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5.自由を奪わない

矯角殺牛:「角を矯めて牛を殺す」という故事成語があります。つまらない細部の欠点を治そうとして、全体の価値を大きく損なうことです。

ヒトでもイヌでも、我流の「しつけ」で子どもがあるいは愛犬がおかしくなってしまうことはよくあることです。特に「罰を使うしつけ」ではこのリスクが高くなります。

イヌにも奪ってはならない「自由」があります。物理的な身体の自由もさることながら、精神的な思考、想像の自由も含まれます。傲慢な「ヒト」による押しつけのしつけは、そのイヌの「自由」を奪う危険性が非常に高くなります。

昨今、多くの盲導犬育成現場では、イヌに考えさせることそして楽しさを経験させることを重視しています。「視覚に障碍のある方を安全に導くわけだから、相当厳しいしつけや訓練が施されているのだろう」という安直な想像するのは巷にあふれかえっているのですが、訓練の現実からはほど遠いただの憶測に過ぎません。盲導犬として育成された多くのイヌたちが、たとえ盲導犬という仕事を与えられなくとも、立派な家庭犬となって世に送り出されているのは、幼いころからこんな環境で生きていられたおかげなんですね。

イヌにルールを教えることは必要ですが、ルールを押しつけることは逆効果です。考える自由を奪われたイヌたちはどうなるか……、混乱に陥り、飼い主不信に陥り、ひどい場合は「学習性無力感」に陥ってしまいます。自分で考えたところで否定されることが続くわけですから、考えることを放棄するのは当たり前ですよね。もうしつけや訓練など入り込む余地もなくなってしまうわけです。

押しつけしつけは、ほとんどの場合愛犬のことを考えて行われているのでしょう。素人は素人なりに頑張ろうとしているのでしょう。でも、イヌのしつけで一番やってはいけないこと、それは、イヌたちの思考や情動の自由を奪うことだと思うのです。


科学的思考を育てるドッグトレーナースクール ウィズドッグアカデミー