[大分トリニータ]2021年シーズン総括

 今回は地元のJリーグクラブ・大分トリニータの2021年シーズン総括を綴ってみようと思う。
 初めに断りを入れておくが、私はもちろんクラブ関係者でもないし事情通でもないし分析官でもない。素人サポーターの1人が思うままに綴っているだけなので、的外れな意見が散見されるのはご容赦頂きたい。
 
 2021年の大分トリニータの成績は9勝8分21敗の勝ち点35。20チーム中18位で2022年シーズンのJ2降格が決まってしまった。降格の原因は単に言ってしまえば力不足だ。それは選手・首脳陣の現場組だけでなく、フロントスタッフ等を含めた総合的な力不足である。クラブ格差が拡大する昨今のJリーグの中でJ1定着というのは並大抵ではない。
 ダラダラと言葉を並べても仕方ないので、幾つか私が思う不調の要因やシーズンの総括を並べてみようと思う。

◆ チーム不調の要因


  多くの主力の移籍

 そんなこと言われなくてもわかっとると言われるだろうが、主力の移籍は避けて通れないトピック。
 2020年のフィールドプレイヤー出場時間数上位10人の内、鈴木義宜・岩田智輝・島川俊郎・田中達也・知念慶の5名が移籍した。単純にレギュラー5人が変化するのはチームとして大きな変化だ。レンタル移籍の知念は仕方ないとして、その他4名の移籍は頭を悩ませた。
 やはりサポーターの中では衝撃が大きかったのはJ3時代から苦楽を共にした鈴木義宜と岩田智輝の移籍だ。片野坂監督のサッカーにおけるDFのビルドアップは非常に重要であり根幹の部分だ。だが、そもそも彼らはDFとしての能力が高かった。事実、J1でも安定したスタッツを残した鈴木のシュートブロック、岩田の攻撃参加や相手キーマンへのタイトなマークはトリニータの文字通り生命線だった。
 シーズン終盤にエンリケと小出がスタメンに定着してようやく解消されつつあったが、前半戦特に彼らの移籍の影響は顕著だった。
 だが終盤戦にはある程度は持ち直せた彼ら2人の穴だったが、最後まで埋まらなかった穴がある。田中達也の存在だ。彼のスピードと突破力は、個の力で劣るトリニータの中で数少ない質的優位を保てる存在だった。攻撃はサイドからが鉄則だった片野坂スタイルにおいて、1人でDFを剥がせる彼の役割が出来る選手は重要なのだが最後まで埋まらなかった。増山のフィットが早ければ可能性があったが、そもそもシーズン前に彼のようなタイプを補強出来なかったことも懸念点だった。私としては田中の穴を埋められなかったのが、最大の苦戦要因だったのではと思う。
 もちろん島川のカバーリング、知念のボールを収める能力、小塚のパスセンスと閃き、渡の一瞬の嗅覚。いずれも今年だったら欲しい場面は多々あった。

  チーム編成と補強

 チーム編成というのはどのチームにとっても重要ではあるが、資金力の少ないクラブは選択肢が限られているため尚更重要になる。2021年シーズンの開幕前には12名の新戦力を迎えたが、2020年にJ1でプレーしていた3選手はその中でも補強の目玉と言える。
 FW長沢駿、MF下田北斗、DF坂圭祐と各ポジションに目玉選手を加えたが、シーズン終わってみれば期待通りの活躍を見せたのは下田のみだった。得点力不足を解消する新エース候補だった長沢、守備の要・鈴木に代わる選手として期待された坂の不振はシーズンの結果に直結した。
 J2から迎え入れた選手は5名。最終的にフィットした渡邉新太と、一時期は高木から正GKを奪ったポープ・ウィリアムは及第点だったが、その他の福森健太・上夷克典・黒﨑隼人は戦力になったとは言い難い。福森と黒﨑は半年後には前所属にレンタルバックし、清々しい程に失敗だったと認めざるを得ない。特に黒﨑は栃木が縦に速いというトリニータと真逆のスタイルの選手だったのを獲得して、案の定のリリースになった。強化部のマッチングミスと言っていい。
 ただ、J2の選手の獲得については外的要因も大きかった。J1再昇格した2019年は"J2オールスターズ"とも言われ、オナイウ・小塚・庄司・小林成豪ら前年のJ2で大活躍した選手を補強して結果を残した。
 ところが、この路線が成功したことにより、横浜FM・浦和・柏といった資金力に勝るチームがJ2有望株を集め、争奪戦に負けることも多くなった。特に新外国人の入国が制限された2021年は尚更有望株は他クラブに狙われ、前年のJ2ベストイレブン級だったのは福森のみ。特に黒﨑と上夷は不動のレギュラーとして活躍した年はなく、素材型の選手を補強せざるを得ない部分があった。
 シーズン開幕直前と夏に補強した選手は6名。エンリケ・トレヴィザンは合流後早々にフィットし重要な戦力になった。ペレイラ・増山朝陽・野嶽惇也の3選手は最終盤にフィットしたが、だからこそもう少し早期に補強出来ていれば…と悔やまれる。ただ最も渇望していたFWとサイドで補強した呉屋大翔と梅崎司が戦力としてフィットし切れなかったのは痛かった。
 開幕後や夏の補強は及第点と言っていいが、シーズン開幕前の補強は2021年シーズン終了後の時点では失敗寄りだったと言っていい。現場と強化部での齟齬・目利きの重要性が浮き彫りになったシーズンでもある。

