だから君たちは尊いのだ
つい今しがた、とてもうれしいことがあった。ほんの10分程度前のことで、まだどきどきしている。多幸感でハッスルしたまま書いているので、今日の記事はいつにも増して支離滅裂なものになると思うけれど、よろしい許してやろうという寛大な御心の方は、しばしお付き合いください。
先ほど、同じ街に暮らす弟一家のところにちょっと届け物に行っていた。弟宅までは車で10分ほどなのだけれど、その帰り道のこと。自宅近くのバス通りを走っていると、視界の隅に白いものがうろうろしているのが目に留まった。
ワンちゃんだ。真っ白で中型サイズ、首輪はしていない。くりっとした大きな瞳が印象的な日本犬だ。体の汚れはほとんど目立たない。(車のスピードを緩めつつハザードを出し停車、までの数秒間で確認)
突然停まった不審車両にびくっとした眼差しを向けた後、私が向かうのとは逆方向に向かって進み始めた。てくてく歩く、というようなスピードで、その辺の匂いを嗅いだりしつつ、少しずつ、少しずつそのお尻が遠ざかっていく。
私は再び車を発進させ、自宅へと続く脇道に入った。その間およそ30秒程度だったと思う。そのわずかな時間で、私の思考回路はフルスロットルで回転していた、と思う。
どうする保護する?いやいやいやうちもうねこ3匹いるし、それ養うので精一杯だよ絶対無理だろ。ねこと違ってワンちゃんはお散歩必須だし、ひとり住まいには荷が重すぎる。いや保護するだけして保健所に連絡……いやいやいやそれも嫌だ、絶対に嫌だ、やりたくない。あ、でもこんな雨の中なのにきれいな子だったから迷子かもしれない。迷子ならインスタとか、いつもお世話になってる動物病院の先生のツテとかで拡散すれば、おうちに帰せるかも……。それまでどうやってうちに居てもらう?2階の洋間なら隔離できるか、冷暖房ついてるし。ねこグッズ移動させないといかんけど、なんとかなるな。でももし、もし飼い主が現れなかったらどうする。うちにお迎えするにしても、ねこたちとの相性が悪かったら。いやそれ以前に私が家族になるのを受け入れてもらえるだろうか。ワンちゃんと暮らすのとか10年以上ぶりだし、責務を全うできるのか?どうする、どうする、どうする…………。
この瞬間に、車にはねられているかもしれない。
車をUターンさせ、再びバス通りに戻る。法定速度で走りながら道の左右に目を光らせる。通り沿いに家が並んでいるエリアまで戻った時に、再び視界の端を白いものがかすめた。いた!
歩道に車体を半分ほど乗せて停車し、どっかのお宅の玄関先で立ちすくんでいるワンちゃんに向かって歩いていく。焦ってはいけない、怖がらせてはならない。この子はきっと、ここに来るまでに既に怖い思いをしているはずだ。ゆっくりと慎重に近づくと、ワンちゃんは私の動きに合わせるようにしてそのお宅の敷地へと入っていく。やっぱり怖いよね、無理もない。でもダッシュで逃げない様子に、希望の糸がまだ繋がっていることを感じて安堵する。
そのまま数分、近づいては後ずさられ、後ずさっては近寄られ、というやり取りを繰り返した。降りしきる雨でどんどん服が濡れていく。ああもう、焦っちゃいかんと分かってはいるけど、一刻も早くなんとかしたい。このままだとあの子、風邪ひいちゃうよ。どうする。ここのお宅のピンポンを鳴らして、ご協力をお願いしてみようか……等と、再び思考がどうするモードに戻りかけた時だ。
一台の車が、私の車のすぐ後ろにハザードを出しながら停まった。中から降りてきたのは、いわゆるガチムチ系のやや強面気味な男性だ。ワンちゃんの姿をみとめて、その強面にぱっと明るい笑顔が広がるのが分かった。
「ああ、よかった!あの、その子うちの近所の子なんですよ!」
「マジすかー!うわーよかったァ~!!」
「ついさっき通り過ぎる時に見かけて、似てるなって思って戻ってきて……」
「うわーありがとうございます!私もさっき見かけて、心配で引き返してきたんです!」
そこからは、ワンちゃんのご近所さんだというその男性と協力し、どっかのお宅の玄関先で両方からはさみ打ちにして、無事ワンちゃんを保護することができた。私だけで対峙していた時はへっぴり腰だったワンちゃんだったが、男性が来てからは「なんかしってるやつきた!」という安心を得たのだろう、いくぶん警戒を緩めて近寄らせてくれた。
男性はご自身でもワンちゃんと一緒に暮らしていらっしゃるとのことで、無事捕まえたワンちゃんを抱き上げる動作にも全く危なげがない。私は抜かりなく、男性に抱っこされたワンちゃんの首筋をモフモフさせていただいた。ワンちゃんはしばし私の手のスメルチェックをした後、何度かぺろぺろと舐めまわしてくれた。ご褒美。身に余りすぎるご褒美。
ワンちゃんを男性の車(かわいい犬用おもちゃが二つほど転がっていた)にお乗せした後、男性はすぐに飼い主さんに連絡をして、無事を知らせてくださった。それから私に向き直り、
「僕ひとりじゃなかなか捕まえられなかったかもしれない。本当、ありがとうございました!」
と、深々と頭を下げてくださった。私は「いやいやこちらこそ、来てくださって本当にありがとうございました!」と告げ、その後お互い何度か頭を下げまくってから帰宅してきた。
これを読んで、確固たる決心も準備も固まらないまま動物を保護しようとするなんて軽率だ、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、今夜、引き返して本当によかった。
あのワンちゃんが無事安心な場所に戻れたことが、本当に心の底からうれしいです。一緒に雨に濡れながら、ワンちゃんを助けようとしてくれた方に出会えたことも。ほんの少しの時間だったけれど、あのご近所さんの心底うれしそうな笑顔から、きっと自分と同じ想いを持つ同志なんだってことが分かります。
その存在がただ無事でいてくれるだけで、こんなにも幸せな気持ちを与えてくれる。
だから君たちは尊いのだ。
トップ画像は、かつて私と一緒に暮らしてくれていた大切な家族。近年はすっかりねこさんに魂を捧げし者として暮らしている私ですが、わんこさんも大好きです。
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