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簡単なたし算や、数を数えるのが苦手なのはなぜ? 【弱みを対策できた親子のケース②】

「数をただしく数えられない」「簡単なたし算やひき算ができない」。

未就学児から小学校1~2年生くらいで起こることが、少なくありません。

大人から見るととても簡単なことなので、「どうしてできないの?」と戸惑う親御さんは多いです。理由も、なかなかわかりません。当然ながら、子ども自身もうまく説明ができません。

「1から10までの数字の順番を覚えていない」「数の大きさのイメージがない」「リンゴをどこまで数えたかわからなくなってしまう」など、子どもによってできない理由はさまざまです。

「国語の文章読解が苦手」な子どもの実例をデータとともにひも解いた前回のnoteに続き、今回は、算数が苦手な子どもが、HUCRoWアセスメントを受けたことで勉強法を改善できた例をご紹介します。

手の指を使わないと計算ができないのは、どうして?

佐々木一馬くん(仮名)がHUCRoWアセスメントを受けたのは、小学校1年生の3学期です。

事前アンケートでは、数量の大きさのイメージができない、小さな文字の入った言葉の読み書きが難しい、文章題ができないなど、あらゆる項目にチェックがついており、親御さんは「あれもこれもできない」と考えていたようです。

詳しく聞いてみると、簡単なたし算やひき算でも時間がかかり、手の指を使うとのこと。同じ学年の他の子どもは指を使っていないと知ると、親御さんは「学習の量が足りないせいだろう」と考えていたようです。共働きのため、学習を満足に見てあげられていない、という思いもありました。

学校の授業では「なるべく手を使わないでやりましょう」と言われていましたが、小学校1年生3学期になっても指を使っています。繰り上がりのある算数の宿題をしているときに、「お母さんの指も貸して」と言われましたが、親御さんは断ります。すると、一馬くんは自分の足の指を使って計算し始めたそうです。

その原因を見つける手がかりとなるHUCRoWアセスメントでは、ワーキングメモリの特性を以下のように分けます。

一馬くんが、HUCRoWアセスメントを受けてみると、「言語領域」は年齢相当か、やや高いくらい。一方、「視空間領域」の「短期記憶」「ワーキングメモリ」が低い、という結果でした。

幼児期や小学校低学年の子どもが「5+3=8」などの足し算をするとき、「5の量はこれくらい」「3の量はこれくらい」と、数のイメージを一時的に記憶し、それを使って頭の中で、量を合わせて計算をしていくのです。

計算には、数のイメージする力が必要なので、視空間領域が弱いとなかなかうまくできず、数のイメージを補おうとして手や指を使っているのです。

「数の基礎的な概念」をとらえるためのトレーニングを

幼児期からおうちで、お風呂に入るとき、1から20まで数えたら湯舟から上がる、おかしを3個とる、お皿を家族の人数分並べるといった、数や量に触れる経験を通して、子どもは数や量の基本的な概念を獲得していきます。幼児期から、言葉の数と数量のイメージの対応関係を徐々に学び、数量概念を発達させているのです。

発達心理学者であるピアジェの、有名なテストがあります。

たとえば、7個の赤のおはじきと7個の青のおはじきを並べて、幼児に同じ数であることを確認します。次に、赤のおはじきの間隔を広げ、長くして、再び数が同じか違うかをたずねます。すると、幼児は「赤のほうが多い」と答えます。列の長さから、数量を比べたのでしょうね。

幼児にとって、数の言葉と数量のイメージは、正確に対応していません。

それが小学校入学前までに経験などを通して身につくことにより、ほとんどの子どもは、おはじきの色や並べたときの間隔や長さの違いと、数が関係ないことを理解することができます。数とは事物の抽象的な属性であり、イメージした数直線上で同じところにあれば違わない。こうして個々の数が、子どものイメージした数直線上に位置づけられます。

これが、たし算やひき算など小学校入学後の算数学習の基礎となる「数の基礎的な概念」です。

視空間領域が弱い一馬くんは、その数のイメージを認識するのが弱かったというわけです。一馬くんのような子どもでも、トレーニング(働きかけ)によって「数の基礎的な概念」をとらえることができます。

