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「うちの子、発達障害!?」 言葉を一人歩きさせず、客観的指標で原因を知ろう 【開発者インタビュー/前編】

現代の教育システムが抱える問題の中でも、個別の支援がままならない状態は大きな課題の1つ。集団学習が基本にあることで、平均から大きく外れる子どもの生きづらさを生んでいるともいえます。

今回は、一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会の代表理事であり、ワーキングメモリ理論に基づいた教育支援の第一人者、湯澤正通教授を迎え、現代の公教育が抱える課題と解決策について聞きました。

発達障害の可能性がある児童は9%も?

野瀬愛未(以下、野瀬)
現代の教育システムにおいて、湯澤先生が課題感を持っていることはどのようなことですか?

湯澤正通先生(以下、湯澤)昨年末の新しい情報で、気になるものがありました。文部科学省の調査によると、「発達障害」の可能性のある児童生徒が、平均して9%もいるというのです。これは、小学校,中学校,高校校の教師が通常学級で「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」児童生徒の人数を報告したものですが、あまりにも多い。

湯澤正通(ゆざわ・まさみち)。広島大学大学院学校教育研究科教授。東京大学文学部心理学科卒業。専門は、教育心理学、発達教育など。ワーキングメモリの特性がわかるアセスメントシステム「HUCRoW(フクロウ)」を開発。著書に『知的発達の理論と支援─ワーキングメモリと教育支援』(金子書房)、『ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!』(共著、学研プラス)など

湯澤 
10年前の調査に比べると、2~3%の増加です。発達障害は脳に原因があるので、急に増えることはありません。コロナの影響で報告が増えているのは不登校のお子さんですが、教師の目から見ると、通常とは違う子どもが増えているという認識なのかもしれません。

野瀬
私は、保護者の方と話をすることが多いんです。保護者の側でも、ウェブのチェックリストなどを使って疑いを持ち、「うちの子どもは発達障害かも」「ADHDだから落ち着きがないんだろう」などと思い込んでしまう傾向がある気がします。発達障害という情報が一般化したことで、診断が出ていなくても、言葉が独り歩きしているように感じます。

湯澤
昔は、「頭が良くない」「態度が悪い」で片づけられていました。それを子どもの特性ととらえて、「本人のせいではない」と理解されるのはよいことです。ただ、言葉に振り回されるのではなく、正確に子どもたちの特性を把握したうえで、対応していく必要がありますね。

個別に対応できても、適切な対応がわからない

野瀬
学校関係の対応もバラバラですよね。地方だと特に、学校の支援がなかなかない、という話も実際に保護者の方から聞きます。

湯澤
教育指導要領はあるものの、その範囲内での具体的な対応は個々の学校によって違います。発達障害の子どもでも、多くは通常学級で一緒に学んでいますから、授業についていけない場合など、子どもに合ったやり方が必要になります。一方で、クラスの何十人もの児童・生徒を1人の教師が見ているため、全員に個別対応をするのは現実的ではない。当然ながら、保護者の役割も大きくなっていきます。

野瀬
学校のやり方で勉強についていけない子どもに、ご自身が学んできたやり方で教えようとする保護者の方が多いようです。たとえば漢字が書けない場合、学校からたくさんの漢字練習を求められると、保護者は別の理由があるから量を減らしてほしい、と言ったりする。漢字が書けない本当の理由をわからないまま、対策が取られているんですね。

湯澤
いまより個別対応ができるようになったとしても、子どもの持っている課題を知り、適切な教え方、学び方と支援するレベルにまではなかなか到達できません。専門家である教師でも難しいでしょう。個別最適で、個々に応じた教育ができるのは理想ですが、個別に対応できたとしても、適切な対応がわからない状況です。

学校で個別の見極めは難しい。経験があるゆえの誤認も?

野瀬
指導歴が長い教員の方であれば、子どもに対して推測する力があります。ただしそれが思い込みとなり、「以前同じような子どもがいたから、同じように対応すれば上手くいくはず」と考えてしまうケースも少なくないように感じます。同じように対応しても変化が見られない、という場合も多いですよね。

湯澤
その通りで、原因を踏まえないと上手く対応できません。原因や背景は、いま見えていることだけではわからないんですね。テストや検査をすることで、子どもが直面している困難の原因がわかって初めて、それに合わせた対策や教え方が選べます。ただ、学校現場ではそこまででできていないんです。

野瀬
HUCRoWのアセスメントを受ければ、つまずきや困難の原因がある程度わかってきますね。

HUCRoWで脳の特性を知れば対策できる

湯澤
HUCRoWは脳のワーキングメモリのアセスメントで、ワーキングメモリの強み、弱みを測定します。これまでの研究から、ワーキングメモリが国語の読み書きや算数の基盤になることはわかっています。アセスメントの結果、ワーキングメモリに弱さがあるとわかれば、それが原因で読み書きや計算の困難が生じている、とわかります。その部分に対応した対策が取れるようになるのです。

一方で、ワーキングメモリに弱い部分がないのに読み書きができないとなれば、それ以外のところに問題があると予想できます。原因に、ある程度の当たりをつけるためにも、できるだけ早めにHUCRoWを受けたほうがいいでしょう。

アセスメントだけでわかるわけではなく、学校の先生や保護者からのたくさんの情報をかけ合わせ、補い合いながら原因を見極めていきます。

野瀬
HUCRoWでは、ワーキングメモリに弱みがない場合でも、保護者の方のアンケートやヒアリングから、子どもが抱えている課題の原因を探っていますよね。

湯澤
それも大きな価値と考えています。HUCRoWを開発するにあたり、全国の小中学校で2000名ほどのデータを取り、インターネットでも1000名近くに受けてもらっています。HUCRoWにより直接的に原因がわからない子どもたちに対しても、学習の困難を解決するための支援を続けており、たくさんのレポートやデータを持っているんです。

野瀬
HUCRoWのアセスメントは、湯澤先生にそれらの知見を教えていただきながら、私も報告をさせてもらっています。

学校も保護者も、困難の原因を知って対策を

野瀬
原因や対策がわかったとしても、やはり人数が多い教室では個別学習の対応は難しいのではないでしょうか。

湯澤
「ユニバーサルデザイン」という考え方で、発達障害の子どもも含めて、クラス全体がわかりやすくなるような授業の仕方もあります。まずはそういう教え方をして、それでもついていけない子どもは個別に指導する、という対策がよいと思います。

野瀬
学校の先生がHUCRoWのセミナーに参加してくださることも多く、学校での個別対応を検討したいという意思はあるようです。また、保護者に働きかけるために学んでいる方もいます。一人ひとりを見られるのは保護者なので、両方で補完し合う形が理想なのでしょうね。


【インタビュー後編へ続く】
通常の学級など、人数の多いクラスでの授業が抱える問題は、個別対応が難しいことです。それでも、授業にユニバーサルデザインを取り入れ、さらには子どものワーキングメモリHUCRoWの弱みや、それ以外の特性を知っていくことで原因を探り、適切な対応ができるはず。原因を探る手立てとして、HUCRoWは活用できます。

次回は、湯澤先生がHUCRoW開発にかけた情熱や、野瀬自身がHUCRoWにかける思い、本来目指すべき子どもの学習支援についてなど、話していきます。

■簡易版「HUCRoW」から試してみる

簡易版・HUCRoWお申込みのご案内 | 一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会 (ewmo.or.jp)

編集協力/コルクラボギルド(文・栃尾江美、編集・平山ゆりの)


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