ジョジョ・ラビット

 本日はタイカ・ワイティティ監督の「ジョジョ・ラビット」を観てきました。第二次大戦中のドイツで少年兵というんですかね、よくわからないんですけどジョジョという少年がアドルフという想像上の友達といっしょにナチスのために働くぞと意気込んでいたら、自宅に隠れていたユダヤ人の少女を見つけてしまい、さてどうなるかというお話です。

 実は予告を見たときは、あー子供視点で戦争を描くのね、と思って「ライフ・イズ・ビューティフル」とか「戦場の小さな天使たち」とかを思い出しました。それで何となくもう全部わかったような気になって、観なくてもいいかなと思っていたのですが、良い評判がたくさん聞こえてきたので、やっぱり観てみるかと思い直したのです。思い直して良かったです。実際に観てみると想像とは違っていました。これはなかなかこちらの感情を揺さぶってくる映画で、かなり感動しました。2度ほど泣いてしまったと思います。

 最初はそうでもなかったのです。他にもそういう方はいるでしょうが、ドイツの話でドイツ人役なのに、この映画は全編英語が話されていたり、アドルフというジョジョの妄想というかイマジナリー・フレンドというのが、かなりハメを外した描かれ方をしていたり、あるいは全体的にコメディタッチが過ぎて、映像的にもちょっと現代的すぎやしないかとか、気になるところはいっぱいあって、それらも含めてもちろん監督が意図的にやっているのでしょうが、その意図の方が先に立っているような映画かなと思ったのです。だからこれはあれのメタファーね、とかああそういう意図ね、みたいに監督の考えを読み解こうとするように観ていました。

 しかし途中で、スカーレット・ヨハンソン演じる母が、父親の服を着て、父親の声色でジョジョを叱るシーンがあるのですが、ここでちょっとグッと来てしまいました。ああ父親がいなくなってしまって、このように二人で暮らしているのだ、こういう人生を送っているのだというのが実感できてしまって、ジョジョに感情移入するようになったのです。こういうものはストーリーだけ読んでいたらなかなか起こらない現象で、役者さんが動いていることによる説得力なのだと思います。ヨハンソンさんの演技力のせいもあるでしょう。最近アクション映画が多かったですけど、やはりいい女優さんですね。そしてジョジョに感情移入してしまうと、もう何て言うんでしょう、ジョジョの一挙手一投足から目が離せませんし、頼むから彼が傷つくことが起こらないでくれよ、という親心のような気持ちで見てしまいます。もう監督の意図がどうこうということは完全に忘れて映画に没頭してしまいました。

 映画は、中盤でかなりショッキングなことが起こり、全体的にファンタジー風味の映画かなーと思っていたら容赦なく現実が襲いかかってくるようになります。当然ドイツを舞台にしているわけですから、この先彼らを待っているのはあまり明るい未来ではないということに途中で気付いて、胸が締め付けられるような感じでしたね。「ライフ・イズ・ビューティフル」などは現実を見せない映画で、その見せないという手法によって感動を引き起こす作りでしたけど、こちらは陽気な前半と打って変わって後半から現実を見せて、ジョジョの気持ちに共感できるような作りになっています。私はどちらかと言うと、見せないよりは見せる作りの方がいいんじゃないの派でしたけど、そんな私でももうそんなに見せないでくれと思ってしまいました。そこまで戦争映画としてハードな描写ということもないんですけど、やはり前半とのギャップと、ジョジョが10歳の子供というのが大きかったですね。

 ネタバレなしの方が間違いなく楽しめる映画ですので、ストーリーの方は書きませんが、ただのギャグだと思っていたら伏線だったり、けっこう周到な計算がされていて非常に完成度の高い映画です。それとジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビス君がやはり好演といいますか、主役として堂々と映画を引っ張っています。もし彼が弱かったら前述した通り意図だけが目立ってしまって、ちょっといびつな映画になってしまったかもしれないので、キャスティングも含めて見事だったと思います。

 あとはラストですかねー。これで終わるのってちょっと人を食っているというか、なかなかやらないことですけど私は大好きですね。全然関係ないんですけどアラン・パーカー監督の「バーディ」を思い出しました。要するに「こうあるべき」という映画の枠からはみ出しているという意味で、タイカ・ワイティティ監督なかなか反骨心があって面白いと思いました。しかし全体的に作りがどうということより、ジョジョが好きになるかどうかでしょう。私は好きになれて、映画を楽しめて良かったです。もうそれに尽きます。

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