初恋
本日は三池崇史監督の新作「初恋」を観てまいりました。かなり好評の声が聞こえてきたのと、いろいろ異論はあるかもしれませんが久しぶりに三池監督の本気が観られるのではないかと思ったので、「一命」以来の映画館での三池映画鑑賞となりました。
お話はヤクザに追われる女とボクサーが出会って一緒に逃避行するという、それだけのものです。それにいろんなキレたキャラクターが絡んで、例によってシャブの奪い合いとかあったりする、90年代によく観た感じのアレです。しかし、私は90年代の邦画アクションが割と好きなので、安っぽくなくちゃんと撮られたこの作品に嬉しくなってしまいました。
まず主人公がボクサーということで、ボクシングシーンがかなりしっかりしていて安心できます。映画によくあるなんちゃってボクシングじゃありません。主演の窪田正孝さんはかなり練習したんじゃないでしょうか。窪田さん演ずる主人公はあまり人と打ち解けず、勝っても全く感情を露わにしないボクサーで、ある日いきなりパンチを食らって負けた試合のあと病院へ行くと脳腫瘍ができていて余命幾ばくもないことがわかります。自暴自棄になっていると、そこへ逃げいていた女に助けてと言われ、追っていた男を殴ってしまうわけです。殴った相手は悪徳刑事だったのですが、まあなんだかんだで一緒に逃げて大騒ぎになります。
最初のうちはいろんな勢力の説明や計画とか、ストーリー上必要なセリフが多くて、そのセリフがちょっと固いなというか、役者さんが自然に言えてない気がしてそれが気になったのですが、そのうちお話に説明が必要な段階を通り過ぎると、映画に入っていけました。三池監督の笑いのセンスとは時々合わないこともあるのですが、この映画はバッチリはまりましたね。結構唐突に飛び出すバイオレンスや、火事を起こす仕掛けを犬のおもちゃを使って作るといったミスマッチを狙ったギャグなんかも笑えました。私が特に気に入ったのは電車の中のシーンですかね。
役者の方々もかなり良くて、ベッキー、染谷翔太さんあたりはかなりおいしい役どころだと思います。それ以外も観たこともない人でも、いい演技するけどこの人誰だ? という人が何人もいましたね。こういったアンサンブルものは良いところをぶつけ合うような構成なので余計にそう感じるのでしょうね。ストーリー自体は本当に何回も見たよこういうのと言いたくなるくらい新味はないのですが、そこではなく役者さんを観る映画だなあと思いました。
ところどころ予算の限界を感じるのですが、そういう部分さえ表現の妙に変換して三池監督の引き出しの多さに感心します(車で飛び出す脱出シーンとか)。「初恋」というタイトルの割には惚れた腫れたという話はほとんどないのです。がこれはひょっとしてヒロインの過去のエピソードのことで、それを払拭できたという話なのかもしれません。
様々なことをくぐり抜けて、またボクシングの試合をする主人公ですが、ここで勝ったあと大喜びするシーンはグッと来ましたねえ。言葉で語らず成長を見せる良い演出です。ストーリーはどうでもいいと言いつつ、この二人に関するストーリーはこれから始まるわけで、こういった未来に向かって開かれた終わり方は素晴らしいと思いました。贅沢とはわかっているのですが、これが標準になってほしい、日本映画のエンターテインメント作品においては、こういうものがコンスタントに出てきて欲しいと思いました。本当にお願いしますよ……。
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