レイダース/失われたアーク《聖櫃》

 ジョージ・ルーカス製作総指揮、スティーヴン・スピルバーグ監督の冒険映画の金字塔「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のことを書いてみたいと思います。ハリソン・フォード演ずるインディアナ・ジョーンズ教授がこの映画で初登場したわけですが、もうこの頃にはルーカスとスピルバーグと言えば面白い映画を作る人たちだと私も知っていたものですから、公開日でしたでしょうか、当時の私はワクワクして劇場に行ったものでした。

 今さらこの映画について細かいことを書くのもバカバカしいので、結論から書いてしまいますと、とにかく上映時間中ずっと映画の中に入り込んでしまうというのでしょうか、これだけ夢中になった映画も珍しいと思います。痛快なアクション、ギャグ、サスペンスと、昔ながらの冒険活劇のフォーマットで、スピルバーグ演出が冴え渡り、スクリーンに釘付け2時間を味わいました。

 冒頭の洞窟での見せ場からハラハラしっぱなしです。ホッとさせた後に大きな音でびっくりさせたり、助かったと思ったらまたピンチになったりという演出の緩急のつけ方が素晴らしく、観客である私達の心はいいように操られているようです。本当にこの当時のスピルバーグ演出は神がかっています。巨大な丸い岩が転がって来る所も、さんざん予告で観たはずなのに、実際に本編で観てみると、ハリソンが途中で転んだりして手に汗握ってしまうのです。このくだりだけで普通の映画一本分以上の面白さが詰まっていると言っても過言ではないでしょう。

 宝探しの面白さもさることながら、インディの戦う相手がナチスドイツというのが血湧き肉踊ります。冷静になって考えたらなんで考古学者が軍隊と一戦交えなければならないのか分からないのですが、観ている最中はそんな疑問は全く湧きません。宝探し主体の映画と思っていたら、銃撃戦やら格闘、カーチェイスなど、かなりハードなアクションが続いて驚きました。特にアークを積んだトラック争奪戦などはビデオで出てからも借りて何度も見たと思います。

 しかしまだ幼かった私はこの映画の中に散りばめてある残酷なギャグにところどころ引いた記憶があります。今ではそこがスピルバーグの好きな部分でもあるのですが、例えば曲刀を持ってタイマンを挑んできた敵をあっさり撃ち殺してしまうところなどは、ちょっと笑えませんでした。人の死で笑いを取るなんて! と衝撃を受けてしまったのです。今となっては考えられないことです。ギャグに限らずかなりグロテスクな描写も多く、私のように幼くして鑑賞した人でトラウマになった人もいるのではないでしょうか。私の場合は、アークの力が発動するシーンがしばらくの間トラウマになったものでした。少なからずオカルティズムをテーマにしているのでショックシーンがあるのもまあ当然のことで、そのような悪趣味とも言えるグロ描写はシリーズの特徴とも言えるようになっていき、二作目の「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」でゲテモノ趣味は頂点に達することになります。

 このように脚本がちゃんと面白くて娯楽に徹しているとスピルバーグの能力が全て良い方に発揮されて傑作が出来上がるということなのでしょう。あれだけ苦労して手に入れた聖櫃が、広大な倉庫に仕舞われておしまいというラストカットのみちょっと皮肉と言いますか、考えさせられるものがあるのですが、あまりにさらっとやりすぎていてほとんど印象に残らないのが惜しい感じもします。が、アクションエンターテインメントとしてはこのくらいでちょうどいいのかもしれません。80年代の幕開けということで娯楽映画にメッセージ性とかテーマ性を打ち出さなきゃみたいな流れが無い平和な時代の貴重な遺物として、この映画はいつまでも残しておかなければならないなあとあらためて思います。

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