Vignerons au Verre (VV)
リーデルのグラスを使用して有名どころの生産者を撮る。この企画は、当時のリーデル社欧州マネイジャー、ヤイール ハイドゥの案によるものだった。ヤイールとは、2001年にニースのオテル ネグレスコでコートゥ・ダジュール初の日本酒の試飲会を私たちが開催した折に、リーデルの大吟醸グラスを貸し出してもらってからの縁だった。その彼が「Le Montrachet」の写真をえらく気に入ってくれ、後に2003年にパリで再開し、この話が決まったのである。
内容は、リーデル社がソムリエ・シリーズを一式提供、私たちがそれを持ってフランス、イタリア、スペイン、ポルトガル等の生産者を訪問、グラスを持った彼らを撮影するというもの。Vignerons au Verreだ。但し、使用グラスは各生産者が選ぶ、これがヤイールの提案だった。私たちは気軽に受け入れ、事実興味深い方法なのだが、これが後に問題になるとは…、その時は誰も想像しなかった。
ある程度の撮影を終え、再びヤイールと再開するためパリに登った時、リーデル社の大御所ゲオルグ リーデル社長に引き合わせてもらうことになった。そて面会の日、コンコルド広場のオテル クリオンで、早速社長に撮影した作品を見せると、にわかに社長の顔色が変わった。そしてヤイールと何やら低い声で話し、言った。「使いものにならない。」
理由は至極単純だった。そこに写っている生産者の多くが、リーデル社が薦める各々の地方用のグラスを選んでいなかったからである。この事実をどう受け止めるか、それは各自の自由だ。ただ生産者たちは、己のワインに合うグラス形状を、誰よりもよく心得ていた、と私は思う。幾度もそれなりの体験(異なるグラスでの比較試飲等)をさせてもらった上での、私なりの結論だ。勿論、企画自体は流れた。が、井の中(ブルゴーニュ)から大海へ飛び出したばかりの私たちは、この撮影の旅で本当に色々なことを学んだと思う。