  下部組織と育成

 西川周作・清武弘嗣を代表として00年代後半の黄金期のイメージで"大分は育成の上手いクラブ"そう言われることは未だに多い。しかし2009年に発覚した経営危機の際、クラブ存続の為に下部組織の規模縮小を余儀せざるを得なくなった。  
 2010年以降にU-18に昇格した出身選手の中で、2021年終了時にJ1でプレーしているのは岩武克弥(横浜FC),岩田智輝(横浜FM)の2名と現チームに所属する高畑奎汰と弓場将輝のみであった(※2種登録除く)。規模縮小時に既にU-18に所属していた選手であれば松原健や後藤優介らも含まれるが、ここ数年で大成功と言えるのは岩田智輝のみである。
 実際、2021年シーズン開幕時のホームグロウン枠は3(刀根・高畑・弓場)で、これはJ1最少だった。上記の選手が巣立って移籍した影響もあるが、近年のユース育成事情の苦しさを物語っている数字である。
 再びトリニータの育成組織を00年代の黄金期のようにすることがJ1で戦い続けられる要因の一つになる。とはいえ、当時の九州のJクラブといえばアビスパ福岡・サガン鳥栖・大分トリニータの3クラブだったが、現在は九州全県にJクラブが存在する。梅崎司(長崎)や東慶悟(福岡)、後藤優介(鹿児島)ら九州他県から才能を引っ張ってくるのは当時よりも至難の業である。加えて2021年現在、九州Jクラブの下部組織として圧倒的に成果を残しているのはサガン鳥栖のユースである。
 未来あるサッカー少年にトリニータを選んでもらう為には設備・実績・優秀な指導者の育成・トップチームのサッカーなど様々な面でトリニータをブランド価値あるクラブにし、魅力的なクラブにするしかない。先の天皇杯での躍進のように、広くトリニータのサッカーをアピールする機会を作る必要もある。

  三平和司という男

 2020年末、三平和司ら4選手の契約を更新しないことが発表されたが、中でもJ3を経験し、オフ・ザ・ピッチでもムードメーカーとして貢献していた三平の契約満了はサポーターの間でも動揺が広がった。私自身は当時Twitterにて"編成的には彼が肩を叩かれるのは理解するが"とツイートした。確かに当時のチームならば33歳の彼はFW陣で最年長。ルーキーの藤本一輝も加入するし、長沢獲得の構想も既にあったと思われる。不動のレギュラーではなかった彼が居なくなるのは仕方ないと思っていた。
 だが、連敗を重ねるチームの中でムードメーカーだった彼が居なくなったことは想像以上にチームの雰囲気に直結していたように見えた。三平が居ない今、チーム内でおちゃらけ役を買って出られるのが高木駿しか居なかった。伊佐の笑いはシュールだし、その他の選手は大人しいか背中で語る系である。暗い雰囲気を一変出来る存在が居なかったことも前半戦7連敗した要因の一つでもあった。
 加えて、彼の不在は戦術面でも影響があったように思う。今季特にトップに入る選手達が軒並み不調だった。これだけ不調な選手ばかりでは彼の出番もあったかもしれない。
 彼は伊佐と並んて片野坂スタイルを初年度から経験している。サッカー選手としての三平和司という男は頭が良いのである。普段はおちゃらけキャラな彼だが、ポジショニングやオフ・ザ・ボールの質は片野坂体制のFWでは藤本憲明と並ぶくらいに抜群だった。所謂サッカーIQの高い選手なのである。FW陣の中でのピッチ上の伝道師として、原点に立ち帰る羅針盤の役割を担える選手でもあった。
 スポーツにたらればは禁物であるし、彼も今はヴァンフォーレ甲府で頑張っているので失礼な言い方かもしれないが、三平が居たら…と思う場面は多々あった。

