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プロジェクト管理の視点から見たオリンピック問題

オリンピックをやらるやらないの話を見ていると、プロジェクト管理として大丈夫かと思えてきます。表に情報が出てこないだけで、中ではちゃんと進めているのであればよいのですが、組織委にはいわゆるPMO的な人はいるのでしょうか?
そんなわけで、オリンピックの話も絡めてプロジェクト管理の話をしてみます。

プロジェクトとは

自分が会社の指示でプロジェクト管理のプログラムを受けた時に、プロジェクトとは何か、という話がありました。自分はPMBOKとか取ってないので、素人の意見ではありますが、定常業務ではないものはプロジェクト、と習ったかと思います。

ここでいう定常業務とは、定期的にやることが決まっているものです。例えば、経理業務とか人事業務とかは視点にもよるかと思いますが、通常はプロジェクトとは考えないことが多いです。とは言え、例えば来年は通常と異なり、去年の倍の新人を入れるために特別対策をする、となればそれはプロジェクトと見做せるでしょう。そんな感じで曖昧なものところはあります。
とは言っても、典型的なところとしては、ビルやダム、工場、空港などの建設とか、社内システムや外向けのサービスなどのシステム構築があります。

オリンピックについても、大きな大きなプロジェクトかと思います。

プロジェクトリーダーとPMO

プロジェクトには呼び方は色々あれど、リーダーがいます。プロジェクトリーダーとか、プロジェクトマネージャとか、色々あるでしょう。オリンピックの場合は誰がそういう立場なのかは存じません。組織委員会の会長という存在がありますが、あの方がバリバリ進めるという感じでもなさそうな気がするので、組織委会長は一般企業で言えば社長とかCEOといった立場で、実際には取り仕切る方がいらっしゃるのかと思います。

そのリーダーがプロジェクトを進めるわけですが、大きなプロジェクトとなると、リーダーを支える人をつけることがあります。それをPMOと呼びます。プロジェクト・マネジメント・オフィスの略になります。

プロジェクトを進めるためには後述するスケジュール管理やリスク管理といった様々な仕事があるので、大きなプロジェクトになると、一人で全てを管理できなくなります。そのため、スケジュールの進捗状況や課題やリスクの対応状況といったものをまとめる作業はPMOで受け持ち、その資料をもとにしてリーダーがプロジェクトを進めるのに必要な決定をする、という役割分担になります。

スケジュール管理

プロジェクトを進めるにあたって大事なものがいくつかあります。その辺りは、ある程度型ができているので、興味のある方はPMBOKとか調べてください。ここではその中でも重要なスケジュール管理、課題管理、リスク管理を特に取り上げます。

というわけで、まずはスケジュール管理。名前の通りスケジュールを管理します。

その際、WBSというものをつくることがあります。といってもワールドビジネスサテライトではなく、ワーク・ブレークダウン・ストラクチャの略になります。

例えば家を建てる際には、基礎を作って、家そのものを建てて、内装をして、となるかと思います。その内装にしても、壁をつけたり、窓やドアを取り付けたり、電気やガスや水回りを整えたりします。
こんな感じで、スケジュールも大きな塊をまず作り、その塊ごとにさらに細かく分けて、最終的になんの作業をどこの業者に発注して作業が何日の何時から何時なんてことまで決めて、初めて家が建つかと思います。
これがWBSになります。

で、単に作業を細かく分ければよいわけではなく、例えば、最終的に引っ越しできるのがいつなので、内装がいつまでに終わっている必要があって、そのためには建物がいつまでに建つ必要があって、じゃあ基礎がいつまでにできている必要があって…とそれぞれの作業の順番と繋がり、どれくらいの時間がかかり、いつまでにやるかを決める必要があります。
WBSがリストではなくストラクチャ(構造体)とされる由縁です。

そのような色々な作業、工程がある中で、ある程度のまとまりの終わる日がありますが、それをマイルストーンと呼びます。
家の例で基礎、建物、内装に分けましたが、その基礎が終わる日、建物ができる日、内装が終わる日、などがマイルストーンになるかと思います。電気、水道、ガスが通じて住めるようになる日などもマイルストーンになるかと思います。

また、ある作業が終わらないと次の作業に進めないということはよくあるかと思います。例えば、家の中の電気配線が終わってなければ、外の電線とつないで電気を供給するというわけにはなかなかいかないと思います。
そういうこれが終わってなければ次に進めないという作業と作業のつながりをクリティカルパスと呼びます。

