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<スペシャル対談>住友不動産×eiicon×WizWe「グロース虎ノ門」で語るオープンイノベーション支援とその未来

WizWeは、2023年7月1日に、住友不動産株式会社様が開設したインキュベーションオフィス「グロース虎ノ門」に入居しました。

今回はそのご縁から、スタートアップ企業の成長をサポートする事業を手掛けている住友不動産株式会社の藤島正織氏と、WizWeと同じく「グロース虎ノ門」に入居し、オープンイノベーション支援のサービスを展開されている株式会社eiicon の中村亜由子氏をお招きしての対談です。

大規模なイベントを開催されているお二方に、オープンイノベーション支援事業を始めたきっかけやイベント開催に対する思い、今後のビジョンなどについてお話を伺いました。

・住友不動産株式会社
    ビル事業本部 グロースサポート事業部 部長 藤島 正織 氏
・株式会社eiicon 代表取締役社長 中村 亜由子 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平

住友不動産の資産を活用することでスタートアップエコシステムにお役立ち

森谷:住友不動産様が、インキュベーションオフィスの開設やビジネスマッチングイベントの運営を始めた理由を教えていただけますか?

藤島氏(以下、藤島):当社は不動産会社として東京で多数のビルを所有している企業です。その資産を活用して、不動産業界としてスタートアップエコシステムにお役立ちできればと考えています。政府のスタートアップ5か年計画ともマッチしており、東京で所有しているビルには大規模なビルも小規模なビルもバリエーションが非常に多く、比較的手ごろな価格のものも取り揃えているため、シード・アーリー期からお付き合いさせていただいて、次の日本を背負っていくスタートアップ企業を生み出せればという流れです。

森谷:初めてこの構想を伺ってから、「虎ノ門サミット」や大規模な「住友不動産ベンチャーサミット」を開催するに至るまで、非常に迅速でしたね。

藤島:森谷さんにお話をしたのは2022年の12月ですね。その頃は、正直全く見当もつきませんでした。しかし、当社は将来的に再開発する予定のビルをたくさん保有しており、再開発が始まるまで10数年は使われていないというケースが多くありました。そういったビルを安くインキュベーションオフィスとして提供してもいいのではないかという意見がトップ層から出され、実現可能な流れが生まれたというわけです。

森谷:場の力という感じですね。オープンイノベーションのマッチングのようなことも、もともと考えていたのですか?

藤島:イベントは以前からやりたいと思っていました。これまでは他社主催のイベントに参加型で関わっていましたが、自ら主催するようになったことで、関わる人が増えましたし、関わりがより深くなりました。

森谷:eiicon様の「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2023」も住友不動産様の会場で開催されましたよね。

藤島:イベントを開催するのであれば当社も何かお手伝いできればと、場所で関わらせていただきました。

中村氏(以下、中村):すごく優しい値段で貸していただきました。本当にありがたかったです。今年もやりますのでよろしくお願いします。

森谷:「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2023」にはピッチとブース展示で参加したのですが、今後の共創につながる出会いが生まれました。

中村:それはうれしいです。ありがとうございます。

eiiconが目指すオープンイノベーション支援

森谷:eiicon様は、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」を運営していらっしゃいますが、どうしてオープンイノベーションに関わり始めたのですか?

中村:当社の事業は、2015年にパーソルグループの中で新規事業として起案したところがスタートです。日本企業は他社との共創や協業が上手くない。もっと言うと苦手、と感じていたところが発端ですね。

起案当時、知人が社外連携をしようとしているタイミングでそのやり方・方法を間近に見る機会があったことから、強く課題意識を持ちました。苦労している姿を見て、もっと効率的で適切な方法があるのではないかと思ったのですが、当時は情報もあまりなく、紹介してもらうための手付金がかかるようなビジネスが少しあるといった状況でした。

手を携えて事業を創る方法がオープンイノベーションなので、まず出会うことにお金がかかるのであればなかなか浸透しないのではないか、探索に時間がかかるのはナンセンスではないか、そんな思いから、自分で作ろうと思ったところからスタートしました。

森谷:「AUBA」の参加企業はスタートアップがメインなのでしょうか?

