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待ってました、橋場の雪。

落語好き友達とランチした時の話題。

「正月明け、体調崩して引きこもり生活だったんだけど、三三さんの独演会のおかげで外に出ることができたんよね、あれ、三三さんやなかったら、出かけてないもん」

「でも願わくば、なんだっけ?夢の中でいい女に言い寄られてその気になってついてって、夢が覚めてからその話を女房にして叱られる話が、聞きたいなぁ。あの三三さん好きなんよなぁ」

なんて話をしてたら、かけてくれました、橋場の雪。

橋場の雪

寒い冬の昼下がり、あったかいこたつにあたりながら湯豆腐などつついて昼酒を飲んでる若旦那。ついうとうとしていたところ、そんなところで寝たら風邪引きますよと、女房が心配して揺り起こしてくれる。

夢を見ていた旦那は、夢の続きをふと口にする。話の内容がなんだか気になった女房は、聞かせてくださいな、とせがむ。内容が内容だけに躊躇するが、夢の話じゃないですかとせがまれ、それなら、と話し始める。

夢の始まりは、この昼酒だったらしい。現実と同じように一杯やって気持ちよくなった頃、だんな、みなさんお待ちですよと太鼓持ちが迎えにくる。そんな約束してたかな、と思いながら、誘いのままにお座敷へ向かう途中、ある女に出会う。

いい女だなぁと見とれていると、相手の女は最近ご亭主を亡くした後家さんで、夫はあなた様に瓜二つだと恋しがる。

一度は約束があるからと断ったものの、座敷の帰りに橋の向こうを見ると、その女が待ち侘びて、手招きをして呼んでいる。小僧の定吉に船を漕がせて橋向こうに渡り、雪を訳に女の屋敷にしけ込み、夜を明かしてしまう。

とここで、あなたひどい!と、泣き伏せる女房。

もちろんこれは夢の話。ただ、あまりにもありそうな話に若い女房は気が気ではないのだ。大旦那に泣きつき、本当にそんなことになったらこの家はどうなるのか、と旦那をなじり、舟を漕いだ定吉まで叱られる始末。

夢の中の不貞にまでヤキモチを妬く可愛い女房ということか、若旦那はさして気にすることもない様子で、定吉に肩を叩いておくれと頼み、またうつらうつらと夢に向かう。定吉も釣られてウトウト。それを見つけた女房がひとこと。

「まぁひどい!また定吉が舟を出してる」

待ってました!


マクラからの切り替わりで、湯豆腐、昼酒、いい気持ち、と始まった時にキタキタキタキタ!と身震いした。
三三さんの出番の時に威勢よく「待ってました!」の声を掛けたおじさまに、いやマジそれな!と握手を求めたい気分だった。

何がそんなに好きなのか。

このお話が好きな理由を改めて考えてみた。

夢の中の出来事を、さも本当のことのように話す若旦那さん、話が上手い上手い。これ、三三さんじゃなかったら誰ですか?というほどに上手い(三三さんが演じているので当然と言えば当然だが)。

聞いてる途中で客席の私まで思うのだ。あれ、コレって本当にあった話なんじゃない?定吉も大旦那もグルなのでは?手の込んだ遊び隠しなんじゃない?って。

「若旦那、うまくごまかせましたね」とか、
「お前、もうこの手は使えないぞ」
とか、
「たまには本当に太鼓持ちに来てもらうか」

なんて台詞がどっかで出てくるんじゃないかと妄想しながら聞いてるのも面白いのだ。そのぐらい、情景描写のお話が良い。目の前に浮かんでくるよう。

揺り起こされ、夢の中の話をせがまれて話し、泣かれ怒られた若旦那だが、反省の色などつゆほどにも見せずにまた居眠りを始める。今度は定吉も一緒だ。見つけた若女将は、またしても気が気じゃない。

「もう!またあの女のところへ行ってるんですね!!」と叩き起こすに違いない。そして性懲りも無く話し出すのだ、この若旦那は。ヤキモチを妬かれるのを楽しんでいるに違いない。

今度はどんな夢を見てるのか。お話の世界では無限ループで続いてる。そんなところが、好きなんだな。

※お話の筋は調べ物もせずに記憶のままに書いてますので、実際と違うところが多々あるかと思います。

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