◆ 今シーズンの総括


  理想と現実の狭間で

  ここからはシーズンの戦績を振り返るが、開幕後は3戦負けなしと決して悪いスタートではなかった。初黒星を喫したセレッソ大阪戦も終盤の坂元達裕のスーパーゴールに屈したものの試合内容は決して悪くなかった。だが、サンフレッチェ広島戦での逆転負けでチームは意気消沈。次節の川崎フロンターレ戦はスコアこそ2-0だったが、明らかにスコア以上の差を感じた。
 攻撃面では長沢の特徴を活かすサッカーにシフトするのか、スタイルを継続するのかが曖昧になった。元々被カウンターを避ける為にサイドからの攻撃が主だったが、剥がせる田中の移籍によりそもそも彼にポールを供給出来ず。ただでさえ少ないシュート数がさらに減少。決定機は90分で1回だけという試合もザラであった。
 守備面でも鈴木・岩田の穴は埋まらずにスタメンは日替わり。その影響で簡単なビルトアップでのミスも増え、マークの受け渡しもスムーズに行われずに失点を重ねた。4月25日の浦和レッズ戦では不安定なパフォーマンスだったGK高木に代わってポープを抜擢する荒治療に出たが、劇的に守備が改善することはなかった。
 5月22日のべカルタ仙台との直接対決にも敗れ、いよいよ本格的に残留にシフトせざるを得なくなった。

  中断期間の有用性

 仙台戦の翌週。国際Aマッチウィーク前最後のアビスパ福岡戦で勝利し、チームは良い流れで中断期間に入った。ところが中断明けの北海道コンサドーレ札幌戦。井上1トップの奇襲に打って出るが、成す術なく完敗。結局五輪中断期間までの間で勝利したのは、またも中断明け前最後の浦和レッズ戦のみ。やはり中断期間前を良い雰囲気で迎えられたが、その後のガンバ大阪戦で痛恨の逆転負け。またも中断明けの試合に失敗した。
 またも2週間程の中断期間を挟んで2強・川崎フロンターレと横浜F・マリノスとの連戦。特に横浜F・マリノス戦ではGKを高木に戻し、4-2-3-1でハイプレスを掛けるマリノス対策に打って出たが、結果はついて来なかった。
 その流れが影響したのか、その後の8月の3試合ではいずれも先制しながら1分2敗。ヴィッセル神戸戦・サンフレッチェ広島戦では2試合で7失点と守備が崩壊。神戸戦の試合後には普段は謙虚にコメントする片野坂監督までもが判定に疑問を投げ掛けるなど、チームとしてもかなり追い詰められているのが分かる状態だった。

  あと3試合早ければ…

 チームに希望が見え始めたのは9月の中断明けの湘南ベルマーレ戦。これまで中断明けの戦い方を悉く失敗してきた今季のチームだが、今季初の複数得点&クリーンシートの両方を達成。夏の新戦力・増山のサイドでの突破力と、3バックが三竿・エンリケ・小出で固定され守備が安定し始めたのが大きかった。セレッソ大阪戦・ベガルタ仙台戦とホームでは3連勝を飾り、9・10月の6試合で失点が僅かに2。天王山の仙台戦も制して残留への兆しが見え始めた。
 本来の片野坂スタイルは鳴りを潜めたが、残留に向けて守備が安定し勝ち点を掴めるようになった。12連敗中だった苦手のアウェイ戦も、ドローではあるが勝ち点を掴めるようになっていた。また、徳島ヴォルティス戦の試合途中からは後に天皇杯で躍進する要因になったエンリケとペレイラのCBコンビが登場した。
 特に5試合で15失点と守備が崩壊した8月。あと3試合でも小出のコンディションとペレイラのCBでのフィットが早ければ…とシーズン終了した今になって思う。

  シーズンを象徴した4試合

 9月以降を良い流れで乗り切っていたが、アビスパ福岡戦で想定外にミラーゲームに持ち込まれ、ジョン・マリの個にやられて敗戦。勝負の11月の出鼻を挫かれることに。
 勝利必須のガンバ大阪戦。呉屋の恩返し弾など2度のリードを奪いながら、パトリックにやられる。早めの長沢投入が返って裏目に出る形にもなり、アウェイ戦に続いて逆転負け。残留が絶望的になる痛恨の負けだった。
 他会場の結果次第では降格が決まってしまう鹿島アントラーズ戦。公式サイトの"トリテン"でも片野坂監督が触れているが、高木の好守もありながら得点を奪えずにドロー。清水が勝利したことにより2試合を残してJ2降格が決まってしまった。
 ガンバ大阪戦では2試合とも先制しながら試合運びの未熟さを露呈して逆転負け。鹿島アントラーズ戦では180分合わせて0-0。ホーム戦は両チーム合わせて僅かシュート4本。アウェイ戦含めて2試合合計のシュート数が3。
 得点力不足でワンチャンスに賭けるしかなかった鹿島戦。先制してもそれを守り切れなかったガンバ戦。この2チームとの対戦は今季を象徴する試合内容だった。
 

