新型コロナウイルスについてメディアが報道していることが本当か論文をあたって確かめてみた

日本でのコロナウイルスの感染者数の増加が拡大の一途をたどっています。政府の対応も混迷を極め、「仮定の質問には答えられません」「静岡県を緊急事態宣言の対象とします」などの名言も散見されます。ちまたで報道される多くの報道がN=1のサンプルを取り上げているように感じられ、何が正しくて、何がガセなのかよくわからない状況です。なので、論文をはじめとする客観的な情報源にあたり、何かコロナウイルスについて正しい情報なのかを集めてみました。基本的には問いに対して正反対の主張をしている資料を並べて、どちらが正しいのかを考えるという形式にしています。

先に結論書いてしまうと、結論は不明なものが多かったです。私が調べて結論を出せるような話であれば、とっくに明確な結論が誰かから出されていると思うので当然と言えば当然ですが。。。逆に、世の中で当たり前とされていることが本当に当たり前ではないということを理解いただく意味では、意味のある文書なのかなと思います

● 学校が感染源になっていないということは本当なのか
結論:不明
英語のソースから二つ資料を持ってきました。一つはアジアの各国でのデータをもとに、学校の閉鎖は感染数の減少に一切寄与していないとする主張。もう一つは、アメリカにおいて、休校を早めに判断した地域ではコロナの感染拡大が抑えられたとする主張です。(ただし、However以降にある通り、ほかのファクターによって感染拡大が抑えらえたという可能性も無いわけではないと言っています。)

学校が感染源になって「いない」とする主張は、感染拡大と学校のオペレーションをつなげるデータは「ない」と主張しています。学校が感染源になって「いる」と主張している文書は、学校を閉鎖した地域の方が感染拡大がゆるやかになっているという数字を提示していますが、論文内でも言及がある通り、学校を閉鎖したことがコロナ感染拡大を止めたのか、学校閉鎖以外の施策がコロナ感染拡大を止めたのか、どっちなのかを完全に証明することは難しい。と、言っています。

理論上、人と人との接触が多い学校ではコロナの感染が拡大しそうな気もしますし、事実として部活動でのクラスターが発生しています。一方で、休校にした場合にどんな人の動きが起こるかや、学校閉鎖による子供への影響という別の面からの悪影響も大きいものと考えます。

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanchi/PIIS2352-4642(20)30095-X.pdf
School closure and management practices during coronavirus outbreaks including COVID-19: a rapid systematic review Russell M Viner, Simon J Russell, Helen Croker, Jessica Packer, Joseph Ward, Claire Stansfield, Oliver Mytton, Chris Bonell, Robert Booy

引用開始
In response to the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic, 107 countries had implemented national school closures by March 18, 2020. It is unknown whether school measures are effective in coronavirus outbreaks (eg, due to severe acute respiratory syndrome [SARS], Middle East respiratory syndrome, or COVID-19). We undertook a systematic review by searching three electronic databases to identify what is known about the effectiveness of school closures and other school social distancing practices during coronavirus outbreaks. We included 16 of 616 identified articles. School closures were deployed rapidly across mainland China and Hong Kong for COVID-19. However, there are no data on the relative contribution of school closures to transmission control. Data from the SARS outbreak in mainland China, Hong Kong, and Singapore suggest that school closures did not contribute to the control of the epidemic.
引用終了


https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2769034
Association Between Statewide School Closure and COVID-19 Incidence and Mortality in the USKatherine A. Auger, MD, MSc1,2,3,4; Samir S. Shah, MD, MSCE1,2,3,4,5; Troy Richardson, PhD4; et al

引用開始
Conclusions and Relevance Between March 9, 2020, and May 7, 2020, school closure in the US was temporally associated with decreased COVID-19 incidence and mortality; states that closed schools earlier, when cumulative incidence of COVID-19 was low, had the largest relative reduction in incidence and mortality. However, it remains possible that some of the reduction may have been related to other concurrent nonpharmaceutical interventions.
引用終了

● Go To Travelは感染拡大の温床なのか

結論:これも不明です。
Go To Travel利用者の方が、コロナウイルスの罹患率が高いようなことを言っていますが、Go To Travelを利用するような高所得者は、会食などの飲食店利用や、対面での仕事が多いため、Go To Travel以外で感染する可能性が高いと考える方が自然な気がします。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a7d0b4387b2dab685dff1034968ebecbbb658f78
共同通信より