中村:いえ、「AUBA」はオープンイノベーションという手段を用いる目的をもったあらゆる「企業」が参加できる仕組みにしています。現在、累計3万社の登録があり、そのうち半数は中小企業で約1万5000社です。スタートアップが1万社ほどで、残りの5000社は大手企業や産学官、自治体などが含まれています。

藤島:スタートアップはイベントに参加してピッチ登壇する機会も多いですが、中小企業はそういうチャネルがなかったのではないかと思います。「AUBA」のようなサービスが出てきて、いい感じに当てはまったのではないでしょうか。

中村:月額10万円でサブスクリプションのプランも展開しているのですが、おっしゃる通り、各地域でイノベーターと呼ばれるような企業様、2代目や3代目の跡継ぎ経営者の方も多く使ってくださっていますね。

中小企業様の中でも中規模以上の企業様が多いのですが、実際ニッチトップのビジネスをされている企業様も多く、中小企業とスタートアップのマッチングでとても面白いプロジェクトが生まれていますね。

森谷:全てオンラインで完結するのでしょうか?

中村:はい、オンラインでサポートをしていく仕組みを確立しています。オンラインでの面談もサポートには組み込まれているので、オンラインコンサルタントが月1回サポートもしていますが、次はこれをしよう、アクションが足りていないなど、プラットフォームを使っていくと、システムからいろいろと指示をされる仕組みになっています。

藤島:自動的に通知が行くようになっているのですか?

中村:はい。最初にプランやゴールを選べる形になっていて、1年に2つ事業を生み出したい、1つは実証まで持っていきたいなどプランを選べます。
そのゴールに合わせて、ここまでにこれをやりましょうという指示が順々に出てくる仕様になっています。アクションが遅延したり、要素が足りない場合はアラートがいく仕組みになっています。

森谷:eiicom様はイベントも相当数開催されていますよね。

中村:多い月だと、月50~60本は開催していることもありますね。1日に複数カ所で同時進行していて、小さいウェビナーなども含めると気づいたら月100本ほど開催していたこともありました。

藤島:主催でその本数を開催されているのですか?

中村:ほぼ主催ですね。特に地方や中小企業の方々は、実際に体験したりリアルな話を聞いたりすることが重要なので、クローズド型の勉強会を開催して情報交換の機会を作っています。また、成功者を呼んでセミナーを行う形式もオープンイノベーションの理解が進むので有効です。

森谷:私は「eiicon meet up!!」のピッチに登壇させていただきましたが、すごく熱量が高かったです。最近はリアルのイベントが増えている感じですか?

中村:当社はウェブのプラットフォームを提供していますが、リアルなイベントも大切にしています。「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2023」もオンライン併用で開催すれば、より多くの集客を見込めたと思いますが、それでは意味がないということでリアルだけで開催しました。やはり、体感してもらうことが大事ですね。

藤島:イベントは偶発的な出会いがあり、そこで何かが発展することがありますよね。普段出会わない人々と交流できるリアルイベントはすごくいいと思います。当社はイベントホールを所有しているので、そこでもスタートアップエコシステムにお役立ちできると思っています。企業様との共催イベントなどもどんどんやっていきたいですね。

森谷:「虎ノ門サミット」もかなり頻繁に開催されていますよね。

藤島: 月1回ペースで開催しました。本当に手探りでいろいろ失敗もありました。「住友不動産ベンチャーサミット」も改善しなくてはいけない部分があると感じています。

中村:意外ですね。どこが改善ポイントですか?

藤島:時間のメリハリがなかったところが一番の失敗でした。次々と進行してしまったので、一回区切って、名刺交換をしていただく時間を作ればよかったと思っています。他にも細かな失敗がいくつかあります。引き続き改善していかなくてはと思っています。

開催してよかったと感じたのは、当社のビルのテナントに大企業が入っていることもあり、「スタートアップのイベントには来ていないような事業会社が結構参加している」との声をいただいたことです。

中村:審査員がすごいメンバーでしたよね。

藤島:ありがとうございます。「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2023」も通常は参加しないような方々が結構いらっしゃった印象があります。

中村:敷居を極力低くし、誰もが体験できるようにしたいと考えています。そのため、中小企業の方々も積極的に参加してくださっています。

森谷:eiicon様は数多くのイベントの中でも「JAPAN OPEN INNOVATION FES」に焦点を当てていらっしゃるのでしょうか?