さまざまな数や量に触れる経験を重ねれば、最終的には、頭の中に「内的数直線」を描けるようになるのです。

上記のような数直線があった場合、「1はどのあたり?」という質問をすると、1から5の間で、1に近い部分が当てはまるはずです。ところが、内的数直線が描けていない子どもは、1と5の間ということはわかっても、5に近い部分を答えてしまうケースがほとんど。その場合、発達の段階を確認しながら、内的数直線を頭の中に描くトレーニングをしていくと、効果が出やすいのです。

多くの算数の教材では、数を数えたり、書いたり、絵や数字で足し算や引き算をする練習はしても、数直線により数感覚の発達を促すような課題があまり多くありません。そのため、私たちはHUCRoWを考案した湯澤正通先生と協力して、『算数の基礎を養うトレーニングブック』を作成しました。

一馬くんには、『算数の基礎を養うトレーニングブック』をお勧めしました。数直線の課題に取り組みながら「数の基礎的な概念」を身につけられる教材です。(詳しくは、インフィニットマインドのHPAmazonのページをご覧ください。ご希望の方はご購入もできます)

親御さんは「量の問題じゃなかったんですね」と少し拍子抜けしたような、安心した様子でした。それまでは、数字が書かれたドリルで、とにかく量をこなそうとしていたようです。

私が塾の講師をしていたころ、同じように簡単な計算の苦手な子どもがいました。間違えるたびに「5+7は11じゃないでしょ」と修正して、ただ量をやらせているだけだったように思います。

本当は、数直線や、ときにおはじきを使うなどして、数のイメージを書き換えてあげなくてはいけなったのです。

数の“飛ばし”が多く、テストもまばらに回答してしまう

数を数えるときに、いくつか数字を飛ばしてしまうという太田優美(仮名)さんは、小学校2年生の夏休み頃にHUCRoWアセスメントを受けました。

計算ドリルで多くの問題を書き写すのに時間がかかり、計算ミスも多いとのこと。また、注意が散りやすく、ほかに興味が向くと、いまやっていることを忘れてしまうようです。

親御さんの予想に反し、HUCRoWアセスメントの結果は、情報の種類によって課題成績にばらつきは見られたものの、優美さんの総合的な学ぶ力は年齢相応だったのです。

今回の優美さんには、HUCRoWアセスメントと親御さんへのヒアリングから、やや不注意の傾向はあるようなので、意識して学習を進める必要があることをお伝えしました。

優美さんは早生まれでした。同じ2年生の中でも、月齢が小さい子どもになり、小学校低学年のうちは、月齢の違いによる発達差が大きく学習に影響します。そのような月齢差は、年齢が上がるにつれて、次第に消えていきます。

しばらく様子を見て、優美さんの特性として不注意の傾向がある場合は、文章題を解くとき、何を求められているかの部分に○を付けたり、下敷きや白い紙などで終わった部分を隠しながら解いたりすることをおすすめしました。終わった箇所に印をつける、書き写す際は書き写す部分だけが見えるようにするなど、注意によるミスを減らすような工夫もいいですね。また、机の上など目の入るところに、気の散るものを置かないようにすることも大切です。

「ものの数が数えられない」のパターンは3つほどに分かれる

「数がただしく数えられない」というお子さんは、大きく分けて3つほどのパターンがあると考えられます。

■数がただしく数えられないお子さんの、3パターン
・視空間領域が弱い

・不注意の傾向がある
・数に触れることが少ないなどの理由から、「数の基礎的な概念」形成ができていない

一馬くんの場合、視空間領域が弱いために「数の基礎的な概念」の形成が難しかったのですが、視空間領域が弱くなくても、幼少期に数に触れる機会が少なく、数の概念形成がうまくできていない場合もあります。

ワーキングメモリ教育推進委員会では、「算数の基礎定着・つまずき 簡易チェック問題」を無料で公開しています。就学前と小学生の2種類を用意していますので、必要に応じて活用いただければと思います。

表面的には同じような結果に見えても、一馬くんと優美さんでは、理由が異なりました。そのため、改善するための対策も変わります。

数の概念を知らないままに新しい算数の単元を学ばなければならないとしたら、とても大変です。本人も算数の学びが、楽しくないでしょう。問題を飛ばしてしまう習慣をそのままにしていたら、将来困ることも出てくるでしょう。早めに対策することが、子どもの負担を和らげることにもつながります。

次回は、拗音、濁音などのひらがな特殊音が苦手な子どもについて、事例を紹介していきます。

編集協力/コルクラボギルド(文・栃尾江美、編集・平山ゆりの、イラスト・北村侑子


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