青空の向こうから
山の苗木畑で働いている。
「コォー、コォー」
苗木の根の土をふるい落とす、ガショガショうるさいトラクターが止まる。
朝の畑に静寂が訪れた瞬間、大きな鳴き声が響きわたる。
額の汗をぬぐいながら、みんなが一斉に空を見上げる。
誰かが叫ぶ。「あっ、あそこ!」
ゆびさした方向をたよりに目を凝らす。
探していたところの遥かむこうから、2つの「く」の字が重なったり離れたりしながら、まっすぐこちらに向かってくる。
オオハクチョウだ。
腰をさすりながら見つめつづける。
40羽くらいだろうか。
仲間を確かめ合う大きな声。
もう真上までやって来た。
あんなに高いのに、圧倒的な存在感。
そして、ゆったりとした翼の動き。
なんて優雅なんだろう。
感動して涙が出そうになる。
それでなくても秋の青空がまぶしい。
時間は自分で作れると思っていた。
がんばれば何でもできると信じていた。
そんなことはない。
心と身体が悲鳴を上げていた。
自然の中で働きたくて、ここにたどり着いた。
こんな時間は、わたしへのごほうび。
自然はいつでも優しく寄りそってくれている。
それにしても生き物はすごい。
カレンダーも時計も持っていないのに、時期がきたら風を読んで渡っていく。
そもそも、そっちが南だってなんで知ってるの?
自然の中では人間なんて、ちっぽけな存在。
自分たちの力でどうにでもなるなんて、思わない方がいい。
「みんなー、口あいてるよ」
誰かの声で、われに返る。
オオハクチョウの群れは、目をはなせば見失ってしまいそうなほど遠く小さくなっていた。
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