中村:日本において経営者カンファレンスが増えつつある中で、私たちはCES(Consumer Electronics Show:世界最大のテクノロジー見本市)やVivaTech (Viva Technology:パリで毎年開催されているオープンイノベーションカンファレンス)のような、イノベーションのトップであり、普通の人たちが参加できる展示会を開催したいと考えていました。

実はそういったイベントがあまりないのではないかということで、「JAPAN OPEN INNOVATION FES」を開催することになりました。“オープンイノベーションを実際に体験できる” “イノベーションの展示会”という状態を作りたいという話はしています。

藤島:確かに、イベントに特色がありますよね。コラボ企業同士が共創の成果についてピッチをする「COLLABORATION BATTLE」がすごく新鮮でした。こういうイベントはなかなかないと思います。

中村:ありがとうございます。2024年も9月に開催する予定ですが、次回は新しい仕掛けをいくつも設計中です。

森谷:前回までとはだいぶ違いましたか?

中村:コロナの影響で、前回までの数回はオンラインで開催していましたが、もともとはオフラインにこだわっていました。参加者がその場からいなくなる時に、オフラインの場合は会場を出ていかないといけませんよね。出ていくまでの間にも目に入るものがあって、興味を引かれれば立ち寄る。そこが展示会の醍醐味だと思っているので、その点で今回のリアル開催は非常にやりたかった動線になったと言えます。

森谷:どちらのイベントもブースがありましたが、その場で商談ができたり、ブースでお話しした後に商談が進んだり、非常に効果的でした。リアルな参加が推奨されるイベントは素晴らしいですね。

ネットワークの重要性

森谷:「JAPAN OPEN INNOVATION FES」の登壇者の方々はすごい顔ぶれでしたが、いつもどのように集めていらっしゃるのでしょうか?

藤島:ネットワークがすごいですよね。

中村:最初からそんなに多くの方々と繋がっていたわけではありません。事業を起案し、進めていく中で、多くの方々にご相談させていただいたことがきっかけになっているように思います。皆さん本当に理解があり、優しく接してくださったので、育休中に起案した事業なので子どもを抱えながら会いに行って、壁打ち相手になっていただいたりしていました。

森谷:その当時の出会いが、今も生き続けているということですね。本当にすごいです。

中村:今振り返ると、多忙な方々が惜しみなく助けてくださったのだなと感じています。

森谷:まだ大手企業にお勤めの頃のお話ですよね。そのバイタリティーはすごいと思います。

中村:ありがとうございます。みなさん優しくて、本当にありがたかったです。

森谷:藤島さんも、1年以内ぐらいで「住友不動産ベンチャーサミット」を開催しましたよね。どうやって進めていったのでしょうか?結構プレッシャーがあったのではないかと思うのですが。

藤島:私一人が手掛けたわけではなく、以前からイベントを手がけていた社員のネットワークがあったり、ビルに入っているテナントさんにキーマンがいらっしゃったりという、会社としての蓄積があってのことです。ですから、今回のイベントはゼロからというわけではなかったですね。

森谷:集客できる自信はありましたか?

藤島:やるって言ってしまったので……。正直自信はなかったです。

中村:映像もすごくかっこよくて、素晴らしいなと感じながら見ていました。

藤島:実はその映像はテナントさんに作ってもらいました。そういうサポートに助けられました。

森谷:先ほど反省点はあったというお話がありましたが、プラス面も結構あったのではないでしょうか?

藤島:自ら動くことで、ネットワークがより広がったのが一番のプラスでした。参加するのと、自ら開催するのとでは意味合いが違うと感じました。

森谷:一気に広がる感じですか。

藤島:そうですね。そこでの出会いから、次につながるような話があったりしますので、やってよかったなと思います。

森谷:中村さんもイベントを自ら立ち上げて運営されていますが、自分でやると全然違う感覚がありますか?

