パラサイト 半地下の家族

 ポン・ジュノ監督の新作「パラサイト 半地下の家族」を観てきました。いつも通りネタバレ全開で感想を書こうかと思ったのですが、監督さん直々にネタバレ禁止令が出ているそうなので、公式に明かされているストーリー以上のことは書かないで、なんとか感想を書いていこうと思います。できるかな……。

 半地下に住む極貧の四人家族が、息子が友達から金持ち一家の娘の家庭教師の仕事を回してもらったことをきっかけに、上流一家の内部へと少しずつ侵略していくお話です。まあタイトルから想像できる感じのストーリーです。そのためにいろいろ書類を偽造したり、完全にアウトなことをしているのですが、彼らは自分たちのやっているのがギリセーフと思っているのが面白いです。

 リアルというよりも、メタファーを多用したちょっと現実離れした語り口なんですが、人間の心情はリアル寄りと言いますか、納得のいく範囲に収まっていて、観ていて「なんでそんなことするの?」みたいな疑問が生ずることがありません。こういうのがあると興ざめなんですが、この映画は虚実のバランス感覚が素晴らしくて、とんとん拍子にいく展開に笑いながらも、少しずつ怖くなっていく絶妙の演出が味わえます。

 ネタバレ厳禁ということからもわかるように、中盤で一つとんでもないサプライズがありまして、ここからテーマ性がグッと濃くなるのですが、それでも面白さが維持されているのが凄いと思いました。社会風刺であったり、なんらかの対立構造を盛り込んだせいで、ストーリーが停滞したり、なんだか説明っぽくなったり、はたまた説教くさくなったりして、面白さを犠牲にしてテーマ性が成り立っている映画はよくあるのですが、まあそういう映画もそんなにダメとは思わないのですが、この映画は面白さをそのままに、いろいろ考えさせられるものをぶち込んでいるのです。

 また面白い映像表現や、凝った絵作り等も随所にあるのですが、普通「そういうのを撮りたい」が先にあったりすると、ちょっと浮いた感じになったりするものですが、この映画の場合物語や演出上必要だからこその絵作りになっていて、そこだけ遊離していることがありません。ようするに凄く完成度が高い映画だと思いました。

 おそらくこの映画は危険な映画なのです。犯罪スレスレ(というか犯罪なんですけど)の行為を犯すこの家族に、観ていてつい感情移入してしまいます。少なくとも私はこの主人公家族が仲が良いものですから、かなり好感を持ってしまいました。これでいがみ合っていたら地獄でしたね。で、ラストシーンなのでハッキリとは書けませんが、観た人にだけわかるように書くなら、中盤までに繰り返される「匂い」の使い方で、ハッキリと示されるある人物の無意識の差別意識、またそこからくる劣等感などで、鬱積していたものが最後の最後で爆発し、一線を超えてしまいます。ここは全く理屈に合わない行為で、あの人もそんな目に会わなければならない明確な理由は何もないんですけど、だからこそ感情的な面で一瞬でも主人公に共感してしまうという、そのことの恐ろしさと言ったらありません。もちろんそうなるように撮っていると思うんですけど、そういうことを全く思わなかった人は、幸福な人だと思うと同時に、観客の受け取り方の違いによってその両者の断絶をあらわにする映画という見方もできて、クレバーな脚本だと思いました。

 実を言うと私はそんなにポン・ジュノ監督の映画は観ていなくて「グエムル」くらいです。あれは凄く好きでした。もしこの映画がそんなに良いと思わない人がいるとするなら、監督の作品をずっと追ってきて、それまでの作品にあった「何か」がこれにはないなーとか、完璧すぎて逆に嫌いとか、そういった不満くらいしかないんじゃないですかねー。そのくらい私は完璧に近い映画だと思いました。こんな感じで大丈夫でしょうかね。ネタバレになっていませんよね……。

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