カクヨム「キャラクターが精神的に追い込まれる短編集まれ!」企画 6/21 23:59時点での独断と偏見によるレビュー

2019/06/20からカクヨムで私Wkumo主催で開催されている企画、

「キャラクターが精神的に追い込まれる短編集まれ!」

について、6/21 23:59までに私が感想をツイートした28作品のうち
『俺たちの命は軽すぎてもう嫌になる』

『きみとストーキング』
の2作品クロスレビューというかぐだぐだ語り、
『青空に咲く、黒と金』

『そして私は神を続けることを誓う』
『# 緊急怪獣速報』
への軽い言及を経て、
『ウタカタの地』のレビューというかぐだぐだ語りで締める横断レビューをまとめます。


以下本文


 この作品『俺たちの命は軽すぎてもう嫌になる』のことたびたび思い返してしまう。主人公が生きて救われるにはどうなればよかったのだろうかと。

 主人公一人の力ではどうにもならない。彼は努力しすぎるほどに努力した。でもダメだった。同じ立場にいて主人公の気持ちを誰よりもよくわかって力になってくれて共感し合うことができる、傷を舐め合える元ヒーローたちの力を借りてもダメだった。じゃあいったいどうなれば彼は生きて救われたのか。
 これが全くわからないんだなあ。だって疑問を立てた当の私でさえ、彼については万事八方塞がりでもうどうにも救いようがなく、作中の死という安息が彼にとっては一番の救済だった…と思ってしまっているからさ。

 ジャンルの異なる作品だけど、『きみとストーキング』の主人公「ヒッキーちゃん」の置かれた境遇もどことなくさっきの作品『俺たちの命は軽すぎてもう嫌になる』の主人公「ノア」くんと似ている気がするんだよね。周囲や環境のせいで追い込まれ、精神的に限界を迎えていて、もはや死にしか安息を見出だせないところが。

 ヒッキーちゃんとノアくんはその終わり方……自分のことを一番わかってくれる相手に引導を渡してもらった、という点でも共通していたよね。

 二人にとっての安息は、本当に死、ただその一つしかありえなかったのだろうか。生きて、心許せる場所で安心して、生き続けることはできなかったのだろうか。

 二人はどちらも自分の力ではもうどうしようもないところまで来ていた。信頼できる少数の仲間がいてもダメだった。
 二人のつらさの原因は、ヒッキーちゃんの場合は「自分の存在を許さない『世間』や家族」であり、ノアくんの場合は「掌返しが激しくヒーローでない自分を許さない世間」であった。

 大枠で言うと、どっちも「世間」や「外部環境」がつらさの元だよね。でもこれらのファクターってほぼ自分一人じゃどうにもならないものだと思うんだよね。ちなみにそういう自分じゃどうにもならないものに悩まされて苦しむことというのが私の性癖であり、この企画で見たかったものの一つであったんだけどそれは今は置いておくとして。
 二人は努力じゃ変えられないものに苦しめられていた。それはOK。努力じゃ変えられないものがストレス源であるとき、その人が生きて救済される道はどこにあるのだろうか? うーんここまで考えておいてこの答えを出すのはちょっとあれなんだけど、やっぱり「逃げる」が安パイなんじゃないかな~という気はする。むしろそれ以外に道あるのってレベル。

 作中の二人は死ぬということで周囲の悪い環境から「逃げられた」わけだけど、そもそもの始まりの問い、生きながら「逃げる」ためには多かれ少なかれ物理的にせよ精神的にせよ動く必要があるわけだ。そのためのエネルギーとか資金とかはどこから出すのって問題とか逃げた先で何するのって問題とか色々問題はある。
 そもそも引きこもりで逃げるための体力も資産もエネルギーもないヒッキーちゃんはもちろん、ノアくんはその病気自体に不明点が多いし、それに序盤でお母さんが「逃げる」ことを提案してノアくんはそれを拒否している。諸々のファクターを考えるとまあ難しい選択肢ではあることもわかってるんだけど、それでもこれは外部の信頼できる何者かが、対象を、誰も対象のことを知らず偏見を向けてくることもない新天地、安心して過ごせる環境(そういう環境があるのかどうかはともかく)に対象を連れていくくらいしかないと思うんだよね……自分で逃げられるような精神状態ではないので、「善意の第三者」はやっぱり必要になるんじゃないかと思う……適度にしがらみのない、かつ対象のトラウマを無為に呼び起こすことのない善意の第三者が……ノアくんの場合それは特に絶望的だけど……異世界転移とかしかないんじゃないの救い……

