カクヨム×魔法のiらんどコンテスト大賞作品『恋を知らぬまま死んでゆく』を読んだ感想

 先日フォロワーさんがこれ(『恋を知らぬまま死んでゆく』)を読んでグラグラしていたのを見て、どんな話なんだ…と気になって何度も読もうとしたのですが、その長さに尻込みしてしまい、読む前にタブを閉じることを繰り返した作品でした。
 それを昨日、やっと読みました。

 未読の方向けにどんな話か端的に説明するならば、「恋がわからないと自認する女の子が親友の死をきっかけに恋を理解しようと思って男子と付き合ってみたり色々悩んだりする恋愛ミステリー小説」です。

 兎(本名を覚えていない)がいいキャラだったとか、犬(本名を覚えていない)がちょっと癖のあるキャラクターだったとか、キャラクター的感想はまあまああるのですがそれは一旦置いておきます。

 これを読み終えたとき、率直に言ってモヤモヤしました。

 それはなぜか。

 主人公が最後に抱いた感情が複雑すぎて、「理解できない」と思ったからです。
 友情と呼ぶには重すぎる。
 では恋なのか?
 しかし、主人公自身がその感情は恋ではないと言っている。
 そもそもこの話自体「恋ができない主人公」が恋を理解しようと悩み苦しむ話であって、その主人公が恋をしてしまうとお話自体が破綻する。
 しかししかし、友情にしては異常な執着。

 私は頭が混乱し、恋とは何だ? 友情とは何だ? もう何もわからない……全く理解できないぞ! と思いながらブラウザを閉じて寝ました。

 次の日。
 数時間使ってああでもないこうでもないとモヤモヤの原因を考えた結果、私は自分の物事の捉え方として「恋と友情の間に明確な線引きをしていない」ということがわかりました。

 恋と友情はどちらも同じ「執着」属性であり、友情の感情強度が強まったものが恋であると私は思っているようです。
 その二つの間にこの物語で言っているような絶対的な本質の違い、種類の違いなどはなく、ただ強度が違うだけなのだと。

 まあ、こういった認識は世間一般の「常識」とは違っているような気はします。
 しかし、この認識の違い、おそらく作者さん・主人公さんたちと読み手の私の認識との認識の違いがあったからこそ、私は「理解できない」というモヤモヤを抱えてしまったのではないかと思い、すっきりしたわけです。
 要するに、定義違いです。そもそもの定義が違っていたために理解が違ってしまったというあれ。

 私の定義と作者さんの定義が違っている。よって、書き手→読み手のコミュニケーションは成り立たななかった。
 そう片付けることは簡単ですが、それでは話が終わってしまうので、私の定義からこのお話を見るとどうなるか考えてみたいと思います。

 私。
 恋と友情はどう違うのか?
 恋と友情は強度の差こそあれど本質的に同じ感情である。「恋」「友情」が別種の感情であるという認識は、世間によって作り出されたステレオタイプ、型でしかない。
 ではそれについて悩んでいるこのお話の主人公さんは、ただ世間から押し付けられたステレオタイプに悩んでいる、当人の認識次第で消失してしまうことで悩んでいる、ぶっちゃけ私にとっては無駄なことで悩んでいるのか?

 断じて違うと言えましょう。
 仮にこの私の認識が世界の真実だったとしても、現在の日本社会で「恋」「友情」のステレオタイプは大きな力を持っています。
 そのステレオタイプに己が適応できないと知ったとき。

 日本社会、特に学校などは協調社会です。その社会の「常識」から外れた場合は排斥されたり村八分にされたりしかねない。何より、主人公さんのような年頃の若年層は周囲との差を過剰に気にします。かわいそうなほどに。
 そういった人が周囲の型に自分が適応できないと知ったらどうなるか。

 悩むでしょうね。大いに。

 この悩みは、「恋」「友情」のステレオタイプが力を持ち続ける限り、協調社会が続く限り、当人が周囲と自分との差を気にし続ける限り、なくならない悩みです。
 あって当然なんです。何もおかしくはない。
 だから、「私」の認識をこのお話に適用してみたとしても、主人公さんの悩みは「理解できない無駄な悩み」などではないわけです。

 そこまで考えてようやく、私がこの物語で感じていたモヤモヤがなくなってゆく気がしました。
 共感できずとも、なんとなくですが、「わかった」、腑には落ちたわけです。

 ここまで考え悩ませる本作品、私にとっては確かに力を持っていたと言えましょう。
 好き嫌いはともあれ、読んでよかったとは思います。
 しかしこれほどまでに熱量のある作品を書ける作者さんは天才なのか? 溢れる才能? 迸る情熱? 少し分けてもらいたいですね。カモンカモン!

 とまあ、そんな感じの思考の顛末と結論をもって、感想の締めとしたいと思います。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

(了)

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