扇橋さん、もっと「たっぷり」聴きたい。
今回は二度目の「東西落語ユニットwe」。思えば昨年の同じ頃、この落語会で私は、入船亭扇橋さんの落語に出会ったのでした。
この日のオープニングトークによると、この会場で落語会をやるときは、トリは必ず上方落語協会の者を(居れば)というお達しがあるらしい。が、昨年は扇橋さんがトリを取ったはず。おそらく真打ち昇進&襲名披露で、許可を取ったか、事後承諾を見込んだか、どちらかだろう。
明烏
とにかく。
私にとっての初の扇橋さんのネタは「明烏」だった。
最初にこのネタを聞いたのは柳家三三さんで、なんてかわいらしいんやろ、と聞いてて惚れ惚れしてしまった。
この日の、扇橋さんのもとても可愛くて、いっぺんに好きになってしまった。
今回は3人の会で、持ち時間はおそらく30分ずつ。オープニングトークのわちゃわちゃの最後にジャンケンで順序を決めたりするなんて中で、扇橋さん、「今日はたっぷりで」とポロっとおっしゃったので、大ネタするのかな?と予感していた流れで、
不動坊
マクラ長めの爆笑ものも楽しいけれど、それは他の2人に譲って扇橋さんは、長めのをお願いしたい。
不動坊。
聞くのは初めてのネタだ。
長屋に住む、独り身の吉兵衛さんだか幸吉さん(後半で「キチコウ」と呼ばれてたので)のところに、大家が嫁取りの話を持ってくる。名前をお滝さんという。
お滝さんは、芸人の不動坊なんちゃらの嫁なのだが、旦那は旅芸人で地方へ出て病で死んでしまった。
悲しむお滝さんだったが、なんと隠れた借金がある。お金を返すために「水掛茶屋へ奉公」に行こうも、年がいっていて受け手もない。困った、と相談を受け、それなら、借金も一緒にお滝さんを貰い受けてくれる者を紹介しよう、と、ここへきた、という話。
吉兵衛さんは大喜び。
それもそのはず、不動坊に嫁入りする前からお滝さんのことは大好きで、「今は事情があって不動坊のところにかりそめの嫁として行ってるだけで、やがて帰ってくる」と、妄想することで自分を慰めていたほどだったのだ。
そのお滝さんを嫁にもらえると聞き、舞い上がった吉兵衛さんは、妄想と現実がないまぜになった状態で、「とにかく身綺麗になって嫁を迎えるように」と諭され、湯(風呂)へ向かう。
風呂ではますます舞いがり、近所の独り身連中を差し置いて自分に白羽の矢が立ったのは、自分以外の全員が、見たくれや商売や手癖に問題があるからだ、と、湯船に浸かりながら大きな声で捲し立ててしまう。
それを聞いていた当の本人の1人が、お滝さんを貰うばかりか自分たちの悪口まで言いやがって!!と怒り出し、輿入れの晩に、亡くなったはずの不動坊の幽霊を送り込み、結婚を取りやめにしてやろう、と企む。
ところがこの3人、大家が輿入れ先に選ばなかっただけあって、揃いも揃って間抜けばかり。ことごとく失敗をして、最後は吉兵衛から祝儀返のお金をもらってしまうほど。
仲間を屋根に上げるところ。これが、もう。
全編通してほんとに素晴らしいのだけれど、私が息を呑んだのは、仲間をひとりずつ、屋根の上に引き上げるところ。夜中の忍び込みだから、階下の2人に気づかれないよう、静かにことを運ばなきゃならない。🗣️声はヒソヒソ声だし、なんなら目と目を合わせてうなづき合うだけの場面が続く。
ハシゴを登って上がってくる。
上にいる者が手を差し出し、握る。
グッと力を入れて引き上げる。
足はついたかい?と尋ねるように目を合わす。
引き上げ終わって一息つく。
これを、ほぼ無音でやっていく。
とくに、「足はついたかい?」と目を合わせるところがたまらない。
まるで扇橋さんの目の前にはホントに仲間がいるかのようだし、ホントにぼんやりとした月明かりしかない暗い夜だし、ギシギシと軋む屋根の上だった。
こんな演芸、世界中のどこにあるというのだろう(いやない笑)。
幸運なことに今日の席は、繁昌亭の、前から三列目のど真ん中の席で、「私のためにやってくれてるのね?」と勘違いできるほど素晴らしい席で、笑う場面じゃないのに、素晴らしすぎて笑い声が出てしまった。
たぶん、多幸感に溢れてしまったのだろう。
若い時に見てたら弟子入り騒ぎだと思った
胸の高鳴りがおさまらなくて、落語でこんなことできるんや!と驚いて、才能以上に稽古の積み重ねとか、じーっと師匠の落語を見てきたんやろなという姿とか、いろいろ想像してしまい、エネルギーは空っぽに。その後のことはあまり覚えてない(申し訳ないです、トリの落語家さん)。
こういう時に、「この人の弟子になる!」って決心して猪突猛進してまうんやろな、と思った。危なかった。扇橋さんの落語との出会い、ちゃんと大人になってからでよかった。若かったら、弟子入り詣をしてしまったかも。
次は、やっぱり独演会に行きたい。
東京まで行くか。
吉田食堂さんが昨年の11月だから、秋ぐらいには大阪に来てくれるかな。
不動坊は、お滝さんの語りを真似する吉兵衛さん、という体裁で、艶っぽい扇橋さんが見れたので良かったけれど、紙入れとか、夢の酒とか、扇辰さんがやってくれた、お初徳兵衛とか、たっぷりと、聞きたいものだ。
あー、「お初徳兵衛」聞きたいな。
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