例えば、今日から始める3日かかる作業Aと2日かかる作業Bと4日かかる作業Cがあった場合、それぞれが並行作業でき、かつ、一人でできる作業であれば、全部平行作業すれば、4日後には全部終わっています。が、例えば、作業Aが終わらないと作業Bができない、あるいは、なんらかの理由で作業AとBが同じ人じゃないとできない場合、全部の作業が終わるのは5日後になります。
こういう前の作業が終わらないと始められないとか、できる人が限られるといった制約がクリティカルパスになります。

こういうものを考慮しながら、期限に向けて、作業を進めつつ、果たして期限までに間に合うのかとか、間に合わないのであれば、別の業者に発注しようかとか、メンバーを増やそうかとか、あるいは、期限を延期するのか、ということを管理するのがスケジュール管理になります。

オリンピックの話になりますが、マスコミとか野党が例えば観客を制限するのかどうかをいつ決めるのかとか、あるいは、そもそも中止する場合にはいつまでに決めるのか?という質問を菅首相にするかと思いますが、これについて具体的な日付が語られることがなく、安心・安全な大会を開くために努力するという答弁に終始しています。
曲がりなりにもプロジェクト管理に携わっていた身としてはこれが非常にモヤモヤしてしまいます。もちろん、内部ではちゃんと管理されていて、破綻しないように進めているとは思うのですが、それが出てこないのでモヤモヤしてしまいます。

自分がやっていたようなシステム開発のプロジェクトでは、開発メンバーはもちろん、お客さんや、手伝ってもらう外部の業者も含めて、スケジュール表と進捗状況を共有するのは当たり前でした。
もちろん、一番細かいレベルの進捗状況なんて知っても仕方ないのでそこまで全部公開しろとは言いませんが、どういうマイルストーンがあるからいつまでに判断して結果を知らせる、くらいのことは公表できないものかと思ってしまいます。
最近は家を建てる際にも、いくつかの段階で連絡があるらしいじゃないですか。これがろくに報告もなかったら、本当に問題ないのかとか心配になりませんかね?

オリンピックも中止の判断の基準と最終決定日はいつなのか、無観客か有観客の決定をいつまでにするのか、ということくらい、公表できないのでしょうか。

課題管理

プロジェクトを進めていれば、色々と困ったことが出てきます。あらかじめ想定できる問題もあれば、考えが足りなかったり、そもそも思ってもいないことが起きたりすることもあるでしょう。

そういうものはその都度取り上げて、どういう対応をするか決めることになります。それが課題管理(タスク管理)になります。

家の話で言えば、資材が不足したり高騰したりすることもありますし、業者が都合で作業できないなんてこともあるでしょう。そういう事態が発生するたびに、それを明文化して判断するのが課題管理です。

コロナ禍に関わらず、大なり小なりプロジェクトには問題が起きるので、それを日々解決していくことになります。
オリンピックについても、もちろん内部的にはそういうことをやっていると思います。それをまあ、事細かに公表する必要はないです。とは言え、自分がやっていたようなシステム開発のプロジェクト管理では、内部で閉じるようなものは別として、全体がいくつで解決済みがいくつ、未解決がいくつで解決予定がいつで、主だった問題はこれこれです、という報告はしてました。

リスク管理

最後がリスク管理です。これは今後発生しそうな問題になります。

家の話では、例えば現時点では資材は足りていて問題ないのだけど、業者さんから今後原材料不足でもしかすると資材が不足するかもしれないと言われた、なんて場合は対応を考えることになります。それが別の代替資材でどうとでもなるものなら放っておいてもよいでしょうし、場合によっては先に押さえておくといったことが必要かもしれません。余っている業者がないか聞いてみるとか、どんな手が打てそうか考えたり、実際に手を打ったりするのがリスク管理です。

オリンピックについては、現状、リスクだらけかと思います。例えば無観客か有観客かということも大きな影響があるので、50%制限にしたらどうする、無観客にしたらどうするといった、リスク対処計画が必要になります。ましてや、中止のケースなんて突然「中止です」と発表すれば済むものではないので、内部では管理しているはずです。
それを事細かに洗いざらい公表しろとは言いませんが、大きなものについては、あらかじめ示しておいてほしいというのが正直なところです。2日後に緊急事態宣言出します。その内容はこうです。なんて言われても大混乱になるので、対応できるだけの期間をとって告知するというのは当たり前だと思うのですが。

