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遥か空の星の故郷。

ずっとアップしたかった話です。
裁定者ゾーフィ。その妻と子供達。
といっても、子供達は実子ではありません。
妻も、元はそういう存在ではありません。
ネックになるのは、ミーア。
うちの子達が言ったひとことが発端で、水星の魔女をBGMに
描き始めました。
拙い話で、続きものになるか、わかりませんが。
では、はじまりはじまり。

「あのゾーフィが⁈」
「ああ、妻を娶ったらしい」
光の星の人間達はざわついた。
「あの裁定者に、そんな存在がいたとはな。他者には何の興味も
持たない男だと思っていたのだが」
「1人いたじゃないか、例のー」
「リピアか」
「その名前は、永久凍結した。口にするな」
「永久封印だぞ、間違えるな」
「何にせよ、あの男に配偶者ができたというのなら、今まで押し付けてきた
厄介ごとは任せられなくなる。光の星に呼び戻すか?」
「その件だが、本人が職務は今まで通りこなしていくので問題ないと申し出たそうだ」
「では、どこに居住する気だ」
「惑星ロジンと言ってたが…」


光の星から遠く遠く離れた惑星ロジン。
一面の草原と風の音しかない辺境な星。
だが、静かで落ち着いた場所でもある。

草の間から、ヒョイっと矢が飛ぶ。
だが、すぐ草むらに落ちてしまった。
「うまくいかないなぁ」
渋い顔をして、弓を抱えて、矢を拾いに行く金色のボディに黒のラインの子。

そして。

自分の背より高い草の間をガサガサと走って来る
ピョコピョコと垣間見える銀色の頭の子供。
「おにいちゃーん」
「ミーア」
ミーアと呼ばれた女の子は、兄・エンヤにしがみついた。
「今日、おとうさん、帰ってくる日だね」
ミーアは嬉しくて仕方ない。でも、エンヤは違っていた。
「…あいつの事、おとうさんって呼ぶなよ」
「だって、おとうさんだもん。じゃ、おにいちゃんはなんて呼んでるの?」
エンヤは小さな声でゴチャゴチャと呟く。
「ねぇ」
ミーアはエンヤの顔を覗き込んだ。
「ミーアはおとうさんって呼べばいい!おれはゾーフィって…」
エンヤはブチブチと言う。
「嘘つきー。おとうさんって、呼んでる時あるの知ってるもん」
おもしろそうにミーアはくるくると笑う。
本当はエンヤは、おとうさんが大好きな事を知っているから。
「知ってるなら言わせるなよ」
「だってー。あっ、帰ってきた!おとうさーん」
空から、小さな球体の金色の光が降って来て、ゆっくりと草原に人型が降り立つ。
裁定者ゾーフィだ。
「おとうさーん、おかえりなさーい」
「ただいま、ミーア」
駆けてきた小さな娘をゾーフィは抱き上げる。
ミーアはゾーフィに抱きついたが、素直になれないエンヤは一歩離れた所で
見ていた。だが、少しずつ歩を進めて、ゾーフィに近づく。
「…おかえり…ゾーフィ」
小さな声で照れくさそうに呟く。
「ただいま、エンヤ」
ゾーフィは、エンヤの頭を撫でる。エンヤの頬が赤く染まった。

不思議な感情だ。
ゾーフィは、子供達と語らいながら感じていた。

自分に家族がいる。
個で完結している光の星の者には、必要のないもの。
だが、
こんなにも穏やかで、温かい気持ちになれるとは。
戸惑いもある、わからない感情が湧き上がる事もある。
でも、小さなこの子達が可愛く、何よりも愛おしく、大切に思えるのだ。
そしてー。

「母さんはどうしてる?」
ゾーフィは、ミーアに尋ねた。
「お花畑にいるよ。おかあさーん、おとうさんが帰ってきたよー」
うっすらと見える姿に、小さな娘は手を大きく降って合図する。
「あいつ、ずっと待ってたんだぜ、ゾーフィが帰ってくるの」
エンヤはゾーフィの手をキュッと握りしめた。
母は、自分たちといながら、時折り遠くを見ていることは知っていた。
寂しかった。
自分達じゃダメな事だってある。わかってるけど…。
そんな時はゾーフィがいてくれたらと、エンヤはずっと思っていた。
「じゃ、お前も私の事をゾーフィじゃなく、父さんって呼んでもらえないかな?」
ゾーフィはエンヤの顔を覗き込んだ。
「交換条件かよ」
エンヤは不貞腐れた。

ヒメイワダレソウの中に居るのは、銀色のボディに赤のラインの細くしなやかな身体つきをした女性体。
青く広がる空を仰ぐ眼は、遙か遠く今はいない誰かを思うようだ。
「リピア」
ゾーフィが自分を呼ぶ声に我に帰る。
「お帰りなさい、あなた」
かすかに優しく笑う口元。
永久封印された、「あの存在」だった。

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