  1勝の喜びを噛み締めて

 降格したチームが降格決定後にプレッシャーから解き放たれて結果を残すことは割と起こる。トリニータも2009年の降格後、最終的に10戦負けなしでシーズンを終えた。
 横浜FC戦と柏レイソル戦、これまではリスク管理も考えて攻撃の機会もセーブしていたが、この2試合では6年間積み上げた片野坂スタイルを披露して2連勝を記録した。特に柏レイソル戦での増山のゴール。ポジショニングを意識しながらダイレクトパスを連続し、最後は左CBの三竿のクロスから右WBの増山が決めるという集大成のゴールだった。試合後、ゴール裏では高木駿が音頭を取り、そこになんと片野坂監督が加わり勝利の喜びを分かち合った。降格は決まってしまったが、今年最高の雰囲気だったと言える。
 そしてチームは最高潮を迎えた。12月12日に行われた天皇杯準決勝・川崎フロンターレ戦。組み合わせに恵まれ、J1のチームと対戦するのは準決勝にして初めてだった。だが相手は絶対王者・川崎。リーグ戦では2試合共に2-0で敗戦。スコア以上の差を感じる内容だった。
 ここで片野坂監督は秘策に打って出る。下田をトップ下にした4-3-1-2を採用。6年間の中でも殆ど記憶にない3センターを採用したのには驚かされた。川崎のアンカー・橘田には下田がマンマーク気味に対応し、町田と渡邉がスライドして川崎の中盤を捕まえる。しかし流石はチャンピオンチーム、徐々に防戦一方になる。それでもエンリケ・ペレイラのブラジル人コンビがレアンドロ・ダミアンを完封。そして高木駿が今年イチの大当たり。川崎に浴びせられたシュートの山を悉く弾き返す。守備陣の奮闘もあり延長戦に持ち込んだ。ここまではプラン通りだった。
 だが流石は王者・川崎。112分、途中出場で出てきた小林悠に決められ遂に先制点を許す。川崎の象徴とも言える小林のゴールで等々力の雰囲気も一層盛り上がる。正直、この時点でここまでよく頑張ってくれた。そう思っていた。
 だが諦めない姿勢が結実する。長沢を投入し、エンリケを前線に上げたパワープレーを敢行した延長後半AT。下田のクロスにエンリケが飛び込み同点に追いつく。試合前のプランとは違ったかもしれないが、ワンチャンスをモノにしてPK戦へ。
 そしてPK戦で高木駿がホーム最終戦の言葉を早速有言実行。主将の見事なPKストップで王者相手に勝利。クラブ史上初の天皇杯決勝進出を決めた。
 私も等々力で観戦していたが、高木がPK止めた瞬間は勝利した実感が湧かなかった。試合後のゴール裏やインタビューでチームの雰囲気はピークに達した。
 降格は決まってしまったが、リーグ戦ラスト2試合で連勝。そして柏戦後の雰囲気。それが川崎戦でもチームの雰囲気を作り、格上への勝利に繋がったと思っている。

