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息子の帰省

東京に住む息子が帰省して10日が過ぎた。大丈夫みたいだな。ウイルスそのものを見るような目で、疑って悪かった。


1か月前。「なんという半額」という一言とともに、新幹線の予約画面のスクリーンショットが送られてきた。予約画面。これだけでも情報量は十分だ。

1.帰省したいので新幹線を予約した。
2.12月19日、8時20分東京駅を出発。
3.12時18分新函館北斗駅に到着。
4.はやぶさ7号/座席番号は…←これは必要ないか
5.片道11,610円←半額でこの値段らしい

そして母親を25年やっていると、書いていないことも読みとらなければいけない。

6.駅まで迎えに来てね。よろしく。

いちばん言いたいことだ。

帰って来るのか。対するわたしの返事は「おかえり。うつすなよ」……冷たい親だ。息子も「北海道もひどい」と応戦する。たしかに。


同居する両親に伝えた。わたしの母は、ばばバカだ。幼稚園に上がるまで、預けて仕事に行っていた。娘がヤキモチを焼くほど、息子を可愛がってくれた。いつも「今度いつ帰って来るの?」と楽しみにしている。喜んでくれるはずだ。

ところが「えー!帰って来るの?」ひどいばーさんだ。いや、それでこそわたしの母だ。

わたしの両親は共に86歳。2人とも癌の手術をしている。病院通いをしていて、人一倍健康にうるさい。風邪ひとつひくことにもビクビクしている。そしてこの街。広報車が、最初の感染者が出たことを知らせて回ったくらいの、小さな田舎の街だ。

東京や札幌を悪く言うつもりはない。みんなが怖がっていた。ウイルスは都会から来ると思っている。わたしたちが話した言葉や文章で、イヤな気持ちになったらごめんなさい。


母が直前までうるさい。「やめさせた方がいい」「Go Toはダメらしいよ」←関係ない。「小池知事が帰省するなって言ってる」会いたいけれど、この家から感染者を出すのは世間体がまずいようだ。

息子にしたって、一刻も早く東京から逃げたかったのだろう。夜勤明け3時間後の新幹線に乗ったらしい。おい、大掃除はしないのか。

職場へは電車をやめて自転車で通い、外食はせずに自分で作り、買い物も必要最低限、人とは会わず遊びにも行かず、ずっと我慢していたそうだ。

去年は札幌への出張のついでも含めて、5回も帰って来た。それも我慢して、貯まった有給を全部つぎこんで、いつもの飛行機をやめてガラガラの新幹線で、1年ぶりに楽しみに帰って来たのに、ウイルス扱いしてゴメン。

 車に乗ってすぐ手を除菌させられ、家に着くなり頭からスプレーをかけられ、寒い和室に隔離させられた息子。可哀想だな。お帰りなさい。

東京と札幌から帰省した友達は、2人とも家に入れてもらえず、ホテルに泊まるそうだ。ほらね。「こっちの人もみんなマスクしてるんだな」と驚いていたけど、みんなが徹底しているから、この街はすぐに収束したんだよ。まぁ人の数が違うけれども。


息子は部屋でスマホばかり見ている。両親は相変わらずよそよそしい。こんなので帰って来てよかったのかと心配する。それでなくても離婚したせいで、生まれ育った家に帰れなくて申し訳ない。

なのに息子はうれしそうだ。「何もしてないけど、いいのかな」と言う。痩せているのに、こっちに来てから3㎏増えたらしい。「だったら雪かきぐらいしろ」と言いたいが、ここ何日かあまり雪が降らない。あの頃の分、やってほしかったのに残念だな。

娘と3人で、食べたい物を聞きながら夕食の買い物をすると「俺が払うよ」なんて言う。1度だけ3人で回転寿司に行った時は、娘と割り勘で払ってくれた。2人とも立派になったね。そして、味方でいてくれてありがとう。


息子は晩ごはんを食べながら、まだ3年目なのに、自分の提案したことが工場で採用された話をする。娘も割って入って、自分が仕事でいかに気が利くかを力説する。2人とも褒めてほしいのか。

自分たちのことを『SSレア』なんて言うから「はいはい。じゃあ、その2人の『SSレア』を育てたわたしは~?」と聞くと声を揃えて「ポンコツ!」だって。


息子よ、もう帰っていいぞ。帰って大掃除しなさい。














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