中村:そうですね。日本は島国ということもあってアクションを起こすと伝わる速度が速いのだろうと思います。そして、本当に優しいですよね。何かを始めるとき、門戸をたたいても袖にされない感じがあります。メディアを立ち上げたときも、特にメリットがあったわけではなかったと思いますが、皆さんが快く取材に応じてくださいました。頑張っている人を応援しようとする国民性があるように思っています。

森谷:アメリカなどでは、ディスラプター対大手のような対立がある中で、日本は大手がスタートアップと協力しましょうという空気感があると思っています。

中村:もともと、戦後の高度経済成長では、ヨーロッパやアメリカを見て、クローズドでやってきた経緯があるため、クローズドな部分が強いと言われることもありますが、戦前まで遡ってみれば、基本的には共助が根付いていました。みんなで協力して物事を進める文化があり、本当は得意なことを持ち寄って新しいものを作り出すことに長けている国だと思っています。

森谷:私たちが習慣化サポートで裏側から入るためには、大手企業との連携が必要になってきます。大手企業のフィロソフィーやスタートアップを推進する姿勢は、非常に助けになっています。

藤島:WizWeさんは、生命保険会社やフィットネス企業などとオープンイノベーションの取り組みをされていますが、どのような流れで進めているのでしょうか。

森谷:マーケティング戦略としてイベントに出展していますが、非常に効果的です。そこにリアルで人が集まりますので、ピッチに登壇しサポート側で黒子的な役割を果たすので協力したいと熱意を伝えると、キーパーソンの方との名刺交換につながって、そこから話が進むことがよくあります。オンラインよりも圧倒的にリアルな場での交流が重要です。本当にすべてがイベントから派生しています。ピッチと展示会が一番の接点になっていますね。

オープンイノベーション支援:今後の展望

森谷:今後のビジョンについてお伺いします。中村さんはいかがですか?

中村:当社は、オープンイノベーションを日本社会全体にインストールさせることを目指している組織なので、オープンイノベーションが企業の一般的な手段になる状態を思い描いています。企業が新規事業や売り上げの柱を構築する際に、オープンイノベーションが手段の一つとして当たり前に取り入れられるようにしたいですね。地方企業、大手企業、スタートアップなど、さまざまな企業にオープンイノベーションを組み込んでもらうことに力を入れています。

森谷:それがうまくいくと自己増殖していきそうですね。まさにプラットフォーマーですね。

中村:そうですね。将来的にはeiiconとしてアジアのマーケットに進出し、アジアのスタートアップもどんどん参加できるようなプラットフォームにしていきたいと考えています。

森谷:私たちも習慣化の仕組を輸出したいと考えています。特にヘルスケア分野においてですが、日本の先進的な課題解決ができる安価なソリューションがあれば、それを世界に輸出できる可能性があります。特にアジアは注目すべきでしょうね。

中村:ベトナムなどは高齢化が進んでいますから、そういった市場での展開も考えられますね。

森谷:実際にベトナムの展示会には行ってきました。

藤島:習慣化の分野で海外に競合は存在しているのでしょうか?

森谷:現時点ではまだ存在していないようなので、早めに取りに行った方がいいとは思っています。今はまだリソース的に難しい状況ですが、海外展開は頑張って進めていきたいですね。

森谷:住友不動産様は今後どのような展望をお持ちですか?

藤島:オープンイノベーションの場として保有しているアセットを活用したいと考えています。イベントやインキュベーションオフィスなどを通じて、これからの日本を背負っていく企業の誕生をサポートしていくことが、理想の姿だと思っています。

森谷:「グロース虎ノ門」に入居して集積のパワーを感じますね。スタートアップの社長が同じ場所にいるので、実際立ち話でお客様を紹介し合ったりしていますよ。

藤島:ありがとうございます。インキュベーションオフィスも増やしていきますし、イベントも続け行きますので、かなりの規模になっていくと思います。

中村:でも、私たちは2年しかいられないですよね(笑)

藤島:皆さん2年後にはここでは足りないくらいに大きくなって卒業されていると思っています。インキュベーションオフィスは期間限定ではありますが、私たちができることを積極的に進めていきたいと思っています。

森谷:「グロース虎ノ門」という2年間のアクセラレータープログラムということですね、きっと。

中村:アルムナイ(卒業生)になる予定です。

藤島:ありがとうございます、そう言っていただけるとうれしいですね。「グロース虎ノ門」以外にも、SBIさんと連携して「グロース六本木」を、グロービスさんと連携して「G-STA SQUARE」を開業したり、他でも複数のお取り組みが進んでいたりします。これらをどこかで掛け算して、コミュニティーを作っていくと面白いことができるのではないかと思っています。イベントもその一環ですね。

森谷:掛け算することですごく広がっていきますよね。

藤島:使われていないビルがたくさんある中で、このような使い方を進めていくことが、再開発を手がける不動産業者としての価値提供だと思っています。