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自己採点するトレーニング

 ウエイトリフティングの試合には基本的に成功と失敗しかない。白判定が2つ付けば成功、1つなら失敗だ。天国と地獄。0か100。試合になれば人よりも重いものを挙げれば勝つ単純な世界だ。そんな極端な判定の落とし穴というか、試合を前提にしすぎた練習を見直してみようという内容。
 内容は上級者向け・・・と、なにをもって上級者と言えるのかはわからないが、年代にもよるが全国上位クラスで記録が停滞気味で悩んでいる選手は参考にしてみてほしい。

※記事の中に出てくるトレーニング名はネーミングセンスのない私個人で考えたものなので、しっくりくるものがあればどうぞ置き換えて使ってくだしぁ

0 or 100のトレーニングとは?【ゼロヒャクトレーニング】

 先ほども行った通り、試合には成功と失敗しかない。点数に置き換えると、0点が失敗。100点が成功。これをそのまま練習に持ち込む手法が0 or 100(ゼロヒャク)トレーニングだ。「よっしゃ!ギリギリとれた!」と練習中に聞こえてきたことはないだろうか?このような選手は常に失敗と成功しか考えていない練習をしている場合が多い。前提を壊すようで申し訳ないがこのトレーニングも間違いではない。

 ウエリフには基本的にオフ期が存在しない(自主的にとる選手もいるが)。年間を期別ごとに分けると練習期と試合期に分かれていると考える。試合期の調整時期には試合の感覚をより感じるために、ゼロヒャクトレーニングの比率を大きくするのがよい。「比率」という言葉が出てきたということは違う種類の練習があるということで次の項目に移る。

0〜100のトレーニングとは?【セルフスコアリングトレーニング】

 最終的には試合のように成功か失敗かになるが、成功するための練習として「成功だけを意識した」トレーニングだけで練習しても良いのかという点にまずは気がついてほしい。そこにはより良い成功、ギリギリの成功のように「成功」だけでも様々な種類になるはずだ。もちろん失敗に関しても同じことが言える。その「中間」を考えられるようになればウエリフの世界が広がるように感じないだろうか?
 前項目で成功と失敗を点数にすることはできた。今度は失敗と成功の中間を数字として考えてみる。そのためにまず最初にするべきことは100点満点の試技を自分の中で決めること。ゼロヒャクトレーニングしかしてこなかった選手は最初は戸惑う場合がある。なにしろ成功がすなわち100点だったからだ。100点の試技とは自分が現状でできる完璧な試技のことだ(最も美しいフォームと言っても良い)。決めるところから難しいと感じた選手は自分のフォームを動画撮影したり、自分以外の人に指摘をもらうなどして客観的に徹底的に自分のフォームを見つめ直そう。または参考にするモデル選手を決めるという手法でもいい(モデリングという)。そうすれば徐々に完璧(100点)のフォームが見えてくるはずだ。

 100点の試技が自分の中で決まったら練習に移る。練習の中でセットごと(または本数ごと)に自分に点数をつける。これが0〜100(自己採点=セルフスコアリング)トレーンングだ。採点基準も自分で決めていい。失敗してもいいところがあったら点数をつけてもいい。重要なのは自分で点数をつける行為そのものであって、セルフスコアリングトレーニング中は外部からの指摘はいらない。100点は完璧と言えるぐらいのフォームなので最初はなかなかとることは難しいだろう。
 自己採点することによって自分の練習の簡単な反省(分析)ができる。失敗を反省する選手はほとんどだが成功を反省できる選手がどれだけいるだろうか。

 2つのトレーニングを紹介した。ゼロヒャクトレーニングとセルフスコアリングトレーニングだ。先ほど説明した練習期と試合期に分けて使い分けるのが効果的だ。練習期にはセルフスコアリングトレーニングの比率を上げる。試合期にはゼロヒャクトレーニングの比率を上げる。あえて比率という言葉を使うのはどんな時でもどちらの意識も持っていてほしいからだ。難しい場合は最初はどちらか100%意識でもいい。

数字から言葉へ【セルフアセスメントトレーニング】

 ここからはさらに踏み込んだ内容になる。そして高度な練習になるので、自己採点(セルフスコアリング)トレーニングができるようになったら読んでほしい。

 自分の試技が点数化できるようになって数字による分析ができるようになったら、次はそれを言葉にしていくトレーニングをする。数字という曖昧な基準を言葉にして明確にしていくのだ。採点の基準はいろいろ考えられるだろう。プラスの採点、マイナスの採点が自分の中にあると思う。それを少しずつ言葉にしていこう。私は言語化のトレーニングと呼んでいるが、自己採点から進化する感じの意味あいで自己評価(セルフアセスメント)トレーニングと呼んでもいいかもしれない。
 自分の試技を言語化することができれば、どのような効果が見込まれるか。まず100点の基準となる試技を言語化できれば、現在行った試技と比較して修正する際、具体的な改善ができる。修正は一気に行うことは難しい。一歩一歩小さなところから改善していこう。人に指摘されたことに比べ、自分で考え導いた改善は自分の中に残り続けるだろう。

 実は言語化はそれほど深いものでもない。初心者や高校の時期くらいはほぼ毎日のように外部から受けてきている。外部からとは指導や指摘のことである。指導者は選手の改善点などを言語化し伝える。それを今度は自分の中で成立させるだけのこと。自分で自分を指導するのは最初はなかなか難しいが、これができるようになれば一人で成長していくことができる。

 記録が停滞する理由のひとつとして的確な指導が受けられない環境というものがあると考える。指導がなければフォームを修正、改善していくことは難しいが今回紹介した自己採点(セルフスコアリング)トレーニングや自己評価(セルフアセスメント)トレーニングを行えば自分だけで成長していくことも可能なはずだ。最初にも言ったがかなり高難度のトレーニングなので初心者には向かない。最初こそ外部からの指導を受けて土台を作ることを優先しよう。大学生や特に社会人など指導が昔よりも減少し、それが記録が停滞の原因になっているかも?と感じている選手にはぜひ試してみてほしい。

 余談になるがこのトレーニングは地元の社会人選手を見て思いついたものだ。社会人になると特に(環境にもよるが)指導を受ける機会はほとんどなくなるだろう。ウエリフという競技の性質上、自己のフォームが確立された後の練習は極端に言えばほぼひたすら補強による筋力アップと種目練習の反復による記録の向上だろう。この「自己のフォーム」というのが厄介で強い選手が全て同じフォームを採用しているわけではない。自分に合ったフォームとは長年研鑽を続けて作り上げられたもので、そこに外部から修正を加えることは非常に難しい。指導者の選手個人のフォームへの理解度や選手のプライドなど多種多様な理由でフォームへの指導が困難になっている(ずっと選手を見続けてきた人ならまた話は変わるが)。そんな状況を少しでも改善させるためには選手自身に動いてもらうしかないと思った。これで何かが変わってくれたらいいと願う。

 全国の孤独と戦う社会人選手にエールを!


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