく存在だと思っていたので、それがだんだんと人間の想定していなかった行動をし始めてパニックが起こるのかなと予想していたのです。それが違いました。結局ハッキングされたのでパニックが起きるのです。つまり「ジュラシック・パーク」問題が起きています。「ジュラシック・パーク」はご存知の通り恐竜を現代に蘇らせてパニックが起こる映画ですが、恐竜を蘇らせることの倫理的問題や果たして共存できるのかという議論が前半にあったりして、それがテーマかと思いきや職員の一人がシステム障害を起こして、それが原因で恐竜が逃げ出しパニックが起こるわけです。だから途中でテーマがすり替わっています。それでも面白いから誤魔化せているんですけど、この「AI崩壊」では、AIの行動自体が問題なのにその行動は真犯人がいて「人の生死の選択」を起こすように細工したから起こっているわけで、AIがテーマの作品ではもうなくなっています。この辺りなんだかマッチポンプ感があって、面白さで誤魔化せてはいないと思いました。

 という指摘ついでに書いてしまいますが、どうもこういったテーマ性であったり、終盤の家族愛的なものであったり、娯楽作品にそういうものを入れないといけないみたいな考えが日本の大作映画に付き物なのは何故なんだろうと思いました。とにかく最初から最後まで暴走したAIに大沢たかおさんが追い回される映画でいいじゃないかと思いました。そのせいでラストも何をやっているのかさっぱりわかりませんでした。まあ好みの問題かもしれませんが。

 決して駄目な映画ではないんです。中盤暴走するAIに対抗するため警察が独自に持つAIを起動させたりと、ちょっとワクワクするシーンはあります。また私が前述したような細部が気になるなあと思っていたところに伏線を紛れ込ませていたりと、感心するところもあります。あと特殊部隊の制服とかその動き、激しいシーン全般などに日本映画特有のある種のチャチさはあまり感じませんでした。だからこれは作りそのものというより、コンセプトに対する不満なのでしょう。

 あと感想からは外れますが、監督さんは真面目で優しい人なのだなと思いました。たいていこういったサスペンスものは主人公の味方はほとんどいないものなんですが、研究所の人たちとか刑事さんとか、味方が実はいっぱいいるんですよ。心ちゃんが閉じ込められているときも研究所の職員さんたちが一生懸命助けようとしてくれます。普通、そういう場合は誰も気づかないんですけどね。そういう意味ではちょっと新鮮でした。いろいろ書きましたけど2時間以上ある映画とは思えないほど短く感じたので、まあ楽しめたのでしょう。

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