引用開始
政府の観光支援事業「Go To トラベル」の利用者の方が、利用しなかった人よりも多く新型コロナ感染を疑わせる症状を経験したとの調査結果を東大などの研究チームが7日、公表した。PCR検査による確定診断とは異なるが、嗅覚・味覚の異常などを訴えた人の割合は統計学上、2倍もの差があり、利用者ほど感染リスクが高いと結論付けた。
(略)
調査は約2万8千人を対象に、8月末から9月末にネット上で実施した。
引用終了

https://www.kankokeizai.com/goto%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85%E3%80%81%E6%84%9F%E6%9F%93%E8%80%85%E6%95%B0%E3%81%AF148%E4%BA%BA/
観光経済新聞より

引用開始
政府のGo Toトラベルキャンペーンを利用した旅行に伴う新型コロナウイルスの感染者数は、観光庁の15日までの集計で148人となった。事業開始の7月22日から10月31日までの事業の延べ利用者数は少なくとも延べ3976万人で、感染者の割合としては約27万人に1人だ。加藤勝信官房長官は10日の会見で「これまでGo Toトラベルの利用者に起因して旅行先の旅館・ホテルや観光施設の従業員に感染が広がっているという報告は受けていない」と述べた
引用終了

2021/1/31追記 
京都大学よりGo To Travelの感染拡大への影響について記した記事が発表されました。本論文について以下のページにて解説しています
https://note.com/woiwoi/n/n8958c600a959




● 感染爆発は冬になったためというのは本当なのか
結論:冬の方が感染拡大しやすいのは事実と思われるがそこまで大きな因果関係はない。


資料はありませんが、理論上ウイルスの活性度は気温が低く湿度が低い冬の方が活発化されるというのは事実だと思います。しかしながら、資料を探している限り、冬の方が他の季節に比べて何倍も感染拡大が進むということは事実ではないと考えます。


資料を2つ貼り付けましたが、1つ目の資料は、複数の地域での感染拡大状況を調査したところ、特段冬の方が感染拡大が圧倒的に進むという結論を得ることは難しいとする資料です。そして、2つ目の資料は日本での実効再生産数=一人のコロナウイルス感染者が何人にコロナを移したか、です。実効再生産数を見ると、夏と冬で差が見られません。2021年に入ってから、感染者数が1,000人を超えるような見え方になっているので、冬に入ったから感染が拡大していると解釈する人もいますが、ウイルスの感染者数というのは100人、200人、300人、400人という増え方でなく、100人、200人、400人、800人というように倍々で増えていくものなので、感染者数が4桁になっていることは冬に感染爆発が起こりやすいことの証明にはなりません。

https://www.mdpi.com/1660-4601/17/16/5634/htm
Winter Is Coming: A Southern Hemisphere Perspective of the Environmental Drivers of SARS-CoV-2 and the Potential Seasonality of COVID-19
by Albertus J. Smit 1,2,*OrcID,Jennifer M. Fitchett 3OrcID,Francois A. Engelbrecht 4,Robert J. Scholes 4OrcID,Godfrey Dzhivhuho 5 andNeville A. Sweijd 6

引用開始
Datasets capturing even the first full seasonal cycle of COVID-19 incidence in one locality, region or globally are not yet available and it is not possible at this stage to conclude that a definitive and unequivocal signal of environmental modulation is apparent from the reviewed literature. However, there is some evidence that environmental drivers played a role in transmission in some regions and at some (early) stages of the pandemic. Under other circumstances, longer and denser datasets would be a minimum requirement to support a thorough statistical treatment to explore evidence of environmental modulation of the COVID-19 pandemic and epidemiological dynamics.
引用終了