  "カタノサッカー"の終着点

 12月19日、片野坂体制6年間の最終章は聖地・国立競技場で迎えた。クラブ史上初の天皇杯・そして2つ目の3大タイトルを賭けて浦和レッズとの天皇杯決勝に臨んだ。
 だが決勝という大舞台を経験したことが少ない選手達が多く、浮き足立ったまま試合の入りを迎え早々に失点を許してしまう。振り返ると悔やんでも悔やみ切れないのはこの失点だった。その後も知将のリカルド・ロドリゲス監督との戦術戦の前に前半はチャンスを作らせて貰えなかった。今思えば決勝のみ飲水タイムが廃止されたのも痛かった。
 だが"カタノサッカー"の集大成の試合、ただでは終わらない。後半から4-4-2に変更。下田をビルドアップに組み込んで試合の流れを取り戻した。後半30分頃に見せた、浦和のプレスを回避するビルドアップは6年間の結晶だった。
 だが、得点はなかなか奪えずに時間が過ぎて行く。準決勝同様に長沢を投入、エンリケ・ペレイラも前線に上げてパワープレーを敢行すると、再び奇跡を巻き起こす。90分、下田が利き足ではない右足でクロスを上げるとペレイラが合わせてまたも終了間際に同点に追いつく。思い描いた形ではなかったかもしれないが、これこそトリニータというメンタリティで結実したゴールだった。
 だが、サッカーの神様のシナリオは時に残酷だった。セットプレーを与えるとこぼれ球をボレーした浦和・柴戸のシュートを槙野がコースを変えて得点。お互いが今年限りでチームを離れる人間が居たが、神様は浦和の方に傾いた。私も国立に居たが、ペレイラのゴールが決まった後に「これで片さんとあと30分戦える」と思っていた。だが90分で決めると意気込んだ浦和が1枚上手だった。
 こうして"カタノサッカー"の最終章は天皇杯準優勝という結果で幕を下ろした。最後の試合が国立での天皇杯決勝、しかも準決勝で川崎に勝ったこと。そして決勝の試合展開がこのようになることを予測出来た人は居ないだろう。
 防戦一方だった準決勝とは異なり、決勝の後半は6年間培った"カタノサッカー"を披露したのではないか。そして表彰式での監督の言葉と謙虚な姿勢。トリニータ史上最長期間務めた監督は、確固たるスタイルと謙虚な姿勢を残し、最高の舞台でチームを去った。 

◆ トリニータのこれから


  地方クラブの在り方として

 シーズンの最後は天皇杯準優勝という、このクラブからしたら大健闘と言える結果で幕を閉じた。だが"グッドルーザー"という意気込みは大切だが、天皇杯を大分に持ち帰れずにシーズンは18位で降格したという事実しか残っていない。
 降格の要因は前半で考察としてまとめたが、現在のJ1は年々格差が拡大しているのは事実でもある。2022年のJ1クラブは大都市圏に属するチームばかりになった。大分という純正たる地方都市に位置するトリニータが、現在のJ1で生き残るのは並大抵のことではない。
 だがミスタートリニータ・高松大樹氏もYouTubeで述べていたが、資金力がない・主力を引き抜かれたという言葉に逃げてはならない。そもそも資金力がないというのは、この厳しいご時世の中でスポンサー企業の方々に支援が足りないと言っているようで、あまり使いたくはない言葉だ。無い袖は振れないのだから、知恵を絞って今ある力を最大値にするしかない。全盛期の監督だったペリグレス・シャムスカはこう言っていたのである。

”どんなレモンだったとしても、お客さんにはレモネードを出さなくてはいけない”

 今持っている力で最大値を叩き出すのはトリニータのカラーであるはずだ。これからも伝統クラブ・金満クラブを相手にしても、色んな知恵を絞ってトリニータ産のレモネードを提供するしかない。

  終わりに


 最後になるが、片野坂知宏監督6年間お疲れ様でした。トリニータが持てる最大限を十二分に発揮させてくれる監督でした。過酷だったJ3からの生還、J2での進化。夢の冒険が始まった2019年開幕の鹿島戦。そして最後に夢を見せてくれた2021年の天皇杯。
 元来セリエAが好きな私は、1点を守り抜くサッカーが好きだった。それが片さんが監督になってから攻撃サッカーが好きになった。そしてサッカーの奥深さ、対策の重要性を教えてくれる監督でした。
 でも1番はその人柄が大好きです。対戦相手のことを必ず〇〇さんという謙虚さ、そして時にモノマネやお茶目な一面も見せてくれる人間臭さが魅力でした。我々サポーターもこの人について行きたいと思える人です。いつかまた逢いましょう。ありがとうございました。

 チームは下平隆宏監督によって続く。サポーターも”片野坂ロス”はあるだろうが、片さん離れもしなければならない。幸いなことに、この原稿を執筆している12月29日現在、主力の多くが既に残留を表明している。天皇杯での躍進のお陰で、過去3度の降格の時よりもずっと雰囲気が良いようには思う。
 しかしながら、我々はJ2の過酷さも知り過ぎているクラブ。一筋縄では行かないJ2でのシーズンであるし、その先のJ1での未来、そして大分からJリーグを戦う上で何が必要で何が最適解なのか。ピッチ内外で挑戦と検証を繰り返す2022シーズンになる。

    ”片さんが残したレガシーを下さんがブラッシュアップする”

 このクラブは色々な人々と継続を積み上げるしかない。それこそまさにクラブと県民・行政・企業の三位一体のクラブ理念である。
 長々と書き綴ったが、以上を2021年の大分トリニータのシーズン総括として締め括りたいと思う。

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