1917 命をかけた伝令

 本日は全編ワンカットということで話題のサム・メンデス監督の戦争映画「1917 命をかけた伝令」を観てきました。感想を書く前に一つ注意がありまして、この映画、予告では全編ワンカットとありますが、そもそもワンカット撮影ではなくある程度長回ししたカットとカットを、暗い場面や障害物がカメラ前を通り過ぎた瞬間につないでワンカットのように見せている擬似ワンカットであり、また中盤で時間経過のために暗転したりもするため、全編が擬似ワンカットというわけでもないことだけは、念頭に置いてご鑑賞ください。そもそもそれは日本での宣伝で言われているだけのことでして、ワンカットじゃないじゃないか! みたいに文句をつけるような見方ではこの映画を楽しめないということだけは言えると思います。そこを議論するのはどうも本筋からズレていると思います。

 お話は、第一次世界大戦のイギリス軍で、ドイツ軍が撤退したとみるや前線が進攻していたのですが、航空写真ではドイツ軍の大部隊が待ち構えており、罠だと判明したので前線に攻撃中止の伝令を運ぶよう二人の兵士が命令されるところから始まります。この二人が単独で戦場を進む様子を臨場感たっぷりに描くためにほとんどワンカットで撮影しているということです。撤退したとはいえ、そこここにドイツ兵がいたり罠が仕掛けられているので、一瞬も気の抜けないシーンが続きます。

 観ていると課せられたミッションを制限時間内にクリアできるかみたいなハラハラドキドキのサスペンスをやりたいのではないのだなということがわかってきます。だべりながら歩いたり、寄り道したり、前線の兵士たちのリアルな感情というか、殺し合いはしていてもみんな家族があり、本当なら今すぐにも家に帰りたいのに渋々やっているような、そういう当たり前のことをしみじみ描く映画です。なのでドラマティックな展開やギリギリのサスペンスなどを求めるとちょっと拍子抜けするかもしれません。

 私はそういうだらだらしたところからシームレスに戦闘に入る描写とかが大好きなので、そういう意味では堪能しました。ただこういうのもそのシーンだけカットを割らずに撮ればいいだけで、こうもワンカットにこだわる必要性はあまり感じませんでしたね。それでも演出的にドラマを台無しにしているほど邪魔とも思わなかったので、サム・メンデスさんがやりたかったのならしょうがないよね、という感じでした。なんか否定的な書き方になりましたけど、そういうわけではありません。消極的肯定というところです。

 戦闘そのものが主眼の映画ではないので、やはり戦争の虚しさといいますか、一人一人の命が消耗されていく非情さ、それでも家族や友達のことを思う人間らしさ、などを感じさせるような作りになっています。そういったことを道中に自然に盛り込むために、やっぱりちょっと寄り道しすぎであったり、のんびりしすぎであったり、主人公たちがちょっと現代的倫理観を持ちすぎのような感じはしました。まあ気にならない人は気にならないと思いますが。

 最終的にはまあ主人公は一つの任務と、途中に発生した責任を果たして映画は終わるわけですが、一番考えさせられるのは、これで戦争が終わったわけではなく、その後も伝令は何人も走り、突撃は何回も行われ、この映画で生き残った人もどこかで戦死したのかもしれないなあという事実です。ハッピーエンドかそうでないかというのとは全く別の次元で、戦争の虚しさを感じる映画体験でした。

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