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona19.pdf
内閣府

あ

● 飲食店が主要の感染源であるということは本当なのか

結論:本当だがそこまで大きくない
サンプル数や信ぴょう性がやや低いが、沖縄タイムスの報道を見る限り、飲食店での感染は日本では全体の半数程度と思われる。また、ニューヨークでの感染源については、ほとんどが「家庭、または第三者と会うこと」によるとのこと。
そうはいっても、飲食店でウイルスをもらった人が家族に感染させているということだおすると、飲食店でのウイルス感染はケアすべきことだとは思う。また、ニューヨークの方はマスクをきちんとしないで人と人とがあっているアメリカの例をそのまま日本に持ってきていいのかという気はする。
ちなみに、ニューヨークのデータの出所が「Eater」という記事であるが、ニューヨークのクオモが公表したデータを引っ張ってきているので、特にバイアスがかかったデータではないと判断している。クオモはどちらかというと、コロナを抑え込むためには経済を犠牲にするのはやむを得ないスタンスなので、クオモが情報を歪曲しているとも考えづらい。

沖縄タイムス
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/668642

引用開始
沖縄県は24日、県衛生環境研究所がまとめた7月~11月18日公表分までの、県内の新型コロナウイルス感染者の推定感染源を発表した。感染源別の割合の総計では「家庭」が28・2%と最多。「接待を伴う飲食」が21・9%、「会食」が18・7%で、飲食と会食を合わせると約4割を占めた。一方、「県外からの持ち込み」は2・8%だった。
(中略)
 7月に50・2%を占めた「接待-」は8、9月は10%台に減少した。「会食」は7~9月は10%台だが10、11月は20%を超え、増加傾向にある。「家庭」は8、9月が30%を超えてトップ、10、11月も20%を超え2番目に割合が高い。
引用終了

EATER New York
https://ny.eater.com/2020/12/11/22169841/restaurants-and-bars-coronavirus-spread-data-new-york
引用開始
The figure places the industry as the fifth-largest contributor to spreading COVID-19 in the state, following education employees (1.5 percent), higher-education students (2.02 percent), and healthcare delivery (7.81 percent).
The largest contributor to COVID-19 spread in New York, by far, is private household and social gatherings. According to the state, 73.84 percent of COVID-19 cases spread through private gatherings.
引用終了


● 今回の緊急事態宣言は感染拡大を止められるのか
これについては明確なデータが見つかりませんでした。飲食店が感染拡大の唯一無二の要因というような方針で緊急事態宣言を出していますが、そこまで飲食店での感染が多いわけではないとすると、今回の宣言はうまくいかないのではないでしょうか。また、20時までの営業制限をしていますが、18時から食事をしたり、ランチタイムに外食が集中したりしているようなので、飲食店での感染拡大も減るのかわかりません。もはや、今回の宣言を聞き入れていない人も結構いるはずで、1か月で成果は出るとは思えません。

● なぜ日本では医療状況がひっ迫しているのか
以下のニュースウィークの記事を読む限り、日本では民間の病院が多く、民間の病院がコロナを受け入れると儲けが減るからだそうです。解決策を考え付くほど制度に詳しくないのですが、感染者数が欧米ほど多くないにもかかわらず、救える命が救えなくなる状況は改善が必要だと考えます
https://www.newsweekjapan.jp/yasukawa/2020/12/post-3.php

● ワクチンがあればコロナウイルス拡大は防げるのか
これも明確にはわかりませんが、ワクチン万能説は難しいと思います。週刊ダイヤモンドの中で特集記事が組まれていましたが、「インフルエンザのワクチンは4か月程度有効が続く。BCGやはしかは10年?とかそれ以上の長期間有効が続く」とありました。そして、コロナウイルスについても、一度罹患した人がどの程度抗体を有効な状態で体内に持ち続けることができるかというと、インフルエンザ同等の4か月くらいではないかとのこと。そうだとすると、多くの国民がそれだけ高頻度にワクチンをうけることはできないでしょうから、治療薬が開発されるまでは完全にコロナを収束させるのは難しいのではないかと思います。少なくとも、満員のアリーナやスタジアムでイベントを開催するというのは、かなり先のことになってしまうのではないでしょうか。

以上で、考察を終了します。私自身も夜の会食がなくなり時間があったのでいろいろ考えてみました。冒頭にも書きましたが、明確な結論は出せなかったですが、世の中で言われていることが必ずしも本島ではないんだなということは感じます。今後もある程度のリテラシーをもってコロナの情報には接していきたいと思います。

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