リスク管理については、別件で書いたので、興味があればそちらを参照したり、もっと専門的な解説を参照してください。

損切りできない日本人

従来型日本企業は結果ではなくて過程を重視する傾向があります。評価基準が「彼(彼女)は頑張っている」とかだったりがままあります。同じ結果を出したとして、効率よく進めた人ではなく、無駄な作業をして時間をかけた人が評価されたりするので、効率化が進まなかったりします。まあ、効率的に進めすぎて終わってしまうと、次の作業を積まれるという事情もありますけど。

そのせいか、ここまで頑張ったのだから今更やめられない、みたいな話がよく出てきます。手段と目的を混同するのもここに原因があるような気がします。目的を達成するための手段なのに、手段が目的化してしまうことがままあります。
その手段を取ることで必ず目的が達成されるのであればよいのですが、世の中そう単純ではないので、目的化した手段を十分に行なったとしても本来の目的が達成されるとは限らないというか、大抵の場合は本来の目的を達成できません。

また、言霊文化のせいか悪いことを想像することを避ける傾向があり、そういう仮定をすること自体が不謹慎だとかの理由で怒られることがあります。考えること自体を忌避するので、そういう状況になった時に対応できません。

オリンピックについては、中止の判断はいつするのか基準はどうなるのかとかの問いには安全・安心な大会を開くとしか回答がないし、逆にどんな状況でも絶対にやるのかと問われても、同じ回答しか出てきません。まあ、仮にどんな状況でもやりますなんて言ったらマスコミと野党と世論が大爆発して、かって見たこともないような大炎上は確実なので、そんなこと口が裂けても言えないでしょうけど。

サラリーマンとしては立場的に忖度してできると思ってないことを言うことはありました。もっとも、できないと言ってもやらされた上に、できないことで文句言われることもよくありました。
けど、仮にも国のトップがそれでは、ねぇ。

失敗に不寛容どころか、失敗を考えることにも不寛容な日本

かって太平洋戦争の開戦前、海軍の山本五十六提督が近衛首相にアメリカとの戦争について問われ、「半年や一年は暴れてみせる」といった回答をしたという話があります。
これには続きがあって、その先はどうなるかわからないし長期戦になる公算が高い。いざ戦争になれば決死で戦うが、そうならないように決死の覚悟で和平交渉をしてほしいと伝えたとされています。明確に負けるとは言っていませんが、立場的に文化的に負ける、勝てないとは言えなかったのでしょう。他の提督ならあるいは長期戦になるが、なんとか勝てるだろうくらい言ったのかもしれませんが、少なくとも山本提督は負けるとは言わない代わりに、勝てるとも言いませんでした。

結局、日米は陸軍のマレー半島侵攻と海軍の真珠湾攻撃で太平洋戦争に突入します。海軍の真珠湾攻撃は、初戦でアメリカに大打撃を与えてアメリカ国民に厭戦気分を抱かせ、有利に講和するための手段として考案され、それが山本提督の「半年や一年」発言に繋がっているわけです。
現実は、打撃は与えたものの致命打にはならず、アメリカ国民にかえって対日参戦世論を育み、手段が目的化した真珠湾攻撃はそれなりに成果は得たものの当初の目的を果たせず、山本提督の発言通り長期化した太平洋戦争に資源がない日本が戦い続けることができないのは自明でしたが、終戦まで負け続けることになりました。
そもそも、ABCD包囲網で乏しい資源の輸入を止められた日本の起死回生の一発勝負なのですから、長期戦になった時点で勝ち目はありませんでした。

当時、国民にはそういう事情は知らされず、勝っていると言われ続け、そうは言ってもなんか怪しいというのは薄々気づきながらも、ある日突然「耐え難きに耐え…」となりました。

またそういう歴史を繰り返すのは勘弁してほしいですが、きっとこれは杞憂で、裏ではIOC等と調整して、延期なり中止なりにした場合にどうするかを検討しており、近いうちに公表されることでしょう(棒読み)。

拙い記事でございますが、サポートしてもよいよという方はよろしくお願いします。著者のやる気アップにつながります。