 なんだこの結論は! 無理なことを言っているじゃないか! しかもやけに現実的で夢がない感じだし。
 それでも私は夢を見ますよ……二人が安心して過ごせる新天地に行って心も身体も徐々に回復していって、やがては幸せに暮らせるようになる夢をね……辺境の片田舎とかに引っ込んでスローライフとかどうですか……?

 と一旦オチたところで話題をぐいっと。
 『青空に咲く、黒と金』の前日譚部分に出てくるメサイアくんも、周囲の環境に追い詰められてどうにも逃げ場がなく最終的に死を選んでしまった、という点では同じですね。心に杭を残してゆく作品でありました。そしてメサイアくんの追い込まれ描写は非常に甘美でありました。

 『そして私は神を続けることを誓う』も、どうしようもない周囲の環境に押し潰され疲弊して最終的には自分が参ってしまうであろう未来への破滅の道しか示されていないところが共通ですね。この主人公さんの追い込まれ描写も最高でした。逃げ場のないところがもう性癖で性癖で。

 『# 緊急怪獣速報』も、怪獣というどう頑張っても変えられない環境が主人公の追い込まれる原因であるところは共通でした。いい作品でしたね。

 そしてこれ『ウタカタの地』
 これも先程まで挙げてきた作品と同じく自分では変えられない周囲の環境が主人公たちの追い込まれの原因ですが、この作品が他5作と違っているユニークな点は物語が「変えられないと思っていた環境が実は変えられるかもしれない」ということを読者に開示してくる点です。
 この物語の場合の「変えられない環境」は閉鎖的な村と、世界の仕組みそのものであるかのような神です。しかし、物語が進むにつれて、神は人格とトラウマを抱えた対話可能な一つの個であり、村は神の一存でどうにでもなる存在だということが明かされていきます。
 その読者への設定開示のし方が非常にうまい。
 決して急くことなく、かといって遅すぎることもなく、物語に沿って主人公二人を追い込み感情移入させながら段階を踏んだ設定開示をしてくれている。
 この作品のよさの一つはそういう丁寧な積み上げによるものだということもできましょう。

 「自分を苦しめる周囲の環境を自分の努力と周囲の力で変化させる」ということは、私にとってはただのファンタジーにすぎません。しかし、この作品を読んだ後のすっきりとした晴れやかな気持ちは、ストーリーの流れに乗せられて「ファンタジー」に感情移入し、物語に自分の心を仮託し、そして進んで行った果てで物語と共にハッピーエンドを迎えたことによって味わえた「世界の変革の夢」の幸せ……ありえないファンタジーをまるであるかのように見させてくれたことで味わえた、可能性の夢であったのではないでしょうか。
 もちろん、世界が自分の力で変えられると信じている人はこの物語によってますます鼓舞され勇気をもらうことでしょう。そういう風に、信じる人にも信じない人にも夢や勇気をもたらすことがファンタジーの一つの役割であるとするならば、この作品は最高のファンタジーと言えましょう。
 とても良い作品だったなあと思うのです。

 どう頑張っても変えられない周囲の環境に追いつめられてバッドエンドになる作品も、実は環境を変えられるということがわかってハッピーエンドになる作品も、おそらくどちらもリアルなのでしょう。その物語を読んでいる間は信じる人も信じない人もお互いの可能性を信じること、夢を見ることができるのですから。

 と綺麗にまとめましたが企画はまだまだ
 2019/07/08(金)23:59
 まで続きます。
 またここでクロスレビューめいたものを書くかもしれませんし、書かないかもしれませんが、Twitterではじゃんじゃん感想を言っていくつもりです。なんか検索規制がかかっててワード検索に全く引っかからないせいで誰も私の感想が読めないのではという不安はありますが……

 ともあれ、まだまだ皆さまのご参加をお待ちしております。
 貴方の素敵な「精神追い込まれ描写」を見せてくださいね。

 ではまた。

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